A



(ふざけるな…何故俺がこんな川原でボーっと空を眺めにゃならんのだ!)


外形が駄犬と入れ替わってしまった以上、何だか自分の家であるのにも関わらず中に入るのを躊躇った俺は駄犬に家事を任せ川原でこうして時間を潰していた




俺は何時間ここでこうして寝転がって空を眺めているのだろう…?
空ってこんなに広かったか…?




はっと我に返り上半身を起した。



ふと下のほうを見ると川原では子供たちが楽しそうに野球をしていた。


昔に比べれば今は本当に良い時代になっている。


…もし第3次世界大戦が起きずにニホンが東西に分断されることがなかったら…

俺ももう少しまともな人生を送れたのではないかと思う。



だが…後悔はしていない。
イル・レとしてトシマに君臨していたことも、プルミエを追い続けていたことも今となっては『終わってしまった話』でしかない。

失ったものはたくさんあるかもしれない。だが、逆にそんな時代があったからこそ今、俺にはアキラという存在があるのだ。
初めてアキラに会った時、俺はトシマでは得られなかった『興奮』というものを感じた。



誰一人として俺の目を見なかったがアキラだけは違った……



それからは風のように時間は過ぎて行った。俺が廃人になった時もアキラは俺の傍に居てくれた。
俺に尽くしてくれたということに対しての恩返し…をしたいと思った。
こんな感情、今までには考えられなかったことだ。これもまた、アキラのおかげなのかもしれない。



「…ケ…」

「……。」

「…ケイスケ!!」

「!!」


昔のことを思い出していたため、隣にアキラがいたことに全く気が付かなかった。


「…ケイスケ…朝、どうしたんだよ。」

「…(自分が取り乱したときのことか…)ゴメン、アキラ。その…なんでもないんだ。」


…としか言えなかった。まさか少しでも嫉妬していた、などとは言えない。



「…ふぅん。」

「アキラ、家に帰らなくていいのか?」

「あ…あぁ、帰るけど…」


そう言ってアキラは立ち上がった。



「あっ!アキラ、ちょっと待って。」

「…何だ?」


俺はアキラに確認しておきたいことがあった。



「…ア、アキラさ…、シキさんのこと…どう思ってる?」

「…っ…」


一応、結婚はしているのだし聞く必要もないのだが、ただ…何となく確認したかった。


「…どうなの?」

「……き…だ…」

「ん?」

「…好きに決まってるだろ…。…結婚してるわけだし…嫌なら一緒に居ない。」


顔を赤らめてアキラはそう言った。



俺はどんな顔をしたらいいのかわからなかった。
外見は完璧に駄犬なのだから喜んではいけないだろう。


「…そっか。…アキラ、…幸せになってね。…アキラが幸せなら俺も幸せだから…。」

「…ケイスケ…。……ありがとう。」



「じゃあ、帰るから。」とアキラは言うと走って行ってしまった。
アキラからの本心を聞けただけで、俺は一瞬でも駄犬と中身が入れ替われたことを感謝したのだった………








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