慶長5年 9月15日 美濃国 関ヶ原にて


日の本を東西に分断する戦が、今正に終結しようとしていた。戦力では西軍が勝っていた。しかし同じく西軍の将である小早川秀秋による裏切りにより戦況は一気に東軍側へと傾く事となる。

次々と討ち取られてゆく武将たち。

その報告に耳を塞ぎたくなる。特に唯一無二の友人である大谷吉継が討ち取られたと聞いた時は…。
抉られ、もう傷付かないと思っていたハズの心が戦慄くほどだった。

満身創痍なその状態で何故動けているのかと言えば。悲しいかな憎しみの力以外の何者でもなかった。


「…っ家康ぅうぅぅーーっ!!!」

「三成ぃーー!!」


気力で足を動かし、死力を尽くし腕を振るい技を繰り出す。が、前述にある通り三成は既に満身創痍。それで技を浴びせようとしたとてたかが知れている。

するりと飛び交う無数の斬撃を躱し宿敵・徳川家康が眼前に迫る。そして重い拳が打ち込まれようとしていた。食らってたまるかと愛刀の刀身部分を盾にするように素早く防御する。間に合い、家康の拳が刀身を穿つ。口角が緩みそうになるのも一瞬、刀が鳴いたと思えばバキンと嫌な音を立てて折れた。

その様子がどうしてかゆっくりとして見えて。

僅か目を見開いた瞬間家康の拳が三成に届く。鎧を肉を骨を叩く不気味な音が耳と体内をついた。

あぁ、骨が折れたなと何故か冷静に思えば勢いそのままに後ろへと吹き飛ばされる。

受け身を取ることも出来ず成す術なく背中から叩きつけられるが、痛みは感じなかった。もう限界なのだろうと静かに悟る。


「(秀吉様… 半兵衛様… ………形部、)」


亡くしてしまった主、逝ってしまった師のような人、憎しみに付き合ってくれた友。

敵討ちと銘打って旗を上げたのに、それが叶わなくて申し訳ない。悔しい。最早指一本動かすことが出来ず、ただゆるりと死を迎えるのみである。そんな三成がふと空の存在を意識した。


もう夕刻を過ぎ夜が来ようという時刻。橙色の夕空は彼方へ追いやられ、天上には濃紺が丸みを帯びて広がってゆく。
顔を出し始めた星々の中で一際大きく輝く星が映った。あの日、スピカが帰った晩に見たものと同じ星。


「…そうか、また会えるのか」


星になればお嫁さんになってあげると、生意気にも言ってきた彼女。

そうか、寂しくはないのか。逝けばきっと皆向こうにいる。そこで謝罪をして、昔のように茶会を催そう。そうして彼女が妙齢の女性に育った頃に祝言を上げて…。
あぁ、たのしそうだ


きゅっと瞳を細め、ゆるりと口角を上げる。


「いま、いく」


その男の最期を悲しむように、一等星が瞬いた。

end.
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