ある、過ごしやすい気候となってきた晩のこと。


今にも星が降ってきそうな満点の星空を見上げ、晩酌に舌鼓を打っていた兵士が手にしていた盃をポトリと落として言った。


「星が墜ちてくる」


畳に染みる酒、転がる盃をそのままに城の一室を飛び出した。縺れそうになる足をどうにか叱咤させ半ば転がるようにして廊下をバタバタと走る。

目指すはこの豊臣軍の軍師・竹中半兵衛の部屋。恐らく彼ならばこの時間でも起きていることだろう。


角を曲がり階段を登りまた廊下を走る。漸く目的の部屋が見え、ホッと安堵し歩みを緩めた。その刹那、轟音が鳴る。


何かが落ちる音、そして地響き。

立っていられず、縋りつくように近くにあった柱へとしがみ付く。地震や戦場での馬や人が引き起こす地鳴りとは違い全身を震わせ潰さんと言わんばかりのそれに息が詰まり、得体の知れない恐怖が迫る。


そう長くはなかったのだろうがやたらと長く感じた地響き。あれだけ盛大であれば誰もが起きてくるというもので。

目的の人物も例に漏れず、自室の障子を開けて廊下に姿を現した。

「た、竹中様!夜半に失礼致します、ご報告したい事が…っ!」

「構わない。…今の地響きについてかい?」

「は…っ。何分事が起こる前にこちらに参上致しましたので詳細は不明ですが、恐らく星が落ちたものと…」

「星が…?どういう事か説明してくれないかな」

「はい。某が自室にて夜空を眺めながら晩酌を致しておりましたところ、見上げておりました空から星がすぅっと流れました。訝しんで眺めておりますればだんだんと此方に近付いて参り…。これは一大事とご報告に参った所存にございます」

「成る程…。ならすぐにでも情報を集めて調査隊を組んで向かわせたほうがいいな。ありがとう、君は部屋に戻ってくれたまえ」

「はっ!」


一礼して下がっていく男を気にするでもなく半兵衛は考えるように手を顎に当て夜空を見上げる。
どうしてだろうか。月はあるのに、星が一つも見えなかった。

.
[ 2/30 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -