ぼんやりと事後/葉月




おなかすいた、と、蚊の鳴くような声で月島が呟いた。汗で額に張りついた髪や、身体の至るところに付着した体液なんかをわずらわしそうに払いのけながら、もう一度。

「おなかすいた」

食に熱意を注がない月島の腹は、セックスを終えた後の時間だけ、唯一進んで物を欲する。
ちゃんと内蔵が詰まっているのか不安になるほど薄っぺらくてしろい腹、ゆったりと深く上下するそこにてのひらを添えると、月島はそのまま目を閉じた。べたついた身体の体温が少しばかり高いので、ああ、なんだ。眠いのか。ひとり納得する。
そういえば、人間の三大欲求は性欲と食欲と睡眠欲であるとどこかの誰かが言っていた。つまり、ついさっきまで性欲を貪り、たった今食欲を口にして、次いで睡眠欲に身を任せようとしている月島は、今この瞬間だけは本能のなかに生きているということか。あの理性のかたまりのような月島が。そう考えるとなかなか心地よいものがある。

「なに食いてえの」
「なんでもいいけど」
「オムレツ」
「うん…やわらかいのにしてね」

いよいよ本格的に眠ってしまいそうな月島を置いて、俺はキッチンへ向かった。あくびをひとつ。ぐうと鳴いた腹をさする。俺だって腹が減ったし眠たいのだ。さっさと食ってさっさと寝よう、こんなときくらい本能に身を任せたって誰も文句は言うまい。
とりあえず、まずはあのぺたんこの腹をどうにかしてやらねば。





title>>さよならの惑星



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