俺達のバレンタイン


俺達のバレンタイン




(Side⇒Shiki)


日曜日…それなのに仕事が入った俺は、休みを返上して働いた。



***
昨日の夜、仕事があるとアキラに告げると、一瞬にして不機嫌になった。

「……というわけで明日は仕事が入った。」

「…あ、そう。」

「何だ、怒っているのか」

「…別に。」

怒っている…それはアキラの反応を見ても明らかだった。

それからは俺を避けるように風呂に入り、一言も話さぬまま寝てしまった。



***
……曜日が変わってもアキラは何も話してくれなかった。
たかが日曜が潰れたくらいでそこまで怒る理由がわからなかった………というの
は嘘になる。

今日は2月14日、そうバレンタインだ。
前々からバレンタインはどこかに外食しに行こうという計画を立てていたのだが、オジャンになってしまった。
仕事を断れればよかったが、会社の中でも上のほうで働く俺はそれができなかった。


仕事を終え、端から見れば薄気味悪い会社から出た俺は少しでも早く家に帰ろうと歩みを速めた………




(Side⇒Akira)

昨日、シキから仕事が入ったと聞かされた俺は、怒ってはいけないと思いながらもつい、顔に出てしまった。
シキだって仕事に行きたくて行くわけじゃないとわかってた。…でも、どうしても抑えることができなかった。
寝るまでだって普通に接することが出来ればどんなによかったか。…俺はそんなに器用な人間じゃない。

本当は今日、一緒に外食をする予定だった。
前々から楽しみにしていた俺に対しての突然の変更に戸惑いを隠せないまま朝を向かえ、無言でシキを送り出し…

「ホントに、何やってんだ、俺。」

夕方の買い物を済ませた俺は家で一人呟いた。

なんかもう…何も手につかない。
無意識に涙が出そうになり、振り払うようにテレビをつけた。


『さぁ、今日は2月14日、バレンタインですねー!そこで今日は手作りチョコを簡単に作りたいと思います!!』

テレビから流れる明るい声
もうすぐ6時になろうとしているのに今頃チョコを作ろうだなんて馬鹿じゃないのか?と一人でツッコみ、テレビを消そうとリモコンに手を伸ばした。

…いや、待て…
ここでチョコを作ってシキに渡せば重かった空気が軽くなるんじゃないか…?
男同士でバレンタインデーだのおかしいかもしれない。
でもこれで話すきっかけができれば…昨日怒ってしまったことを謝れるかもしれない…。

俺は立ち、近くに置いてあったメモとボールペンを用意し、テレビを見た……




(Side⇒Shiki)

ふと、商店街の小さな電気屋のテレビが視界に入った。
どうやらバレンタインの話題のようだ。

「…アキラが見ていないといいんだが…」

もし、見ていたら更に機嫌が悪くなるかもしれない。


『皆さん、知っていますか?ある国ではバレンタインで薔薇の花をプレゼントするそうです!……』

…なんだって?

一歩歩いたところでそんな声が聞こえてきた。慌てて戻る。

待て…、もしここで俺が薔薇を買って帰ってアキラに渡せば…話すきっかけになるんじゃないか…?

俺はテレビを見るため、入りづらい電気屋の前でテレビをガン見していたら店主が出てきて話しかけてきた

「お客さん、このテレビ…「うっさい、しゃべんな!!」

…せめてこのバレンタイン特集が終わるまでは喋りかけないでくれ…!と言わんばかりの視線を送れば、店主は少し身体を震わせて店の奥へと引っ込んでいっ

た。
…俺、そんなに怖い顔してたのか…?

***


花屋で赤い薔薇を購入、少し時間を食ってしまったが、走ればいいだろう。
真っ赤な薔薇を持って全力疾走している男を見れば何事かと皆振り向くが、そんなことは気にしなかった。
羞恥よりも早く家に帰りたいという感情のほうが大きかった。


***

玄関を開け、中に入るとアキラの大声が聞こえた。

「シキ!入らないで!!」

…意味がわからなかった。帰るなりいきなりそんなことを言い出すアキラに少しイラッとした。

「何故?」

「何でも!!とにかく悪いけどキッチンには入ってくるなよ!」

語尾を強調して声を張るアキラ。
ああ、よかった。出て行けと言われているのかと思った。



しばらくして入ってもいいと許可が出たので、すぐにキッチンに向かった。
…というかなんだ、この匂いは…
甘いという次元を通り越してすごいことになっていた。

「…アキラ」

「うわわ!いきなりキッチンに来るか…普通…」

「にしても凄い匂いだな…」

「…後で…夕飯の後に」

モジモジしながらアキラが言うので、その瞬間何となく察した。
何だ、こんなに普通に会話できるのなら薔薇なんて買ってこなくてもよかったかもしれんな…



***

夕飯が終わり、アキラがキッチンから赤い箱を持ってきたので俺は首を傾げた。

「…あの…昨日は…その…怒って悪かった。だから…チョコを作った。」

日本人としてはおかしな言い回しだったが、俺はその箱を受け取った。

「昨日はイライラしちゃって…「アキラが謝ることはない。」

アキラが泣きそうな顔で言っていたから慌てて言葉を遮った。
俺は先程買って来た薔薇をアキラに渡した。

「…薔薇?」

「今日はバレンタインだっただろ?ある国ではバレンタインで薔薇をプレゼントするそうだ。その薔薇の本数で色々意味があるらしい。」

「初めて聞いた…。ええと…1、2、3…24本?」

「何となく聞いていたからうる覚えだが、24時間、その人のことを思い続ける…的な意味だそうだ。」

それを聞いたアキラは顔を真っ赤にした。
手をグーパーさせてモジモジしていた。

「…あ、ありがとう…」

小さい声だったが、確かに聞き取った。
本当は暫くアキラの反応を楽しもうと思ったが、止めた。
先程もらった赤い箱を開けると中には大きなハート…?のような形をしたチョコがあった。
チョコの真ん中に白のチョコペンで『シキ』…?と書いてあった。

「急いでつくったからぐちゃぐちゃだけど…」

「ありがとうな」

普段は出ないような言葉がスラッと出てきて、自分でも驚いた。
アキラはそれよりも驚いたようでポカンとしていた。
それが妙に恥ずかしくなり、反射的にアキラを抱きしめた。

「…ちょ、ちょっと…いきなり!」

俺の腕の中でもがくアキラを逃がすまいと更に抱きしめる腕を強くした。

「2月14日はまだ終わってない。お楽しみはこれから、だろ?」

わざと囁くように耳元で言うと、アキラの動きがピタリと止まった。

「…そう…だな…」

アキラの表情はわからないが、その口調は穏やかだった………




end



2月14日、バレンタインネタで一つ。
…というわけで、最後までお読みくださりありがとうございました!
前日までシキアキ夫婦で書こうか、淫靡EDで書こうか悩み続け、結局シキアキ夫婦で書きました。
いやぁ、相変わらずプロットなしでいきなりモサモサと書くので文章が酷いもんです(笑)
ああ、文才が欲しい…
シキもアキラも互いに『話すきっかけ』という理由でチョコを作ったり薔薇を買ったりしていましたが、それは嘘ですね←
きっかけではなく、ただ今日がバレンタインということで買ったんだろうなぁ…と思っていただけると楽しいんじゃないでしょうか?
シキの言う『お楽しみ』は皆様のご想像にお任せする…ということで…ムフフ←

感想などいただけたら嬉しいです!!




2010.02.14

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