半兵衛と
手に書簡を抱え、城内を移動している時だった。

陽のかかる縁側。一見してとても長閑な空気流るるそこに差し掛かるときゃっきゃっとハシャぐ子供の声が。

今現在この大阪城にいて尚且つこんな風にハシャげる子供など1人しか思い当たらない。以前はどこか殺伐とした城内。そこからこんな楽しげな声がするというのはどこか不釣り合いな感じがした。

けれど不愉快にも思わず。

冷たさの見えない、とても柔和な笑みを浮かべながら声のする部屋の襖に手を掛けた。


「どうしたんだい、とても楽しそうな声がするけど」

「は、半兵衛様っ!」

『あ、はんべー!』


中に入れば女中2人と全く毛色の違う幼子が1人。
突如として現れた豊臣軍の副将に女中たちは慌てて平伏するが、幼子・スピカは何のその。
ぱたぱたと走り半兵衛の足に抱きついた。

ふわりと揺れる金髪をそっと撫でつける。


「それで、一体何をしてたのかな? スピカ」

『うん!あのね、えっとね、おきものえらんでたの!』

「着物…?」
言われて視線をスピカから部屋の中へと向ければそこには畳一面に広げられた着物の数々。

色とりどりのそれはまるで花畑のようで。何ていう錯覚を覚えると、随分と己は幻想的なものをと自嘲した。


「どれを着るのか迷っているのかい?」

『うんーっ』

「そうか…。この桃色は?」

『ピンクは一昨日着たー』

「(ピンク…。桃色のことか)じゃあ…、そうだねこの緑なんてどうかな」

『これ?』


広げられた着物の海から一掬いの着物を手に取る。
それは新緑の緑よりも碧く、水草よりも瑞々しい色合いの。

天真爛漫、快活な印象が定着しつつあるスピカには少しばかり大人っぽくはないだろうか? けれど本人はそうは思わず、自分ではまず選ばない色に瞳をキラキラと輝かせていた。比喩ではなく本当に。


『じゃあスピカこれにする!』

「うん。僕は私室で仕事しているから着付けたら見せに来てくれるかい?」

『うんっ!はんべーにいちばんにみせたげるねっ』

「あぁ、楽しみに待っているよ」

[ 21/30 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -