「ハァ…ハアッ…!!」

裏路地を逃げ回ってひたすら海へと走った。
ここみたいに小さな島だと、どこに行っても潮の匂いがするから頼りは音しかない。しかしその音も、大通りの雑踏と喧騒と、私の世界で言う高気圧による強風とで全く拾えなかった。
土地勘の無いこの島での頼りは、勘のみ。

「あ、はあ、ハアッ、クソッ」

迷路のように入り組んだ裏路地で土地勘の無い私が逃げ切れる確率はそう高くない。
曲がった先は袋小路、行き止まりだった。

「ハァ、ぁ、も、さいあく」

「おらどうした、追いかけっこはもう終わりかァ?」

「手間掛けさせやがって」

「まあ良い暇つぶしにはなったがな。ありがとよ、嬢ちゃん」

「は、もう、…あんたら、そんなに私が好きなら、私中毒にしてあげるわ」

「ああ?」

「股開く気にでもなったかクソビッチ」

「はは、あんたら相手に濡れないけど足腰立たなくしてあげる」

奴らの喉に塩化水銀2価を、奴らの周りの空気中には水銀蒸気を発生させる。念には念を、保険はいつも掛けておくべきものだ。

「あッなんだ、喉が…!!」

「カハッ、あ、血だ、血が!」

「てめ、なに、しやがった」

「ひ、息が、ヒュッ」

「言ったでしょう?私(水銀)中毒にしてあげるって」

「カッハ、ぁあ、あ、」

「もう喋れないでしょ?…ほんとはこんなエグい事したくなかったけど、ごめんね、あんたらしつこい」

「う、ぁぁあ、」

「じゃあね、ばいばーい」

来た道を駆け足で引き返す。後ろから吐瀉物が石畳に落ちる音やうめき声が聞こえた。



今日の天気は晴れ
しかし島全域で夕立が降るでしょう


加えてこの強風、他に被害は及ぶまい。

金属水銀は地中に落ちて埋蔵物に戻るのです。



■■■■■

ハグハグ(HgHg)の実を食べた水銀人間の女性のお話でした。
化学が好きです。OPトリップ中編を練っているのですがなんせ受験生…思いの丈をぶつけたお話です。
わたしがOP書くとしたらこの元素シリーズ(?)になると思います。

20120429


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