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「こんなクリスマス…最高かもしれない…」
その指先で触れて
昨日のクリスマスツリーを朝早くに起きて飾りつけをした。
もちろん、シキとアキラ二人で、だ。
夢中になって飾りつけをしていたので時計の針が12時を回っているのにも全く気づかなかった。
「…あ、シキ…昼飯どうしようか」
「…適当に家にあるものを食べればいいだろう。」
飾りつけが終わり、改まってそのツリーを見た。
昨日とは違い、馬鹿みたいな量の電飾は施していない。
シキにコレをここに飾れ!だの何だの言われ、指示どおりに飾っただけなのにとても綺麗にできていた。
シキのセンスが良いことを思い知らされたアキラだった。
昨晩食べたご飯が残っていたので、適当に具を入れておにぎりを作り、二人でさっさと食べ終わらせた。
「まさか俺もこんなに飾りつけごときに夢中になるとは思わなかった。」
「ははっ、確かに。俺もアンタがここまで一つのことに夢中になる姿はあの件以来見てないな。」
あの件…それはまだ二人がトシマに居て、シキがnを追っていたときのことだ。
今ではそれも思い出話として処理されている。
「あ…」
アキラが急に何かを思い出したような声を出した。
シキが首を傾げるとアキラは少しはにかみながら笑った。
「サンタからプレゼント、もらってない。」
「…何故俺を見る」
「え?あ、いや。『俺は』用意したのになぁ…プレゼント。」
「プレゼント?…何をくれる」
「まだ秘密だ。」
もったいぶるのもよくないと思ったが、シキも何かを隠しているようだったのでアキラも何も言わなかった。
「プレゼントだろ?俺が忘れるわけないだろう?」
「あ…何かくれるのか?」
「…まぁな。」
シキもそれらしいことを匂わせて笑う。
お互い無言の探りあいをしたが、これでは埒があかないと思ったのだろう、アキラが口を開いた。
「…なぁ、外に出ないか?…久しぶりにシキとどこかに出かけたい。」
急な誘いに驚くシキだったが、頷くと外出する準備を始めた………
***
昼食がおにぎり一つだけだったので、流石に大の大人二人の腹は満たされなかった。
市の中心にあるショッピングモール内のカフェに入り軽食を摂った。
二人はコーヒーを持ち、テーブルに着く。
「シキ、またブラックか。」
「お前みたいにキャラメルなんぞ甘いものを淹れたらその素材本来の味が失われるだろう?俺はそれが嫌いでな。」
「ブラック…そんなに美味いのか?」
「飲んだことないのか」
そう聞かれ、日常の様子を思い出す。
確かに、アキラはコーヒーは飲むものの、ブラックで口にしたことはなかった気がした。
一方シキはいつもブラックで砂糖やミルクを入れるのを見たことがない。
そんなことを考えながらストローを噛みつつシキを見ていた。
「…あー…ブラックはないな…。」
「お子様だな、本当にお前は」
「んなっ!?…それじゃあ飲ませてくれよ。」
「口移しがいいか?」
「…馬鹿」
クリスマスということでいつもよりハメを外すシキを見て溜息をついた。
アキラはシキのコーヒーをバッと奪い取ると一口飲んだ。
瞬時に広がる苦い味に、思わず眉間に皺を寄せる。
「ぅ…」
「無理するな。」
「…無理なんて…。俺も『お子様』じゃないからこれくらい飲める。」
先程のシキのお子様発言を気にしていたのだろう。アキラはうっすら涙を浮かべながらもそのコーヒーを飲もうと苦戦している。
アキラはシキのストローを口に付けたまま、自分のコーヒーを手渡した。
「アンタはコレを飲め。たまにはこんな甘いものも飲まなきゃ駄目だ。」
「…飲まなきゃ駄目はないだろう。」
「…飲め。」
「…仕方ない。」
強制的にシキに飲ませる。その瞬間、シキも同様に片方の眉を吊り上げた。
「…なんだ、この甘さは。こりゃ同じ種類のコーヒー豆とは到底思えんな。」
「そんなに不味そうに飲むなよ。それが美味いと思ってる俺はどうなる。」
「それはお前も同じだろう?そんなにブラックが不味いのならさっさと返…「嫌だ」
シキが言い切る前にアキラが拒否した。
「ブラックは正直言って苦手だ。…でも…シキが飲んだブラックコーヒーなら飲める気が…「それ以上は言うな。」
「…は?」
「何だ、誘っているのか?お前は」
「なっ!…そんなわけ…」
アキラもさっき自分が言ったことを思い返していきなり赤面し始めた。
「さらりと誘うようなことを言って…全く。自覚がないとはこのことを言うんだな。」
シキは呆れたように溜息をついた。
「…でも…それはホントだから…。」
俯きながら、確かにシキに聞こえる声でアキラはそう言った。
再び気まずい空気が流れる。
「…そういえば…言ってなかったな」
「何が?」
「今日は店と部屋を取った。」
「…はい?」
だから…とシキは同じことを繰り返した。
アキラは一瞬ポカンをした顔をした。
「…店と部屋…?」
「あぁ。」
「それがプレゼント?」
「…そうなるな。」
「…っ…」
「嫌か?」
「…嫌じゃない」
ただ、とアキラは続けた。
「店はいい。でもどうして部屋を取ったんだよ」
「馬鹿か。店で酒を飲むだろ?飲むとお前、どうなるか自分でもわかってるだろ?」
そういうことか。アキラはこの前の失態を思い出した。
一度目は自宅で酒を飲み潰れた。二度目は職場のみんなと飲みに行って潰れた。
「それに酔ったお前は乱れすぎる。」
「み、乱れるって…」
「あと、そのまま外に出ると風邪をひくだろう?」
「…そうか。」
納得したアキラ。
「部屋って…泊まるのか?」
「そのつもりだが。」
「あ、そう。」
それ以上は言わないことにした。これ以上話を派生させたら大変なことになりそうな気がしたからだ。
シキは他人の目を気にせず、いきなりアキラの手を取ったかと思うと外に出た………
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