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あの日…
そう、シキが深い闇から戻ってきた日……

シキの瞳に宿った光を俺は一生忘れない

あの日からちょうど一年後である今日もまた、俺の胸に刻まれるのだろう…




極上のウソ




「…キラ、…アキラ」

肩を揺すぶられ意識が覚醒した。
酷く頭が痛い……

「全く、俺がいないとすぐに寝るのか?お前は。」

「…あー…ゴメン、酒が入ってるせいかすぐに眠くなって…」

「…にしても、普通レストランで大勢人がいる中で眠れるお前に関心する。」


シキは呆れ顔でアキラを見て溜息をひとつ。
そう、今日は4月1日…二人の結婚記念日だ
美味い飯、美味い酒によって、二人のテンションは上がっていた。酒の弱いアキラは相変わらず自重せず飲み続け、当然と言えば当然だがフラフラしていた。

へへへ…と普段からはとても想像できないような笑みを見せながらワイングラスに手を伸ばすが、さっとシキがその手を遮った

「アキラ」

「別にいいだろ…飲みたいんだからさ」

「止めておけ。」

「何で?」

「何で…、全く…。お前が酔うと抱えて帰らなきゃならん俺のことも考慮しろ。…いくら今日が結婚記念日でもn…「…シキ」

話を遮られムッとした表情を浮かべるシキだったが、そこを指摘したところでかえってくどくなるのも嫌だったのでアキラのペースに合わせることにした


「ねぇ、ほら、結婚する前の年?…4月1日のこと、シキは覚えてる?」

「…忘れる訳がないだろう?」

「…あの日……―――」








***(シキとトシマを抜けた次の年)

「用意はできたか?」


全身黒で統一した服装でキメていたシキは時計を見ながら苛々していた。
アキラは中々着る服が決まらないようでもたついていた。

「…用意って…シキ、何で前日に外出することを言ってくれなかったんだよ!」

「それは今日、俺が決めたからだ」


きっぱり言われ何も言い返せないアキラ。
そう、2年前、シキを匿うように隠れながら空き家にいた二人だったが、こうしてシキも復活して約一年が経ち、空き家からアパートへ引越したのだ。
その引越しというのがちょうど昨日終了したばかりでのその発言だったわけだ。

「…それで?どこに行くんだ?」

「どこへ行きたい」

「はぁ?場所を決めてないのに勝手に行くことにしたのか?アンタ!」

「そこは男の俺が決めるんじゃなくてだな、「俺も男なんですけど!」


自分が女扱いさせたみたいでアキラは怒ったが、シキに軽くスルーされた。


「アキラ、よく考えろ、これは初デートだ。だからどこへ行くのかお前に決めさせてやると言っているんだ。」

「初デート…」


そのシキの何気ない一言にドキリとしたがシキは気づかない。


「…わかった、考えておくから…その…ほら!何と言うか、アンタがそうやって急かすように見てるから服が決まらない!外で待ってろよ」

「何だ、急かしているのは分かってたのか。」

「あー!もう!」


シキは笑いながら外に行った

部屋の箪笥をゴソゴソとあさる。…シキがいないので音がない。
アキラは近くにあったテレビのリモコンを取って、テレビをつけた


『おはようございます!今日は4月1日、エイプリールフールですね!!……』



(エイプリールフール…)

あぁ、言われてみればそうだ。今日はエイプリールフール、一年に一度だけ嘘をついてもいい日とされている。
最近、引越しやらで忙しくて気にもしていなかった。


テレビはリアルタイムで話をしていたがアキラは着ていく服を探すのに必死で殆ど耳に入っていなかった………







「遅い。…女じゃあるまいしそこまで身なりに時間をかける必要はないだろう?」

半ば呆れ顔でシキは腕時計を見た。


「そもそもアンタが…「俺が何だ」

言葉が詰まる。シキが覗き込んできたので、アキラは視線を逸らした


「…アンタがそんなカッコイイ格好してるから隣で一緒に歩く人間としては…色々気を遣わないといけないんだよ。」

「…馬鹿だな、別に気取らなくてもお前はお前だろう?」

「……初デートだから…それらしくしたかっただけだ!」


早口にそう言うとスタスタとアキラは一人で先に行こうとする。
シキはアキラの手首を掴み立ち止まらせた。


「先に行くな」


少し顔を赤くして目を逸らすアキラをもう少しからかってやりたい気もしたが、やめることにした。


「…それで?どこに行きたい」

「動物園」

「動物園…?」

あまりに予想外な場所だったのでマヌケな声が出てしまった。

「ここから二駅行ったところにある動物園、あそこのレッサーパンダが見たい」

「そ、そうか。」

「シキ…嫌なら別に」

「いや、動物園にするか。」


シキの中ではアキラは「別にどこでもいい」という答えが返ってくるだろうと思っていた。
こうもはっきり動物園と言われてしまったので、何と言うか色々と予定がくるった。


…アキラが動物好きというのは新発見だった………
そして、シキがペットショップの店員募集の用紙をアキラに手渡したのはまだ先のこと…






動物園に着くなり、アキラのテンションは明らかに高くなっていた。
まるでこれではちびっ子と同じだ。もう着いてから何時間もその調子だ


「アキラ、はしゃぐな」

「えっ?何?…あ!あそこ!レッサーパンダだ!」

「……」

くるくると表情を変えながら嬉しそうに動物を見るアキラの姿に自然と頬が緩む。
「何笑ってんだよ」とアキラに指摘されたが…そりゃそうなるのも当然だろ?


「アキラ、楽しいか?」

「楽しい…ありがとう」

急に真面目な顔で言われ、困惑した


「俺、シキと一緒にこんな所に来られるなんて思わなかったから…。信じられないんだ、トシマで初めて出会ったあの日からこうして時間が過ぎて、今こうして隣で笑いあえる関係になるなんて。」

「…アキラ」


動物園にはふさわしくない会話だと感じたのだろう、二人は帰ることにした







「レッサーパンダ…よかったなぁ…。あの中に人でも入ってるんじゃないか?立って歩く姿が…シキ?」

アパートに帰り、和室でのんびりをくつろぐ。
二人で暮らすには少々小さめの部屋ではあったが、前の空き家よりは雨漏りも隙間風もなくていい。

シキがじっとアキラを見る。


「アキラ、一度しか言わないからよく聞け」

「…?わかった。」


急にかしこまって何を言おうとしているのかアキラには全く見当がつかなかった。
しかし、いつもとは違う空気が張り詰めていた


「俺はこの先もお前と共に生きたい。…お前には俺には無いものをたくさん持っている。俺自身何が欠けているのかを教えてくれたのもお前だ…」

「何言ってるんだよ。言われなくたって俺は一生アンタと生きていくさ。お互い、欠けているところが多いから埋め合いたい。」


何の合図もなく二人の唇が合わさる。互いの体温を感じるような触れるだけのキス。
トシマにいた時とは違う柔らかいもの。

暫くして唇が離れた。
アキラは何かを思い出したかのように目を大きくした


「…シキ、こんな時にこんなことを言うのは不謹慎かもしれないけど…さっきの言葉、エイプリールフールとは無関係だよ…な?」

「…エイプリールフールか。…さぁ、どうかな」

シキの言葉を信じるかどうかは全てアキラ次第だということだ。そしてアキラは………






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