/葉月




はあ。

深く重たいため息が耳をくすぐった。そのまるい吐息に、熱のかけらを溜め込んだ僕の肩がびくりとはねる。それに気を良くしたらしい目の前のけものは、ただただ黙って僕のからだに触れる。逐一反応を見るように、頬から耳、首筋、鎖骨、からだのパーツのひとつひとつを確かめるように。

なにがしたいの。

無遠慮な指先がくちびるに触れた瞬間、かすれた声でそうささやけば、その動きがはたと止まった。真っ暗な部屋の中、カーテンの隙間から月明かりが漏れている。無音。濡れ羽色の瞳がぎらりと光って、ひとつふたつとまばたきをした。

べつに。なんとなく。

無遠慮かつ繊細な指先がそっとくちびるのうえを往復する。こそばゆい。影山がまたひとつため息をこぼして僕のくちびるを噛んだ。軽く歯を立て、やわらかく食み、最後にちろりと舌先でなぞる。その間も視線は絡んだまま、一度も途切れることはない。
射るような視線と凪いだ動作、そのアンバランスさはまるで、僕たちの関係そのものを表しているようだった。





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