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アキラは式場にいた。
着たくもないウエディングドレスを纏い、自分の姿をじっと見る。
化粧だけでここまで女らしく見えるとは思わなかったのだろう。アキラは驚きを隠せずにいた。



ドアがノックされ一瞬緊張がはしる。
アキラが声だけで返事をすると、シキが部屋に入ってきた。


「着替えたか。」

「…見るなよ…」

なんとなく恥ずかしくなり、視線を逸らす。しかし、シキはアキラの顎をとり無理矢理シキのほうを向かされた。
抵抗するが、それより先にシキが頬に触れるだけのキスを落とした。


「…っ……」

「全く…お前は可愛いな。男にしておくのはもったいない。」

「…な…にいって…」

「冗談も通じんのか。…さて、行くか。」

「あぁ。」

「まぁ、俺としてはお前の姿を他の奴らに見せること自体腹が立つことだがな。」


何と答えたらいいのかがわからず無言になる…………







***

一方、教会の席に座るトシマメンバー。
ケイスケだけが落ち着かないようで、うろうろしている。

「ケイスケ、座りなよ。アンタがオロオロしたってアキラはもう兄貴のものなんだ。」

「わかってる…でも…」

「でもも何もないの!アキラが兄貴を選んだんだから仕方ないよ。」


リンが頑張って説得しているのだが、そんなことは上の空で全く聞く耳を持たない。


「ほら、もう始まるから座れってー!…あ…ほら、新郎新婦入場って…!」

音楽が流れ、扉が開く。
黒のタキシードを着たシキがアキラの手をひいている。
アキラはシキの歩調に合わせながら慣れない足どりで歩いている。



「…こりゃまた…アキラ綺麗だな…」

源泉がため息をつく。



二人が神父の前に着くと、神父が二人を交互に見た。やはり、まだ同性の結婚は珍しいのだろう。
眠たくなるような神父の話しが終わり、定番のあの言葉を聞かれる。


「シキ、貴方はアキラを一生愛することを誓いますか」


「当たり前だ。そんなことを聞くこと自体間違っている。」


ただ「誓う」と言えばいいものを…とアキラは思う。

今度は逆にアキラに同じことを聞く。


「…誓います…」

「では、誓いのキスを。」


そう言われると急に顔が真っ赤になるのを感じた。

みんなが見ている。
アキラがシキを見るとシキもアキラを見た。シキの表情からは何も読み取ることができない。
すると、シキの手がアキラの頭にあるヴェールを捲り、頬を挟むようにして触れられる。
これから何が行われるかがわかり、目をつむるアキラ。

シキの顔が近づいてくるのがわかる。
息が顔にかかる距離で動きが止まる。


「…愛してる…」


そう囁かれ、唇を重ねられた。

後方でバタンと大きな音がしたが目の前がシキでいっぱいなため、わからなかった。
それに目を開けてはいけない気がしたのだった。




…にしても長い…いつまでこのままなのか…

アキラはだんだん息苦しくなってきた。
最初はただ唇が重ねられるだけのキスであったのに、今はシキの舌が完全にアキラの咥内を犯している。

言葉を発することも出来ずにただされるがままになっていた。


「…っ……ふ…」

教会の中で二人の水音が響く。


「うっはー!!すげー!ジジ見ろよー!あの二人チューしてるぜー!!」

「あぁ、そうだなァ」

「イル・レたる人物があんなことをするとは……」

元ヴィスキオの三人は目を白黒させている。


一方ケイスケはあまりに濃い二人の口付けに心拍数が一気に上がったのか、フラフラと倒れてしまった。
リンと源泉はそんなケイスケを介抱するのに必死になっている。

介抱しつつ、横目で熱々な二人を見て同時にため息が出た。


「なぁオッサン。オッサンと亡くなった奥さんとの結婚式の時もあのくらい熱々だったわけ?」

「いんや、ありゃ異常だ。普通は軽く口付けするくらいで終わりになる。……いやーお前の兄貴も大胆だな……」

「大胆なのは昔からだよ。」





神父がいい加減やめるようにと目でコンタクトを送るが、『いいところだから』と言わんばかりにシキが睨みつける。



「…く…るし……っ…」


アキラが涙目で訴えるので、渋々唇を離した。

アキラの口端からはどちらのものかわからない唾液が顎を伝う。

やや紅潮し目元が潤んでおり、シキはそんなアキラの姿に一瞬眩暈を覚えた。

アキラの濡れた唇は艶めかしく、口は半開きの状態で放心状態に陥っている。


「…シキ…」

「その顔は俺を誘っているようにしか思えん。」

「…誰がその顔にさせたんだよ…馬鹿…。みんな見てるのに…」


そう言い、式場内のメンバーを見て困った表情を見せた。



タイミングを見計らって神父が進行を始める。


「…あ…では、新郎新婦の退場です…」

再び音楽が流れ、シキはアキラの手を取り歩き出す。

みんなの横を通り過ぎる時、アキラがケイスケを見た。
ケイスケは泣きそうな顔をしている。そっと傍に近づくと逆にケイスケがアキラの手を握った。

「…アキラ…おめでとう…」

「…ありがと…」

「シキと幸せになれよ。」

「あぁ。」


短い会話だった。しかし、二人は昔から行動を共にしていたため、お互いに言わんとすることが理解できた。

リンはシキを呼ぶと仏頂面でシキに忠告をする。


「俺はおめでとうなんて言わない。でも…これだけは守ってほしい。…アキラを大切にしてあげて…」

「…あぁ」


兄弟どうしの会話なんて何年ぶりだろう。リンはそれだけ言うと顔を背けてしまった。


「イル・レ、そしてアキラよ。結婚おめでとう。」

「シキティー!子供が出来たらすぐに報告くれよー!!!飛んで行くからなァ!!」

「馬鹿かヒヨォ…子供はできねェんだよォ…」

「シキ…アキラ…幸せにな。オイチャンもたまに家に寄らせてもらうからな。」



全員に祝福され、二人の結婚式は幕を閉じたのだった……………









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