30分で書くよ/久木


影山の牙が、かるく月島の皮膚にかかって、そしてその牙が去ってすぐに湿った舌がおなじ場所を乱暴になぞる。
影山は獣のように、ひょっとすると獣のほうがまだ奥ゆかしいかもしれないと思うくらいの烈しさで月島を求め、誰もいない部室の扉に押さえつけていた。
身動きのとれない月島が、それでも狭い隙間で耐えかねたように身体を震わすたびに、影山は得体の知れないなにか恐ろしい、それでいてとてつもなく甘い痺れが頭を麻痺させるのをぼんやり感じていた。

あの、あの月島がおれの剥き出しの欲を受けとめている。感覚でそれを悟った影山は身震いした。

男子高校生ともなれば、下品な話題なんて挨拶がわりのようなもので、女子のいない部室では特にそんな話題ばかりが飛び交う。影山はバレーばかりに興味が行って、あまりそういう話には混ざらないのだけれど(そしてバレー馬鹿と笑われる)、とうぜん、生理的な欲求は人並みにあると自覚していた。
むしろ、いつも眉をひそめてさっさと体育館へ逃げてしまう月島を見てなにか、ずっと遠いものに対する憧れのような何かを抱いていた。
ふたりが時間を共有すればするほど、月島の透明さは影山を見とれさせるようになった。影山は、月島をある種の偶像として扱っておきながら、それを汚すのは自分であってほしいと浅ましく考えた。恋や愛情は必要とされず、ただ影山は月島の透明な部分に触れたいと思うようになった。当たり前にできるはずもないことを、それでもやりたいと思ってしまうのが影山であって、だから月島のような人間が同性相手に欲を受けとめるなんていう空想じみたことでも、影山はやりたいと思ってしまった日からずっと隙を探し、さらには狙っていたのだ。

影山はあくまでも静かに、眈々とその瞬間を待ちわびた。だから奇襲は成功し、月島は影山の本能の前に、偶像のままで穢されていった。

月島ははじめ、影山に強く抵抗した。決して声は荒げず、押し殺した低い声で影山を咎めた。
「ねえ、やめて。僕に、ほんとにこんなことしたいと思ってるの」
けれど月島の表情に、嫌悪感がよぎらないことに影山は気づいていた。
影山はいつもよりも数倍愚鈍な脳で「ああ、したい」とうわごとのように囁き、上背のある月島を勢いで扉に押しつけた。小さく呻いた月島は、影山がするりと背中に差し入れた指先にするどく感応して、みじかく息を吐いた。

そこからは、影山が完全に流れを支配して、月島を貪り続けた。月島はもう抵抗をやめて、ただひたすらに影山を受け容れた。背中をなぞる指先が、今日の練習で神がかったようなトスを上げた指先だと思うと滑稽で、月島はわけもなく影山の唇を吸った。
あるんだかないんだかわからない虚しさを追うことはしなかった。ただ熱にあてられた身体をどうにかしたくて、影山に身体を押しつけた。




「 きみという偶像 」


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