形部と
その男にとって星とは不幸の象徴であった。
凶星と呼び、数多の人間の身の上に災いを降らせるものと。

いつか、いつの日か己の身の内にある不幸を他の人間にも味わわせてやると静かに、けれど熱く目論んでいたのに。
真なる星はそれとはかけ離れた姿をしていて。男、大谷吉継は密かに絶望を抱いた。


『すぴー… すぷー… ぷひょひょ…』

「…………。」


日当たりのいい縁側。
何となしにそこを通りかかれば気持ちよさそうに眠りこけるスピカに出くわした。髪色によく似た女郎花の着物。それを纏い眠り更ける姿は星というよりは太陽の化身のようで。

もしそうだったならば、どこぞの日輪崇拝を掲げる国主が大喜びしそうなものだ。

どこからどう見ても人の子にしか見えない。

これは星でしばらくこの大阪城に置くと三成から紹介された時には普通に嘘だろうと疑った。
だが紹介してきた石田三成という男は偽ることを知らない。
不器用なまでに真っ直ぐで純粋で。この大きな軍という社会で生きるには難しい人間だった。

そんな男が射抜くほどの真摯な瞳でこの幼子は星だと、言ってきた。信じるしかない。


「(…やはり世の不幸は我にのみ、降りやるのか)」


三成の話ではこの星… スピカは拾った当初光を放っていたと聞く。それが本当だと言うならばその光を不幸とし、この日の本を照らしてくれないだろうか。そうすれば万人に、不幸が。

其処まで考えて「馬鹿な」と頭を振るう。


他の通路を使おうと踵を返す。いつまでもこんな幼子を眺めていては気が狂ってしまうと形部は半ば本業で思っていた。
己が既に狂い始めていることも、彼女を見ていると狂ってしまうというのが正常に戻ってしまうということも。
形部はしっかりと理解していてスピカに背を向けた。今更、真っ当な人間に戻ってどうする。

ガクンッ

「…!?」


どういう原理か、浮いた輿に乗ったまま来た道を戻ろうとすれば大きく視界が揺れる。一瞬病に犯されたこの身が目を眩ませたかと思ったが、眼から見える世界に揺らぎはない。
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