熱と共に溶けてしまおう@
トシマを抜け出してから半年が経とうとしている。
アキラとケイスケは毎日工場で働き、充実した日々を送っていた。
朝
ケイスケはただならぬ異臭で目が覚めた。
ぼやけた思考で考えたのは、火事…
どんどん血の気が引いていくのがわかる。
布団から跳び起き、臭いのするほうへ走った。
「…ケイスケ…」
「…アキラ…?何してるの?」
アキラがキッチンにいた。
普段、料理をしないアキラがキッチンにいる…という光景は、何とも異様だった。
ふと目をやると、鍋から黒い煙が発生している。
「わわわ!み、見るなよケイスケ!」
「でもアキラ、焦げてるって!怪我したら大変だからその鍋は俺が洗うよ!」
「だっ、大丈夫だから!…ほ、ほら!そろそろ仕事に行かなきゃいけない時間だろ!」
「あと1時間余裕あるけ…「いいから!仕事行けって!鍋はちゃんと元通りにしておくから!」
アキラの慌てぶりは異常だった。
焦げた鍋を触らせたくないのか、必死に鍋を死守している。
ケイスケはそんなアキラの様子に疑問を感じながらも、促されるまま仕事に向かうべく支度をし始めた………
いつもより20分ほど早い出発になる。
早く行くように急かした本人は全然身支度が整っていなかった。
「ケイスケ、悪いけど先に行っててもらえるか」
「…アキラ具合でも悪いの?」
「いや…違うんだけど…。とにかく工場長には適当に理由を言っておいてもらえるか?」
「う、うん。わかった。」
「必ず仕事には行くから。」
いってらっしゃい…そう言うとすぐに部屋の奥に戻っていってしまった。
「…アキラ…どうしたんだろう…」
ケイスケはアキラが何をしているかわからなかった………
***
「おはようございます!」
「おはようケイスケ。…あれ?アキラはどうした。」
工場長はいつもケイスケの隣にいるアキラがいないことに気付いた。
「あ…な、なんかアキラは朝から腹が痛くてトイレから出られないみたいで…。後で遅れてくるみたいです。」
適当に理由をつける。
工場長は一瞬疑うような眼差しでケイスケを見たが、何も聞いてこなかった。
***
3時間ほど遅れてアキラが出勤してきた。
「すみません!遅れてしまって…」
「いやー、大丈夫だ。それより腹の具合はどうだ?」
「腹の具合?…あっ、大丈夫です。」
くそ…ケイスケ…変な理由つけやがって…。
アキラは少しケイスケを恨んだ。
それからは特に何もなく、普通に仕事に打ち込んだのだった………
***
「アキラー、今日の夕飯はオムライスでいい?」
「ああ。」
キッチンからケイスケが声を張り上げ、隣の部屋にいるアキラに聞く。
アキラが戻ってくると、タイミング良くオムライスが運ばれてきた。
「そうそう…」とケイスケが言いながら、変な色をしたタッパを持ってきた。
「ケイスケ、その茶色いドロドロしたやつは何だ?」
「これ、今日工場長からもらったんだ。『デミ…なんとかソース』って名前らしいよ。」
そう、デミグラスソースである。
アキラもケイスケも見たことがなかったようで、興味津々な様子だ。
匂いを嗅いでみたり、味見をしてみたり…
「それで、これをオムライスにかけると美味しいらしいよ。…かけてみよっか。」
そう言うと黄色いオムライスの上にデミグラスソースをかけた。
「…アキラ…先に食べてみる…?」
「…いや、遠慮しておく…。」
お互い、初めて見るものを恐れ、相手に毒味させようとしている。
互いに目で訴えかけていたが、しばらくするとケイスケが痺れを切らして『オムライスデミグラスソースかけ』を一気にかけこんだ。
アキラが心配そうにケイスケを見る。
「…美味い…美味いよアキラ!」
アキラもケイスケの言葉に釣られて食べてみる。
「…美味しい…。」
それからしばらく二人とも無言でオムライスを食べていた。
夕飯を食べ終え、ケイスケは立ち上がるとキッチンに向かった。
「ケイスケ、どうした?」
「喉が渇いたから水でも飲もうかと思って。冷蔵庫に入ってるよね?」
冷蔵庫という言葉にアキラはピクリと反応した。
急いで冷蔵庫まで行き、開きかけた扉をバタンと閉めた。
「ん?」
「俺が取るから!…な、なんだったっけ?水でよかったんだよな?」
「う、うん。そうだけど。…なんか今日のアキラおかしいよ。コソコソしてる。俺に何かあるなら、はっきり言ってくれて構わないんだよ」
「い…いや…本当に何でもないんだ…。…そ、そうだケイスケ、風呂入れよ。湯も沸いてるし。」
「…うん。じゃあお先に…」
アキラに何があったのか気になり、もっと聞きたいことがあったのに、強制的に風呂を勧められてしまったケイスケは、名残惜しそうにアキラを見つつ、風呂に行った。
アキラは冷蔵庫に入っている物を見ると、ぼそりと言った。
「…今、見せたくないしな…」
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