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そうなってしまえば無視も逃げることも叶わず、きしきしと小さく廊下を軋ませスピカの下へ。
そうすれば嬉しそうに笑っていた。
「こんな夜更けに何をしている?」
『うん、あのね〜星空みてたのっ』
「星…?何も無いではないか」
釣られて見上げた夜空には月以外何もいない。
完全なる月の独壇場と化していて。
以前にスピカは昼間も星はあり、その輝きはより強く輝く太陽によって阻まれ見ることが出来ないだけなのだと言っていた。今も同じように目には見えない星を見ているとでも言うのか?
見えなければ意味がないと感じるのは己だけか。
『あるよ!スピカには分かるもんっ。…そうだ!あのねひでよしさま!おねがいがあるのっ』
「願い…?何だ、言ってみよスピカ」
『うんっ。スピカを、てんしゅかくにつれてってっ』
「天守閣…?どうしてまた」
『どうしても!おねがーい!おねがいおねがいっ』
「三成は何をしている」
『みつなりにいったら“だまれわたしはいそがしい”っていってへやからおいだされちゃったの。はんべえとぎょうぶはひょろっこいからなんかまかせらんない』
「…………。」
子どもは残酷で素直だと深く思った。
三成には後ほど それで部屋から追い出すな と言わなければ。半兵衛と吉継は… 飯でも食わせるべきか。だがあの2人は生来の体質と病が起因しているし…。よもやこんな所で友と部下について頭を悩ませるとは思わなかった。
目元を手で覆いふぅとため息を吐く。一呼吸置いて気持ちを切り換えた。
「では何故我に願う」
『ひでよしさまはね、おっきくてつよくてムキムキだから!だからね、もしおっこちちゃってもへいきかなって』
「ふふ、ふはは!そうかスピカは我を強者と見るか!」
下心も何もない、純粋な子どもの目から見た賛辞に気を良くし秀吉は豪快に笑ってみせた。
彼の良しとしない無力。それの代表格のような子どもだが、相手の本質を見抜く目は褒めるに値する。
普段なかなか見ることのない秀吉の大きな大きな笑い声、顔。体躯と同じくその声はとても大きく豪快で。スピカの鼓膜と腹の底をこれでもかと揺らした。
思わず耳を塞いでしまうスピカに構うことなく、その小さな体をヒョイと持ち上げた。
『わあ…っ』
「良い、では我が貴様の願いを叶えてやろう」
『ホント!?ありがとうひでよしさまっ』
「うむ」
いつもの目線の何倍も高い。それが楽しくて仕方ない。きゃっきゃっとハシャぐスピカにこちらまで楽しくなってしまう。
だがここで走ったり跳んだりしたらきっとスピカが頭をぶつけてしまうだろう。誰かの為に慎重にならなければいけないとは…。面白い体験だと思った。
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