「相変わらず研究熱心なことで、クソナードちゃん」
「ハッ、無個性の癖に」
今日も、大事な幼馴染みに心ない言葉を浴びせるやつがいる。

……そいつも幼馴染みなんだけど。

「またいずくんをいじめて!最低!!」
「そ、そんなに怒らなくていいよ……」
「ヒーロー目指してるんなら、みんなに優しくないと!」
「あ"?弱ぇやつに現実教えてやんのも優しさだろうが」
「りんちゃん!もういいよ」
「……」

いずくんの方を見ると彼は顔を伏せていた。
キッと爆豪勝己ことかっちゃんを睨む。
彼も負けじと睨み返してきた。挑発のように手の平を軽く爆発させている。むかつく。
「かっちゃんなんかだいっきらい!!!」
最後はいつものように、あたしが彼にそう叫んで終わった。ふんっと最中を向けて歩き出す。最後に舌打ちが聞こえた。



「いずくん、気にしちゃだめだよ」
「……かっちゃんの言うこともわかるんだ」
「……」
「でも、ヒーローになるのは諦めないよ」
「!、うん!!」


超人社会。

今の社会をいつからか誰かがそう呼んだ。
ほとんどの人類が『個性』と呼ばれる超人的な力を身に付けて生まれる社会。


ある者は、怪物に変身し
ある者は、物を動かし
ある者は、テレパシーを使う

そんな社会で、あたしには表立った個性は見当たらなかった。

それでも、病院での検査で小指の関節がないことがわかり、個性は宿っていると判断された。
自分でも個性を使うという感覚はないけれど、母から幸運という個性を受け継いでいるのだと医者から言われた。

母の個性は幸運。ただただ運が良い。懸賞は必ずと言っていいほど当たるし、宝くじも当たったことがあるらしい。
ちなみに、父の個性は金縛り。一定範囲の他者の動きを止めるというものである。

ただ、あたしの運は母ほど良くない。つもり劣化版なのだ。
目では見えない個性、自分でもハッキリとはわからない個性をあたしは上手に人に説明できなかった。
それ故に小学生の頃、無個性とからかわれたこともあるし、それが原因で仲間外れにされたこともある。
だから、いずくんを苛めるかっちゃんが、あたしは許せない。個性がないにも関わらず、努力をしている彼を否定することが許せないのだ。


これは、そんなあたし達3人がそれぞれのやり方でヒーローを目指すお話である。