なめるなよ!!
休日…
シキとアキラは家にいた。
特に行く所もなく、自分がやりたいことをやっているような状況だった。
「アキラ。」
名前を呼ばれ振り返る。
シキはこちらに来いというように、手招きしているのでアキラは素直にシキの元に行った。
「どうしたんだよ。」
「お前、髪伸びたな。」
何の前触れもなく髪に触れてきたので、一瞬ビクリとする。
「…あー…そういえば最近忙しくて髪を切る暇もなかったからなぁ…。」
「俺が切ってやろうか?」
「……はい?」
シキが急に予想外のことを言ったので、アキラは目を丸くした。
それと同時にシキの髪型をじっと見た。
「…あ…いい…。自分で出来るから。」
…自分もシキのようなオカッパ…もとい、シキに似た髪型ににされたらマズイ!と思い、やんわりと拒否した。
「別に遠慮する必要もないぞ。」
「いや、大丈夫だから…」
「ほら、たまには甘えたらどうだ?」
今日は一段と優しい…
フッと口端を吊り上げたのを見て嫌な予感がした。
シキは立ち上がるとゴソゴソと新聞紙とハサミを持ってきて、アキラの髪を強制的に切ろうとしている。
「ほら、こい。」
「…いや…だ…」
「ほら!!!」
逃げようとしたところを手首を掴まれ阻止される。
それに観念したように溜め息をつき、仕方なくシキに従った。
「あの…その…シキと同じ髪型にはしないでくれ…」
「…何故だ?」
(同じやつにしようと思ってたのか、コイツ…)
「ほら!なんかおかしいだろ!そ、それにその髪型が似合うのはシキしかいないと思う…うわっ!!!」
パツン………。
アキラが全てを言い終わるより先にシキのハサミが動いていた。
後ろから抱きついて前髪を切ったのだ。
目の前を舞う自分の前髪……
「…シキ……」
「…なんだ。」
「…切ったんだよな…」
「今切ったぞ。お前はそんなことも分からんのか。……アキラ…?」
「…ど…すんだよ……っく……」
自分の前髪を手で隠し、アキラはいきなり泣き出した。
予想外の出来事にシキはアキラを後ろ抱きにしたまま固まる。
「何を困る事がある。」
「ご近所でどんな目で見られると思ってんだよ…!仕事場でもそうだ……。どうせこのあとシキと同じカットするんだろ……。シキだってパッツンじゃないのに、何で俺はパッツンなんだよ…」
「パッツンで何が悪い!」
シキがいきなり声を張り上げたので叩かれるんじゃないかと目をつむる。
しかし、シキは何もしてこなかった。
「前髪はパッツンかもしれんが、横の髪まで俺と同じにする気はない。俺のカットのレパートリーをなめるなよ。」
(何キャラ……?)
おもむろにアキラに新聞紙を持たせ、「目を閉じておけ。」と言うと、シキはカリスマ美容師のような切り方でパサパサと髪を切り始めた。
その間、アキラは真っ暗な視界の中で怯えていた。
レパートリーがたくさんあると言っていたが、シキのあのカット以外見たことがない。目を開けて鏡で自分を見た時、シキと同じ髪型だったらどうしよう…という不安でいっぱいだった。
シキは切っている間、ずっと黙っており、たまに右を向け、左を向けと指示してくるくらいだ。その沈黙がまたアキラを怯えさせたのだった………
***
「出来たぞ。鏡で見てみろ。」
「あ……(オカッパじゃない…)」
前髪こそパッツンだが、後ろの髪はウルフカットで、伸びていた髪を上手く応用していた。
「…どうだ?」
「…す…すごい…」
「俺のレパートリーをなめるなよ。」
(二回目……)
「ホントにトシマで俺と会う前、人殺しなんてやってたのか?アンタ美容師の息子だろ。切り方がカリスマみたいだった。」
「カリスマ…?フン、それは違うな。俺は以前、一部の者から『カリスマ イル・レ』と呼ばれ、恐れられていた。」
(アルビトロのことだな……)
アキラは苦笑する。
「それじゃあ今まで床屋に行く必要なんてなかったな。シキが切れるんだったら散髪代が浮いたのに…」
「…今日初めて切ってみたんだが…」
「…え…?」
じゃあ今までのシキカットは誰がやっていたのだろう…。
「…ってことは、シキがさっき言ってたレパートリーって…」
「…頭の中でのレパートリーだ。実際に切ったのはお前が初めてだ。…にしても上手く出来ている。…さすが俺っ★………………」
シキがブツブツと何かいいながらにやけているので、呆れたアキラは溜め息を一つつくとシキをほっておいて洗面所へ向かった。
洗面所で再度自分の髪を見直したアキラは固まった。
「…シキー!!!何だよ!この前髪!」
アキラの前髪はアキラが予想していた長さよりもはるかに短くなっていた。長さ的に眉毛から2センチくらい上だろうか。
…どうりで先程からシキの様子がおかしいわけだ。後ろ抱きにしていたが左手だけはずっとアキラの額に乗せられていたのだ。
アキラの悲痛な叫びでシキが何食わぬ顔で現れた。
「前髪が何だ。」
「…どうしてウルフカットができたのに前髪は不格好な眉上パッツンなんだよ!せめて眉下にしてくれよ!!」
「…なんだ、そんなことか。なかなか似合っていると思うがな。…まぁお前が嫌がるならこうすればいい。」
そう言うとシキはアキラの前髪を一度中心に寄せ、上でピンで止めた。
「ほら、これで視界もよくな…「ふ…ふざけるな!」
アキラは顔を真っ赤にさせ、シキに突っ掛かっていった……
心の中で、アキラは二度とシキに髪を切ってもらうのはやめようと決めたのだった…………
end
一応、『麗しき夫婦愛』の一コマ的な感じで書いてみました。
…あ…お腹が痛い…。
きっとシキのキャラをブッ壊したことによる祟りかもしれません(´Д`)
自分でも書いてて笑えたのが、『俺のレパートリーをなめるなよ!』という台詞です。
彼なら言いそうじゃあないですか!!←言わないだろう!
最後までぐっだぐだでゴメンナサイ!
それでは次回もお楽しみに!!
2009.07.20
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