花が咲いている。
淡い暗がりに投げだされた腕が、短いのに柔らかく散る髪が、幼いころに踏みつけて、そして女子に泣かれた、あの白い花に見える。日の中で咲いていたあの花の、名前すら俺は知らない。根元から折りたおしたあの花の、咲いたところのきれいさも俺は知らない。
目の前の細っこいからだへの、ただしい触れかたも俺は知らないのか。
長い距離を走ったあとみたいに息を切らせて目をつむっている目の前のかんばせ。かんばせなんて頭の良さそうな言葉を、知ったのはこいつがいるから。
その首に俺がつけた赤い噛み跡が、窓から這入る青い光と混ざらないで口をひらいている。だからやめてって言った。同じように赤い口が、震えながらこぼした。
がさがさにかすれた声を聞いて、俺のこの、もやもやしたものが重くなる。悪い、と、言うべきだ。
色の薄い髪が揺れる。悪いと一言つぶやけない俺は、白いからだを抱き起こしてきつく腕に閉じこめる。笑わなくていいのに。どうせならいつものようにずけずけと詰ってくれれば
「
いいのに」
bgm : Lily/秦基博
title : 昧爽