30分で一本勝負/葉月
目の前に投げ出された腕の細さとか、白さとか、青く透ける血管だとか、普段からよく見ているはずのそういうものが、夕闇に包まれたこの空間ではなんだかひどく病的に見えた。一言で表すなら不健康そのものだ。その手首を掴もうものなら、おそらく余裕で指先が余るだろう。
簡単に折れてしまいそうなそれを睨めつけるように見つめていると、月島の腕が引っ込んで、代わりに平坦な声が鼓膜を揺らす。
「釘を刺すようだけど、きみに対する恋愛感情みたいなものはないから。ただ利用するってだけ」
「は、そんなの今さらだろ。言われなくてもわかってる」
「そう?ならいいけど」
早くしてよと言わんばかりに、切りそろえられた爪先が机を叩く。かつかつと一定のリズムを刻む。まるでカウントダウンのようなそれに、じりじりと視界が狭まってゆくのを感じた。
「…目、閉じろよ」
「嫌。それこそ今さらデショ」
吐息が触れる。瞳が揺らぐ。まっしろな両手を捕らえた指先が、あつい。
月島の、平坦な声と震えるまつげのどちらが本音かなんてわからないし、知ろうとする気もさらさらないけれど、細くすがめられた瞳の奥でくすぶる熱を、影山はよく知っていた。さらさらと流れ出る何かを外に出すまいとしているような、気がつかないふりをしているような。そんなふうに、内側に秘められたほむらの輝きを、知っている。
「なんできみだったんだろうね」
吐息に乗って届いた呟きは、やはりいつもと変わらず平坦だった。
title>>さよならの惑星