(2010.01)@


アキラが買い物に行くと家を出て行き、もうすぐ30分が絶つ。

何でも、「夕方はいろんな物が安くなってるから」だそうだ。
そこまでケチるのも俺にはよくわからないが、アキラは最近、夕方のタイムサービスに凝っているようだった。

たまたま仕事が早く終わった俺は上司からの誘いを断り家に帰ってきた。


「はぁ………」


誰もいない部屋でテレビもつけずにソファーにねっころがり溜め息をついた。
その時、


ピンポーン………


玄関のチャイムが鳴った。

仕事疲れの重い身体に鞭を入れ、玄関を開ける。
視界には俺の嫌いな顔があった。


「あ…シキさん…、こんばんは…」

「帰れ」

「酷い…。言っておきますけど、俺、アキラに呼ばれて来たんですよ!」


これは信じていいものか…
もしそれが本当ならこの駄犬を帰らせるわけにはいかない。


「あれ?アキラは?」

「買い物に行っている」

「えぇ?じゃあどうしようかな…これ…返さないと…」

「何だこれは?」

駄犬が持っていた黄色の袋に目がいく。
…中身は何だ…?CDか?DVDか?
俺はその時あるものが頭に浮かんだ。

「…アキラは…そんな破廉恥なものは見ないが」

「……破廉恥?いやだ、シキさん…アダルトな物なわけがないじゃないですか!!俺はそんなものをオカズにするくらいならアキラを……ぶっ!!!」


何を言おうとしているのか嫌でもわかってしまった俺は最後まで言い切る前にパンチをお見舞いしてやった。

鼻を抑えながら涙目で睨む駄犬を無視し、

「…アキラが帰ってくるまで…入って待ってるか」

「え…いいんですか!?」

目を一回り大きくして駄犬が尻尾を振り出したので、俺は何も言わず家の中に入った……………



***

あの馬鹿が…まだ帰ってこないのか!!
クソ…この空気…何だ全く

リビングのテーブルで向かい合わせに座った俺と駄犬は玄関で話した以来、何も言葉を交わしていない。

黄色の袋を俺が代わりに返しておいてやろうか?と気を使ってみたが、「いや、大丈夫です、感想も言わないといけないから…」の一点張りで渡そうとしない。

…渡さないところをみると、それは俺が見る可能性があるということを疑っているのだろう。
そんな破廉恥なモノ、興味がない。


「ですから…破廉恥なものじゃないですって。」

俺の独り言がダダ漏れだったようだ。

「俺は…まぁ…そういうものに興味がないと言ったら嘘になりますが…(まだ若いので)でも最近はアキラを思い出し……ガハッ!!」

「今度アキラをオカズにしたらぶっ殺すぞ」

殺意を帯びた目で睨みつければ駄犬は小さな悲鳴を上げた。




ガチャッ!



「ただい…ま……あれ、ケイスケ来てたのか」

「酷いよアキラ…。アキラがこれを返しに来いって俺を呼んだんだろ…」

「あ…そうだった…って!!!!」

黄色の袋を見てアキラの顔色が変わる。チラッと俺を見てすぐに逸らしたかと思うと、バツが悪そうな顔をした。

「…ケイスケ…やっぱりそれはお前にやるよ」

「えっ?いいの!?」

「…構わない」

何だ何だ何なんだ!!!
何なんだこの黄色袋の中身は…


「よく眠れたんだろ…?」

「そりゃもう…ぐっすり!」

「ならソレ、やるから!!な!ほら!用はこれだけだったよな!今から俺達は夕飯だから!またな!」

「うわわわちょっ!アキラ!!」

慌てた様子でアキラが駄犬を無理矢理帰すと、疲れたように深いため息をつき、ソファーに腰掛けた。


「お前、そんな破廉恥なものの貸し借りなんてやってたのか」

「んなっ!?俺はそんな!!」

顔を真っ赤にしてうろたえるアキラ。


「俺はそんなもの…必要じゃない…。アンタだってそうだろ」

「まぁ…そうだが。それじゃ、あれは何だ」

「…言えない…」

「……。」

目線を逸らしたまま言おうとしない。


「あれは…DVDじゃない。…勿論ブルーレイでもない。は、破廉恥なものでもない。……CDなんだ。でもそれ以上は……」

「CDか。お前がそこまで隠す理由がわからんが、いずれは教えてくれるのだろう?」

「まだ…心の準備が出来ていないだけだ…」


心の準備…そんな心の準備が必要なくらいのものなのか?
でもこれ以上問いただせばアキラが泣いてしまいそうな気がしたからやめておこう。

「本当に…くだらないものなんだ。シキが聴いたら笑うかもしれない…」

「ほう。それは聴いてのお楽しみだな。」

「ゴメン…」



アキラがしょんぼりしているので、俺は話題を変えることにした。

「ところで、スーパーで何かいいものはあったか?」

「あっ!あったあった!!これがさ……」

スーパーの袋をガサガサさせて楽しそうに値段を言いながら見せてくる。

「ホントに楽しくってさ!」

「…これじゃあ本当に主婦だな」

「主婦じゃない!…でもやっぱりオバサンは凄いな…あの勢いには勝てそうにない……」

「今度は俺が行ってみるか。」

「シキが!?ハハッ!なんか面白い図だな!」

アキラはテーブルをバンバン叩いて笑っている。俺もスーパーで主婦たちの波に揉まれながら葛藤する姿を想像して笑ってしまった。









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