三成と。
さて、それから幾許かの時が経った。
幾日というには長く幾星霜と言うには短い月日。
簡単に言ってしまえば数ヶ月が経ったとある日、大阪城の一角の廊下にて。
『みつなりーっ』
耳に心地良い鈴鳴りの声。それが背後から大きな声で己の名前を呼ぶものだから思わず頬が緩みそうになる。
けれど柄でもないと、自分という人間をよく知っている三成は口をきゅっと固く結び振り返った。
「スピカ!廊下を走るなとあれほど言ったろう!」
『ごめんなさぁいっ』
「その謝罪は何度目だと思っている…!」
パタパタと軽い足音を立てて走り寄ってくるスピカに目を剥いて怒鳴るが、小さな女子はにこにこと笑うばかり。
自分の何倍も大きい三成に怒鳴られたのに泣きも怖がりもしないのは単に慣れてしまっただけ。末恐ろしい子よ、と喉を引きつらせながら誰かがいつか笑っていた。
濃紺の夜空から星が、スピカが落ちてから幾つか変化が起きていた。
1つは2人の関係性。半兵衛に言われ渋々ながらも三成がスピカの世話役(お目付役とも言う)となり。
最初こそ怒鳴り声と泣き声の応酬が絶えなかったが、今ではスピカが進んで三成の傍にいる。
2つめはこの大阪城の雰囲気。以前はあの、天下を掌握せんとその名を轟かせていた豊臣秀吉の居城ということもあってかどこかピリピリと殺伐とした空気に包まれていた。
それが彼女が来てからは柔らかいものへとなり、固い表情だった臣下や女中に笑みが見えるように。
悪くない変化に秀吉も半兵衛も満足げだった。
『みつなりこれみて!ひでよしさまにもらったのっ』
「秀吉様に? 貴様、きちんとお礼申し上げたのだろうな!?」
『うん!ちゃんと ありがとう ってゆったよ!そしたらね、ひでよしさまね、あたまなでてくれたのっ』
頬を桃色に染めて嬉しそうに楽しそうに話すスピカの手の中には、懐紙に包まれた金平糖。
本当はありがとうじゃなくてありがとうございますと言えだとか、流石秀吉様お心が寛大でいらっしゃるだとか思っていたのに小さな手がそれはもう大事そうに金平糖を抱えているものだから。
ゆるりと絆されてしまった。
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