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Side→Shiki
アキラに促されるように駄犬は家の中に入った。
俺は駄犬のようにリビングの窓からこっそりと中の様子を観察する。
中でのやりとりが気になって仕方ない。
アキラが何かを言うと駄犬が困ったように首を捻らせていた
きっとアキラに『いつものやつ』とでも言われて困っているのだろう。
アキラに疑うような目で見られていた駄犬は何かを決心したかのように小さく頷くとキッチンに行った。
それから暫くして焼いたパンと卵焼きとサラダを持って現れた。
(くそ、完璧に俺になりすましやがって…)
アキラが卵焼きを一口口に入れ固まっている。
ひょっとして不味かったのか…?
しめしめと一人ガッツポーズをしてしまい、急に気恥ずかしくなって止めた。
何をしているんだ、俺は。
しかし、不味かったのではなかったらしい。それは駄犬の目の輝きと椅子から立ち上がったことから容易に推測できた。
…というか…止めてくれ。
俺はそんなにハイテンションじゃない!!
暫くして後片付けを始めた二人。
駄犬が急にアキラを呼び止めたかと思うとアキラの頬についた何かを指で取り舐めた。
さっきアキラに触れるなとあれほど脅しておきながら…
気づけば駄犬が常に持ち歩いているダブルドライバーを持ち、家に乗り込もうとしていた。
(いや、待て…)
俺がダブルドライバーを持って家に乗り込めば訳のわからないことになる。
俺は今『ケイスケ』ということになっているのだから下手すれば駄犬が調子こいて反撃してくるかもしれない。
ここは我慢だ。。。
俺は怒りを鎮めようと目を閉じた。
一分間ほど黙想し心を静め、再び目を開けた時、俺はとんでもない光景を目の当たりにしてしまった。
「…ここでキスか…。習慣がついたせいで…あぁ…何てことを…」
恥ずかしそうにアキラが家を出たようだが、俺はその場から隠れられずにいた。
「…ケイスケ、何してるんだ…?」
普段俺に見せる目とは明らかに違う目で俺を見てきた。
俺の頭は完全にパニックを起していた。俺は頭のネジが外れたようにアキラに叫んでいた。
「…早く行けよオォォオ!!!」
アキラは驚いた顔をすると走って行ってしまった。
駄犬には悪いが今の俺はアキラを直視できなかった。
自分らしくない…落ち着こう…
深呼吸をすると気分が大分楽になってきた…。…と同時に殺意が芽生えきた。
バタンと勢いよくドアを開け、その場で座り込んでいた駄犬の胸ぐらを掴み、睨みつける。
「貴様、死にたいのか?」
俺が脅しかけると駄犬はかぶりを振って否定する。
「ちょ、ちょっと待って!別に俺からしようなんて言ってません!!…というか…あなた達、朝っぱらから俺の知らないところでこんな甘いことしてたんです
か!?」
ズシッとクリティカルヒットを喰らい黙る。しかし、駄犬にそんなこと言われる筋合いはない。
「貴様に迷惑かけてないだろう。…違うか?」
そう言うと何も言い返せないのか駄犬は俯いたまま黙った。
「…なんか…」
急に駄犬が話し始めたのでまた何か言われるのではないかと身構えた。
「何だ」
「あのアキラがあなたなんかを好きになるとは思ってなかったから…もっと浅い関係なのかなぁ…と思ってました…。」
浅い関係…?ふざけるな。俺達は結婚だってしてるんだ!
あの時のキスは見なかったのか?コイツは…
あれでも見せ付けてやったと思っていたのだが…
「…俺は俺なりにアイツを大事にしているつもりだ。」
真面目に答えてしまい恥ずかしくなった。駄犬も再び黙ってしまう。
…そういえば…駄犬に聞こうと思っていたことがあることをすっかり忘れていた。
「そういえば、」
「…なんですか?」
きょとんと駄犬は俺を見た。
「貴様が作った朝食の卵焼き、アレ、何を入れて作った…………」
こんな奴に聞きたくなかったが、食に関してアキラがあれほど喜んでいるのを俺は見たことがなかった。
だからこうして聞いているというのに駄犬は急に笑いだした。
俺の苛々は頂点に達し、気づけば自分の顔(中身ケイスケ)を殴っていたのは言うまでもない………
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