B


次の日、重い身体をさすりながらアキラはたくさんのパンフレットを見ていた。

身体が重いという原因は勿論、シキだ。
あの後アキラを気が済むまで抱いたというのは言うまでもない。


「シキ…やっぱり…」

「…着なければ認められない…か。」


先程から見ているパンフレットには同性同士の結婚の方法が書かれている。
ニホンでの結婚の条件として、どちらか一方の者はウエディングドレスを着なければいけない…とある。


「着るのって…やっぱり俺なのか…?」

「当然だ。俺が着ても似合わないからな。」

「俺が着てもそれは同じだろ。」

「…お前はわかっていないな……」

「……??」


シキがどういう意味で言っているのかアキラはわかっていないようだった。


「そういえば…プロポーズとか…その…ないのか?」

「プロポーズ?何を言っている、昨日奴らの前で言ったじゃないか。」

「結婚しようと思うってやつか?…普通は…」

「プロポーズなんかしなくても昨日散々お前の身体に刻み込んでやったはずだが。…なんだ…足りなかったのか?この淫乱め。」

「……。」


アキラが黙るとシキは僅かな戸惑いをみせた。プロポーズなんて性に合わないから言いたくないのだ。しかし、アキラが物欲しげな眼差しを向けてくるので、仕方なくため息をつき、


「…結婚しろ。」

と、命令口調で言った。


アキラは「期待した俺が馬鹿だった。」と言うと、再びパンフレットに視線を戻した。






「あ…やばい…」

「どうした。」

「ほら、ここ。『夫となる者は年収500万以上の収入が見込まれる人物でなければならない』って…」


アキラは心配そうにシキを見ている。
シキはふん、と鼻を鳴らすと引き出しから何やら紙らしき物を取ってきた。

「俺がヘマをするとでも思っていたのか。見ろ、一流企業への就職が決まった。」

「…ホントだ…というかいつのまに就活してたんだ?」

「二週間ほど前だ。俺くらい実力とスキルがある人間は一目で採用するに決まっているだろう。」

「……ふーん。(どうせ力で採用させたんだろ。)まぁ、それなら大丈夫そうだな。」


アキラの知らない間にパパッと職に就いてしまったシキに関心するアキラであったが、逆に何も相談されなかったので少しむっとした。


「そうだ…言い忘れていたが、お前にもいい仕事を見つけてきてやった。どうだ、これは。」

シキに紙を渡された。
そこには大きなゴシック体の文字で『ペットショップ正社員募集』と書かれていた。

「…何故にペットショップ…?」

「お前、動物が好きではなかったのか?」

「そんなこと一言も言ったことがない。」

「まぁ、どんな奴にも熱烈なラブコールを送られるのだからそれは人間であれ、動物であれ、大して変わりはないだろう。今度面接でも受けてこい。」


どこまでも支配者気取りである。
誰が受けるか!と思いつつも、応募用紙にプリントされた愛くるしい動物たちを見て心揺らぐアキラであった。





***

収入の条件はクリアしたわけだが、またしても問題が発生した。

「シキ…結婚式どこでやる?」

「教会に決まっているだろう。…なんだ、嫌なのか?」

「いや?教会で構わないが…資金がない。」


アキラが困っていると再びシキは引き出しから茶封筒を持ってきてアキラに手渡した。

「…こ、小切手…1000万円…?これ誰からだよ!」

「アルビトロが式代に使えとくれたものだ。なんだ、昨日俺が受け取っていた光景を見ていたはずだが。」


…確かに見ていたのかもしれない。
しかし、あの時は気が動転していたためそんな余裕がなかったのだ。




「さて、まずは婚姻届を書くぞ。」

これまたいつの間に用意したのか、シキはさっと婚姻届に記入し始める。


「…シキ…字書けたんだな。なんか日本刀しか握ってない気がしたから…意外だ。」

「ふん。馬鹿にするな。俺だって字くらいは書ける。…どうだ、上手いだろ。」


そう言って自慢げに自分の字を見せつけてくる。
…確かに、シキの言うとおり上手い分類に入る。

アキラが見ている間に書き終わったようで、目の前に用紙が突き出された。
シキの手本を見つつ書いていると、急に書く手を止められた。


「…なんだよ。」

「全くお前は料理が出来ないと思えば字もまともに書けんのか。情けない。」

「悪かったな!それなら習字に通うから金だせよ!」

アキラは腹を立て、残りの欄をいい加減に記入した。


「いいだろ、これで。さっ、出しに行くぞ。」

これ以上何かケチをつけられるのは御免だとアキラは立ち上がると上着を羽織り身支度を整え始める。

「アキラ。」

「ん?」

「どうして今日婚姻届を出しに行くかわかるか。」

急に聞かれ、答えに詰まる。
シキはカレンダーのほうに近づくと赤丸印を指さした。


「今日は何の日か覚えているか?」

「…わからない。」

「今日はお前とトシマを抜けた日だ。」

「…っ……」


アキラはすっかり忘れていた。
ところがシキは覚えていて、いつまでも忘れないようにこうして印を付けていたのだと言う。

「準備は出来たか?印鑑を忘れるな。」

「わかってる。」


このところやけに人間じみてきたシキをチラリと見て、役場に向かったのだった……








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