ただ懸念するのは、それによって味方が作り難いだろうなという点。

いつか予期せぬ事態に見舞われた時、彼を支えてくれる人が一体どれほどいるこっだろうか。嘘やおべっかを簡単に吐くことが出来たなら、もう少し楽に生きれたろうに。
子の傍らに膝をつき、乱暴にその小さな体を揺する青年の横顔をそっと眺めた。


「おい、おい起きろ!起きないかっ!」


ゆさゆさと強く揺すられ幼子の寝顔が険しいモノへと変わってゆく。こんな風に揺すられて起こされたら誰だってこうなるだろう、と他人事のように半兵衛は思う。

揺さぶるのを弱めるどころか強める三成にとうとう夢の世界から引きずり出されたのか、呻き声を上げてもそもそと小さな手で目をこする。

これまでずっと閉じられていた瞳がついに開いた。


『……だぁれ?』


見せられた瞳は紺色だった。
髪も睫毛も金色だからてっきり瞳も星を表すように金色なのだろうと思っていたが…。けれどすぐに理解する。
それは夜空を模しているのだと。瞳の中の虹彩が、星の形をしていたから。


寝起きだからか多少声は掠れていたが、鈴を転がしたような愛らしい声色だった。状況がよく分かっていないのか、キョロキョロと辺りを見渡しこてんと首を傾げる。


『ここどこ…?』

「此処は大阪城。広く言うと日の本だよ」

『日の本…』


聞いても知らない地名だったのか不思議そうに首を傾げたまま繰り返すように小さく呟く。
こうして見ればそこらの子どもと変わらない。多少色味が日の本の人間とは違えているが、南蛮の人間はこのように金色の髪をしていると聞くからそこまで異色ではないのだろう。

ただやはり、この子どもを普通と受け止めさせないのがその体から発せられる光である。
目覚めたことにより多少なりとも光は収まったが… 未だ薄ぼんやりと輝いていた。


状況を把握しきれていない子に、目線を合わすように半兵衛もしゃがみ込んだ。そうした方が子どもが安心する、とどこかの書物で読んで。事情を聞き出す為にも安堵させたほうがいいんだろうと考えた。

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