「……じゃあ君は本当にあの夜空に浮かぶ星で間違いないんだね?」

『うん…っ おにいちゃんは、にんげん?』

「そうだよ、僕は竹中半兵衛という。彼は石田三成」


紹介された、先程自分を怒鳴った男をチラリと見れば鋭い眼差しで射抜かれた。それが堪らなく怖くて、すぐさま視線を逸らしてしまう。
無理もない。あの目は大人でも怯んでしまうのだから。何かと敏感な子どもには殊更堪えるだろう。


「スピカくん、君はどうして空から落ちてきたんだい?」

『スピカおそらからおちてないよ!』

「え、でも…」

『そらっていうのはこのちじょうから天をみあげたときにみえるあおいくうかんのことでしょう?スピカはそらからじゃなくてそのさきの地球のそとに広がっている宇宙からおちてきたのっ!』


思わず絶句した。
この小さな口からスラスラとそんなセリフが吐かれることにも驚いたし何よりその知識の高さに言葉を無くす。

星は皆こうなのか。やはり自分たち人間とはかけ離れた存在で理解し難いのかと。こんな小さな体をしていても、その内に秘める能力は底知れない。


ゴクリ、と半兵衛は生唾を飲み込んだ。


「…ならば何故、貴様はその宇宙とやらから落ちたんだ」

『……アルクトゥルスが、』

「 ? 」

『スピカはちゃんと、乙女のために乙女をうつくしく飾るためにがんばって輝いてたのに牛飼い座のアルクトゥルスがスピカにちょっかいだしてきて…』


もごもごと言いにくそうに尻すぼみになっていく様を見て、その後何がどうなってこんな事態になったのか容易に想像出来た。

取っ組み合いのケンカになって天体から転がり落ちた。

子どもらしいと言えばらしいのだが、それをしているのが人ではない星だと思うと何とも微妙な気持ちになった。

この時代の人間には持ち得ない知識を持ち、人の想像を遥かに超える存在かと思いきやそこらの子どもと何ら変わらない部分を持つ。


恐れと親しみを同時に抱くことになるとは―…。
しかし、重視すべきはそこではない。その豊富な知識にのみ観点を置かなければ。
「スピカくん、君さえ良ければ帰れるまでここに住まないか?」

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