真夜中の地震//ひさぎ


「ん…つきしま?」
一旦眠ると滅多な事では起きない影山が、地震には敏感に反応するらしいというのは、最近知ったことだ。
とんでもない音や、夜目の利かない
僕がうっかり影山の身体を踏んづけてしまったときでも目を覚まさない影山は、ただ地震のときだけは、ほんの少しの揺れでも起き上がる。

「…影山…揺れたね」
真夜中に突然意識が浮き上がったと思ったら、身体を寝かせている床がちいさく横に揺れていた。地震だ。
おれより先に目が覚めてしまっていたらしい月島が、となりで座って目をこすっていた。こいつは小さい物音とかでもすぐに目を覚ましてしまうから、地震なんて起きたら眠っていられないんだろう。
月島はとても、あれだ、繊細だ。

「ん…2くらいだろ」
震度のことだろう。もう少し揺れたような気もするが、確かにおおげさに心配するほどの揺れではなかった。上体を起こしてしまった僕は、寝そべったままの影山を静かに見下ろした。黒い眼が暗闇で静かに溶け出している。まだ夜は明けない。
目が、覚めてしまった。

「うん……」
微妙に、ほんのすこしだけ、落ち込んだ声で月島が返事をして、おれのことを見下ろしていた。
月島は、いつからかは忘れたけど、おれが手のひらで目をふさいでやらないと眠れないようになった。月島にもその理由は分からないらしい。少し前までは、体温のせいかもしれないと、目元を暖めたりしていた月島だったが、どうやら違ったそうで、結局最近はおれが月島の目をふさいでやっている。おれとしては不都合はないのだけれど、月島はどうにも申し訳なさそうにしていて、なんとなくどうにかしようとは思っている。

「ほら、寝るぞ」
影山が寝そべったままでこちらに腕を差し出す。影山の指にまぶたを覆ってもらわなければ眠れないなんて、ほんとうに僕は馬鹿げていると思う。影山がいないときに眠れないし、そのことで影山に迷惑をかけるのも不本意だし。なんとかしないといけないとは思っているけど、視界に覆いかぶさる影山の手があまりにもあたたかいから、全部どうでもよくなってしまうのだ。

「……ごめん」
いつものように目をふさいでやると、月島がやわらかな睫毛を震わせてなぜかおれに謝ってきた。
おれの手が月島のために働くことに、なんの問題があるのかおれにはわからない。でもまぁ色々あるんだろう。おれの手を、わ、ずらわせてる?とか思っているのかもしれない。

「あ?ほらこっち、寄れ」
大きな影山の手のひらが、僕の目をふさいでくれる。僕は安心しきってしまって、すっかり眠くなってしまう。影山が先に眠ってしまったときなんかは、影山の胸にまぶたを押し付けて無理やりに眠りにつくのだけど、やっぱり影山がこうして、ゆっくり僕のまぶたを覆ってくれるのがいちばん落ち着く。自分の呼吸がだんだん深くなっていくのを感じて、僕は影山にもう一度、今度はありがとうとつぶやいた。


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