A
夜になり、もうすぐ日付が変わろうとしていたが、二人は一言も話さなかった。
結婚……
何とも重い響きである。
結婚するということは…………
アキラはシキに言いたいことがたくさんあったが、声をかけることはできなかった。
こんな状態で部屋で長居するのは御免だ、と思い、先に寝ようと寝室に行こうとしたとき、ふいに手首を掴まれる。
「…っ……」
「何故そんなに俺を避ける。」
「…わからない…」
「何がだ。」
「…どうしてみんなの前であんなこと言ったんだよ!?」
アキラの目からは涙が零れていた。
シキはアキラを自分のほうに引き寄せると腰に手を回した。
「逆に言わせてもらうが、そうでもしなければお前はいつまで経っても切り出さないだろう?」
「…俺がいつ許可したんだよ…アンタと結婚するかどうかの意思表示くらいさせてくれたってよかったはずだ…なのにアンタは勝手に結婚するとか言って……」
「お前は俺をどう思ってる。」
「……。」
「答えろ。」
目尻に溜まった涙をシキは指で拭くとアキラを見た。
アキラの顔は真っ赤になっている。
「…き…だよ…」
「聞こえんな。」
「…好きだよ…。」
「じゃあ何がそんなに迷うことがある。」
アキラは何かを言おうと口を開いたが、何も言うことなく口を閉じる。
シキが怪訝な顔をしてアキラを無理矢理布団に組み敷いた。
「んな…!なにす…「はっきり言え。」
上から赤い目が見ている。
逸らすことも出来ず、渋々話し出す。
「…その…結婚ってことは…あの…ウエディングドレスはどっちが着るのか…と…。」
「……もう一回言ってくれ。」
「…何度も言わない…。」
シキはアキラの身体を起こして正面に座る。からかうようにアキラの頭を撫でるとその手を退けようと腕をばたつかせた。
「結婚ってどちらかが女役?にならなきゃ…だろ?俺…ウエディングドレスなんか着たくない…。」
「ウエディングドレスか…そんなこと考えてなかったんだがな…。…お前、それを気にして怒ってたということか。」
シキは目元を押さえて笑いを堪えている。
「ケイスケに言われて自分も思い出したんだ。ニホンで同性同士の結婚が認められたことを。…でもそのことが引っ掛かって…」
アキラも自分がどうでもいいことで悩んだり怒ったりしていることに笑えてきたようで、照れ隠しのために布団に潜り込んでしまった。
「アキラ…結婚は…」
「…末永くよろしくお願いします…」
シキは布団を引きはがすとアキラを引きずり出した。アキラは潤んだ目でシキを見ると、自分からシキの頬に手を宛てて口付けをしたのだった……………
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