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倒れ込むように買い物袋を床に置き、テーブルに上半身を投げ出した。
目を閉じれば先程の光景が再び蘇ってくる。


あの女は誰なのか?もしかしてシキは自分に内緒で前々からあの女と会っていたのか?
そもそもあんな時間に、あんな場所にシキが居る理由がわからない。

「…そうだよな、シキだって男なんだし、異性が好きになって当然なんだ…」

自分に言い聞かせるように呟き頭を掻く。
冷静になろうと深呼吸をするが出来なかった。
アキラしかいない家、チクタクと時計が時を刻む音だけがやかましく響く
ドキドキといつもより早い心臓の音が聞こえ耳を塞いだ。

暫くして、アキラが頭を上げると午後5時を回っていた

「2時間も経ったのか…」

アキラが溜息をついた瞬間、電話の音が鳴り、驚いた


『あー、もしもしアキラ?』

「……ケイスケ?」

『…アキラどうしたの?…泣いてる?』

「いや、なんでもない…」

『何かあった?』

「…ホント!なんでもないから…。…悪い、今日は誰とも話したくない…。また今度、俺から電話掛けるから」

『えっ?ちょっ、あ―――』

半ば無理矢理電話を切った。ケイスケには悪いと思ったがこんな状態で話なんかできなかった。







夕飯を作る気にもなれず、椅子に座ったままボーっとしていた。
それからまた2時間が過ぎ、7時になった。普段ならもう帰ってもいい時間だ。
それなのに電話もなければ何もない。


「俺は捨てられたのか?…もう帰ってこないのか?」

心の中のモヤモヤがまだアキラを支配していた。
『嫉妬』というのはこういうものなのか?などと自嘲的に笑う。
シキは今あの女と居るのだろうか、どこにいるのだろうか、何をしているのだろうか??

止まることのない疑問に苛々し、テーブルをグーで殴った。
残ったのはただ右手の痛みだけで、何も変わらなかった

すっかり暗くなってしまった空を見て、電気を点けようと立った。


ガシャン!!!


右手が何かに当たり、大きな音を立てて割れた。

慌てて手を伸ばして何が落ちたのかを確認するためにガラスに近づくと、青色の花瓶が割れていた。
すぐに片付けようとガラスを拾おうとしたとき、右手の親指に鋭い痛みが走った

「痛っ…」

切れた傷口からツーっと血がにじみ出てきて……







もう立ち直れなかった。
アキラは泣き崩れながら割れた花瓶の横に座った。

この割れた青いガラスの花瓶は結婚記念日として買ったものだ。
二人の思い出が一つ壊れた気がして、傷ついた


その時玄関が開く音がして、アキラのいるリビングの電気が点き、聞き慣れた声が耳に入った


「電気を暗くして何して…?アキラ!!」

テーブル横で泣いていたアキラを見つけ、すぐに駆け寄ってきた。

「…アキラ、何があった?…怪我をしてるじゃないか」

シキがアキラの手を取った瞬間、パシッとアキラはその手を振り払った。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

「…なんでもない」

「これが『なんでもない』で済まされるとでも思っているのか、お前は」

「もう!…俺に話しかけるな…」

アキラは目の周りを腫らせてシキを睨んだ。
シキは首を傾げる

「ちょっと待て、状況が読めん。俺が何かしたか?」

「アンタは!!!…あんなこと俺の知らないところでしておいてとぼける気か!?」

「…何のことだ?」


身に覚えがない、とシキは言った。


「昼の喫茶店!あの女、誰だよ!シキはその女と楽しそうに話して……。…俺だってあんなに楽しそうに笑ってるところを見たことないのに…」

アキラの発言にポカーンとするシキ

「あと!眼鏡!何だよ!見たことない!!」

聞いたこともない大声で壊れたように話すアキラ。

「アンタは男だから同性の俺に愛想尽かすのもわかるけど!でも!俺の何がいけなくて何が嫌いになったのかわからなっ…ぅぐ…」


最後まで言い終わる前にシキがアキラの唇を塞いだ。
離れようとするアキラを押さえつけて無理矢理舌を捩じ込む。
アキラはなにかを言いたげだったが、暫くして息が苦しくなり始めたのか、大人しくなった。

「…っぷは!…っ、」

「勘違いも大概にしろ。全く」

「…勘違い?」

シキは溜息をつくとアキラを椅子に座らせて散らばった破片の片付けを始めた。


「一つずつ誤解を解くが、まず、あの女は俺が働く貿易会社の交渉相手の奴だ。
来週、あの女が勤める会社と俺の会社とで会議をしていろんなことが決まる。
女の会社との交渉が上手くいけば俺の会社にとって凄い利益に繋がるんだ。
今日は俺が代表であの女と会い、事前交渉をしていたわけだ。」

あと、とシキは続ける

「俺が楽しそうに話していたのも、楽しそうに笑っていたのも、何と言うか…知らんか?『営業スマイル』というやつだ。
俺だって交渉をいい方向に進めていきたいからな、愛想よくするに決まっているだろう?」

「それじゃああの眼鏡は?アンタが眼鏡を掛けるなんて知らなかった」

「あぁ、あれは伊達眼鏡だ。特に意味はない。…わかったか?」

「…信じていいのか?」

「任せる。まぁ、こんなことで嘘をつくのも馬鹿らしいからな。」


片付けが終わったようで、シキはガラスを新聞紙に包んで安全な場所に置いた。
アキラは深く溜息をつくと俯いた。


「俺は…アンタに捨てられたんだと思った。自分でもおかしいんじゃないかってくらいあの女に殺意を抱いた。
俺の何がいけなかったのかわからなくて…」

「全く、馬鹿としか言えんな。」

アキラが怒るのと同時にシキはヒョイとアキラの身体を抱き上げた。アキラは足をバタつかせ抵抗したがガッチリとホールドされていたため逃れることはできなかった。そのままシキはアキラを寝室に連れて行った………



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