スーパーという名の戦場




アキラとケイスケがトシマを脱出して早2年が経つ。

工場での重労働は初めは大変だったが、それも最近では慣れっこになってしまった。



そして今日も一仕事終え、帰宅したケイスケはふと、テーブルの上に置いてある一枚のメモに気づいた。

「なんだ?」


近寄って、そのメモを手に取る。
それはアキラが書いたものであった。



『夕飯の買出しに行ってくる。先に風呂に入れ。』



…とまぁ用件だけが書かれていた。




ケイスケはメモを見ながらくすっと笑った。

これじゃあまるでアキラが奥さんみたいじゃないか。



アキラは全く自覚していないようだが、この頃アキラは嫁らしくなってきた。
料理の腕は悲惨なものだが、洗濯、掃除と主婦らしいことは坦々とこなしている。


ケイスケが帰宅したときに玄関にエプロンをつけたアキラが駆けてきて、
『なぁ、ケイスケ。先にお風呂にする?ご飯にする?それとも…』
…なんてことを言ってきたらどんなにいいだろう…と、一人妄想するケイスケだった。




***

一方、アキラはスーパーという戦場に苦戦を強いていた。
…そう、夕刻時のタイムサービスである。

アキラの中では今日の夕飯は肉じゃがと決めているらしく、豚肉のタイムサービスと聞いて戦場に向かった。

引っ張られるわ殴られるわ…揉みくちゃにされながらも隣の強敵と戦っていた。

目の前にある豚肉のパックに手を伸ばす。
その時、同時にそのパックを掴んできた主婦と手が重なった。

両者渡してなるものか!と言わんばかりににらみ合う。

「ほら、渡しなさいよ!」

主婦はそう言いながら、懸命に豚肉を取ろうとしている。

「…アンタには分からないだろうけど…俺だって生活がかかってるんだ!」

そう言って全く譲らない。


さて、どうしたらこの主婦から豚肉をゲットできるだろうか…
アキラは頭をフル起動させて考えた。そして、いい説得方法を思いついたのだろう。引っ張っていた腕を緩めると主婦を見た。

「…俺には…病弱な彼女がいる…」

「…そ、それが何だって言うの?」

「生活も貧しくて肉すら買えないんだ…。彼女が…その…食事が出来なくなるほど悪化する前に…肉を…食べさせてやりたいんだ。」



…迫真の演技だった。
うっすら涙を浮かべて必死に喋る。

「…だから…頼む!その肉を譲ってくれ…」


それを聞いた主婦は困った表情をした。
きっと心の中で肉を渡すか考えているのだろう。


「…あなたのその彼女とやらは本当にいるのかしら?なら、その彼女のどこが好きなの?」



…なんだと…?そうきたか!!
主婦は手強い。未だに疑っている。


彼女とは誰なのか…アキラは困った。
その場逃れで出た彼女というワード。しかし、アキラには彼女なんていない。

…ふと、ケイスケの顔が浮かんだ。
ケイスケは彼女…というわけではないが、他人とは思えないほどの仲だ。
アキラはケイスケを思い浮かべながら話し始めた。


「俺の彼女は…おっちょこちょいで自分のことを卑下してばっかりな奴だけど、優しくてお人よしで…全てが好きだ。」



主婦はアキラをじっと見て…いや、違う。アキラの後ろに立つ人間を見ていた。


「け…ケイスケ…」

「…あ、アキラ…俺のこと、そんなふうに思っててくれたの?」

「あっ、いや、それは…その…」

「俺は確かにアキラみたいに男らしくはないさ。…でもそんなことをひっくるめて全てが好きなんだな!」


主婦は口をパクパクさせている。


「…それじゃあ彼女っていうのは…」

「い、いや、違うんだ。これには深ーい事情があって…」


しどろもどろになっていると、主婦は肉のパックをアキラの手から奪い取った。


「彼女ってそういうことだったの?!どこが病弱よ!このホモが!!」



そう言って肉のパックを持ち走って行ってしまった。

その場でただ呆然と立ち尽くすアキラ。



全く状況が読めないケイスケはどうしたのかとアキラの顔を覗き込む


「…どうしたの?アキラ…?」

「…肉…」

「肉?」

「…どうしてくれるんだよ…」

「いや…俺はホモかもだけど、アキラは気にしなくて…「…俺、もうこのスーパーに行けない…」


ガックリとうな垂れてスーパーを後にする。



帰り道、ケイスケは落ち込むアキラの背中をポンと叩くと、笑いながらアキラを見た。


「…ホモって言われてさ、確かに落ち込むかもしれないけど…気にするなよ。」

「…じゃ…ない…」

「ん?」

「俺はそこに落ち込んでるんじゃないんだ。」


アキラはケイスケのほうを向くと、真剣な顔をしてこう言った。



「今日の夕飯!おかずがないんだ!」

「えっ?!」

「スーパーに来たときにタイミングよくタイムサービスが始まって…だから…その…」

「んじゃ、まだ他の物は何も買ってなかったってことか…。」

「…あぁ。」


その時は肉に夢中でそれどころじゃなかった…とアキラは言う。


「まぁ、残り物で何とか作るから大丈夫だよ、ほら、帰ろう!」


そう言ってケイスケはアキラの手をひいた。



このとき、ほんの少しだけケイスケが男らしく感じたアキラであった……





end





ケイアキです←
ケイスケが可愛くてしょうがない!!

主婦のようにスーパーという戦場に足を入れ、主婦とタイムサービスで取り合いをするアキラが書きたかったんです!
肉がゲットできず落ち込むアキラをよそに、ルンルン気分のケイスケに苛立ちを感じ、殴っているアキラの姿が目に浮かびます(笑)




2009.03.17



_



[*前] | [次#]

topに戻る
topへ



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -