官兵衛と
話は以前聞くだけは聞いていた。

けれどどうせ冗談だろうと。話を面白くする為に盛っているのだろうと思っていた。
実物の星を見るまでは。


『…………。』

「…………。」


出会ったのは全くの偶然。
面倒だが書庫に必要な資料を取りに行く途中のことだった。通り過ぎる度挨拶をしてくる家臣や女中に軽く言葉を返していれば小さい何かに出くわして。


思わず目線を下げればこの日の本の人間ではまず有り得ない金色の髪。深い青色の瞳。一瞬南蛮の子供かとも思ったが、その瞳を見て違うと分かる。

そしてこれが以前話に聞いていた星なのだと気付いた。そう確信した瞬間、黒田官兵衛の動きは早かった。


ガシッ


『ぴゃっ!?』

「つ、つつつついにツキの星を掴んだぞぉぉおお!!!これで小生は不運じゃなくなる!!」

『!!?』


その体の大きさからは信じられないほどの俊敏さで動き、高々とスピカを抱き上げた。突然のことに何が起きているのか分からずスピカはただ呆然とするばかり。


それを好機と受け取ったのか何なのか。
抱き上げたスピカを今度は小脇に抱え、一目散にその場から走り去った。どうやら資料のことは忘れたらしい。


「この星は小生のだ!誰にも盗られんようどっか… 座敷牢にでも押し込めて…っ」

『うぇ…っ』


彼は知らないのだろうか


『うえぇ…っ』


彼女の世話係が誰なのかを。


『うぇえええぇぇえん!!みつなりぃーーーーーっ!!!』

「ぬぉっ!?」


有らん限りの力で泣き叫び1日の大半を過ごす者の名を呼ぶ。いきなりの事に驚く官兵衛だがそれも束の間、次第に近付いてくる地響きに気付いた。


ドドドドドド…


「こ、これは…」


長年の勘が告げる。不運がやってくると。その前にこの場から逃げおおせなくてはと足を動かそうとするが時既に遅し。

戦国最速の男が脅威の速さのまま、曲がり角から姿を現した。


『みつなり…!』

「失せろっ!!」

「ぐぇっ!」


来たと分かったその刹那、官兵衛はやってきた三成によって簡単に吹き飛ばされ。その腕から落とされるスピカを床にぶつける前に助けた。


世界が二転三転し驚きに目を瞬かせていたスピカだが、抱き上げる腕が誰のものか理解するとまたわんわんと泣き出す。
ひしっと己にしがみつく幼子に安堵した。


「大事ないか、スピカ」

『うぇっ、うぇえぇぇっ、みつ、みつなっ、りぃぃぃ…!』

「泣くな。貴様の身を脅かす者は私が斬滅してやる。」


落ち着かせるように、スピカの小さな背をポンポンと叩いてやる。見る者が見れば驚くだろう。その手慣れたあやし方に。

それを凶王三成がやってのけているのだ。驚愕以外の何者でもない。


「官兵衛貴様ぁ… スピカに何をしようとしていた!!」

「うぐぐ…っ み、三成なんでお前さんが…!」

「私はスピカの世話係だ。私にはコイツを守る義務がある。」


故に、と言葉を一度切った三成は正しく鬼の形相と呼ぶに相応しい表情をしてみせた。
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