/葉月
じっとりと重たい熱帯夜。午前2時37分。
クーラーも扇風機もない自室にて、影山はなかなか寝付けずにいた。汗を吸ったTシャツがべたつく。ずっと同じ体勢で寝ているせいでベッドに熱がこもり、さらに体温があがってゆく始末であった。あまりの寝心地の悪さにいらだちを隠せない。しかも、寝返りを打とうにも、そのためのスペースがないのだ。今現在、そのスペースには月島が横たわっている。
「…ねえ、さっきからごそごそうるさいんだけど」
「しかたねえだろ。暑いんだよ」
「早く寝なよ」
「おまえが先に寝ればいい話だろうが」
何時だと思ってるんだ、とは、自分にも言えることなので言わないことにした(口先に関しては圧倒的に月島のほうが有利である)。
影山がみじろぎをするたびに、本来はひとり用であるベッドがぎしぎしと鳴いた。まるで悲鳴のようなそれや、ときおりかすめるつま先の体温が、これが現実であることをはっきりと示していた。きっと、バレー部の誰かがこの状況を目にしたら、驚きのあまり叫ぶだろう。あの影山と月島が!そんな声が聞こえてくるようである。
「………クーラー、」
「あ?」
「つけないの」
背中越しに月島が言った。そのぐったりとした声から察するに、月島も寝苦しさに辟易としているようだった。
「夜中つけっぱなしで寝たら身体壊すって、うちの親が」
「なんとかは風邪を引かないって言うのに?」
「なんとかってなんだよ」
「…もういいよ。忘れて」
「なんだそれ」
影山は、背後にある月島の姿を思い描いた。肩甲骨や背骨の目立つ、肉のうすい背中。しっとりと短くはねた髪。すっと伸ばされた首筋と、そこに浮かぶ汗のつぶ。
そこまで考えたところで、やっと目をつむる。とうてい眠れそうにもなかった。
「僕はもう寝るから。きみも早く寝てよ」
「…おう」
かすかな衣擦れを最後に、揃って口を閉ざした。
草木も眠る丑三つ時ということもあり、外はしんと静まり返っている。そして狭いベッドのうえでは、背中越しの呼吸がふたつ、空気にまぎれて溶けてゆく。
じっとりと重たい熱帯夜。朝はまだ遠い。
title>>クロエ