久木/虫

△▼△


陽射しに焼かれた地面に、蝶が落ちていた。
のろのろと羽を動かすその蝶を、影山がしゃがみこんでじっと見つめていた。

蝶なんてそんなにめずらしいか、と疑問に思って近寄ると、そうではなかった。
横倒しになりかけている蝶に、蟻が群がっていた。蝶はまだ足掻くように羽ばたいていたけれど、羽にも傷が入っているようだった。

まるでおびやかすような影山の指さきが、蝶の羽にのびた。

「かげやま」

滅多に呼んでやらない、彼の名前。
影山は腕をそのままにして、僕を静かに見つめた。

「だめか」
影山が僕に問うた。

「だめでしょ。かげやま」
「つきしま」
ほんの少しだけ抵抗するように僕の名前を呼んで、そしてひとつ、胸で浅く息をした影山は、やがてするりと腕をおさめた。

「そうか」
影山はなめらかな声で呟いて、そのまま立ち上がり歩き始めた。
僕は降りそそぐ日光のなかで蝶を振り返った。動くのをやめた蝶を一瞬だけ眺めた。

まるで体のなかのように熱い空気を吸った。
僕は影山を追う


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