馬の蹄が地面を抉る。夜もとっぷりと更けた時刻、10人にも満たない小隊が山を駆け上がっていく。敵軍に向けての先見隊というのではなく、先刻夜空から落ちてきたという星を調査すべく向けられた一団だった。


夜中の山中を駆ける小隊の先頭を走るのは白に藤色を合わせた陣羽織に黒い、どこか西洋の甲冑を思わせる鎧を身に纏う年若い青年で。
突き刺さるような視線から難しい性格なのだと読み取れた。


その、心の臓を射抜かれてしまうような視線でもって見つめるのは先に見える山肌。恐らく星が落ちたのだろう其処は何故か淡い黄色に輝いていて。
灯をともしているんだとしても色がおかしい。炎ならば黄ではなく橙だろう。

まさしく星のような光だった。

敵軍の可能性も無くは無い。故にしっかりと武装して来てはいるが…。
アレが敵軍だったとして、あんな風にこれ見よがしに明かりを点けるだろうか?


夜陰に乗じての奇襲ならば明かりは消すのが基本だ。余程の馬鹿か、もしくはおびき寄せる為の罠か。その場合を想定して無意識のうちに舌を打つ。小さなそれは蹄の音に混ざって消えた。


「(なんと不気味な)」


頭上を覆う木々の波間から空を仰げば暗い天幕に覆われた夜空が目に入る。

夜空自体は不気味ではない。ただ其処に星がないのが、酷く気味が悪く。今までさして興味を抱かなかったがこうして在って当たり前のものが無いとどうにも恐ろしかった。


山を登り、高度が上がっているからか少しずつ風が冷えてきた。肌を撫でるそれのせいか否か、鎧に覆われた腕が粟立っているのが分かる。腕を晒している状態でなくて良かったと僅かに思う。
寒さに鳥肌を立てるという人間らしいその反応をどうしてか他人に見られるのが嫌だった。


少しずつ近付く淡黄色。それに当てられ夜中だというのに樹木は長い影を作り、身に着ける黒色の鎧は光色に染まる。

得体の知れないものに迫っているという現状を目前に控えたからか、後続の兵士たちの緊張が高まった。言葉を駆けるなどという気遣いをする必要はない。と言わんばかりに進み、その光の発生源へと躍り出た。
「…………。」

「なんと奇っ怪な…!」

「物の怪か…?」


ざわざわと兵士たちがおののく。普段あまり物事に動じない青年も、兵士たちほどではないが驚いていた。

円形状に木々を薙ぎ倒し、地面には衝突を思わせる跡が出来ており。そこかしこに土が飛び散っている。

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