おもいで


「なんか悪いな…」

「いいのいいの!久しぶりに会ったんだからさっ!ほら!上がってー!」


30分ほど前のこと、今流行りのゲリラ豪雨で買い物帰りだったアキラは立ち往生していた。
家まではあと20分は歩かなければならない。

そんなとき、急に後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはリンがいたのだった。
トシマをケイスケと脱出してから初めて会ったので自然と会話も弾み、まだ雨も止みそうにないのですぐ近くに家があるリンのところにお邪魔することになったのだ。



「…へぇー。じゃあ今はケイスケと頑張ってるんだ!」

「アイツはすぐ仕事を覚えるんだけど、俺は今までそんなこともやったことがなかったし、第一Bl@sterで生計を立ててたからいまいち仕事ってものがよくわからなくて…」

「…俺もそうだよー…」

「リンは何の仕事してるんだ?」

「…え…ホ…」

「…ホ?」

「…ホスト…」

「!!」


リンから思いがけない台詞を聞き、驚いて固まってしまった。
これだから言いたくなかったんだ!とばかりにリンの機嫌は悪くなる。


「オッサンに無理矢理書類を出されちゃったわけ!そしたらすぐに来て…みたいな展開になっちゃって…それですぐに採用…みたいな。…だから別に俺が好んでその仕事を選んだんじゃないからね!」

リンが必死にそう言っているので信じるしかなかった。


リンはいきなり立ち上がったかと思うと、お茶を入れてくるから!と言いキッチンのほうに行ってしまった。
アキラは一人椅子に腰掛け部屋を見渡す。
ケイスケと住んでいるところよりも大分いい家のようだ。ホストであるため羽振りがいいのだろう。

ふと、ある物に目が止まった。それは小さな写真立てとカセットテープだった。
誰と撮っているのかが気になり近づいてみると小さな子供が二人写っていた。



「ち、ちょっとアキラ!何勝手に見てんの!」

リンが慌てて写真立てを伏せた。

「悪い。……今の誰だ?」

「左でピースしてたのが俺。んで、隣に写ってた無表情の奴は兄貴。」

「シキ!?」

「そう!」


淡々と答えるリン。
機嫌が悪い。


「このカセットは?」

「はぁ……。聞く?これはちょうどこの写真を撮った時くらいの声だけ入ってるやつ。……これしか父さんの声が入ってるものがなかったから…」

「そんな大事なやつ、俺なんかが聞いちゃっていいのか?」

「あぁ、いいよいいよ。というか兄貴が…いや、全て面白いから是非聞いて!」


リンは笑いながらカセットをコンポに入れて再生ボタンを押す。
するとノイズとともに子供の声が聞こえてきた……





『にいちゃん!コレおれの!』
『うるさい!おれのだよ!』
『ほらほら、パパのスカートはパパのだ。』
『ちがうよ、これはおれのだよ!リーちゃんは自分のやつをはけばいいんだよ!』
『これがおれのだもん!』
『ちがう!だってリーちゃんはいつもズボンでしょ!おれがスカートだもん!』





「…なんか…いろいろとツッコミ所満載だったな…」

「ハハハそうでしょー!!」

「まず、リンたちの親父さん、そういう趣味をお持ちだったのか。」

「あー……そうだったんだろうね…。」

「あと、シキってリンのことリーちゃんって読んでたのか。」

「そうみたいだねー」


これ以上ツッコむのはあれだと思い、アキラは言うのをやめた。


「…こんなさ、平和な時もあったんだよねー。兄貴もあの時は可愛かったはずだよ…それがどうしたらあんな極悪非道な野郎になるのか…」

「いや、まだよかったんじゃないか。今のほうが。」

「…えー何でさー」

「…親父さんみたいなほうに走ってたらシキはとっくに死んでると思うから。」

「…確かに……」


二人でシキが女装をしている姿を想像して苦笑いになる。


「あら、どうしたのよあなたたち!お姉さんがそんなに綺麗?とかさ、」

「なぁに?わざわざお姉さんに虐めてもらいに来たの?とか…」

……これはあくまでシキがトシマにいたら!の話だ…




二人で爆笑する。
涙が止まらず床をバンバン叩き笑い転げる。









リンたちが幼かった時もそうだが、アキラ自身、今のような平和なときが来るとは思わなかった。

こうして友人と顔を見合わせて笑い合える日が……





アキラがふと外を見ると、いつのまにか雨が止み、太陽が出ていた……
まるで二人を見て笑っているかのように……………







end



シキは果たしてリーちゃん!って言っていたのか……やめてー!!!
というかリンたちの親父さん、ほんっとすんまっせん!
かなりの捏造ですよ(笑)



2009.07.23



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