突然の危機(後編)


バンッ!!


強い痛みが肩に広がる。

振り返るとそこにはアキラが息を切らせて立っていた。


「…アキラ…っ!」

パンッ!と軽快な音が鳴り響く。
数秒が経って、ようやく自分が叩かれたのだと理解した。
頬に感じるピリリとした痛み…。アキラは泣きそうな目で俺を睨んでいた。

「何なんだよ!!」

いきなり怒鳴られ驚く。アキラの大声を聞いたのは初めてだった。

「……。」

「…跡をつけてきたのか…?」

「…あぁ。」

「…サイテーだな、アンタ。」

「お前に言われたくない。人に黙って浮気か。最低はどっちだろうな。」

凄い剣幕で睨みつけてくるアキラに俺も同じように睨む。


「窓のところでシキの姿が見えたから…「サチコと!…会ったのか」

アキラの目が一瞬大きくなる。

「サチコは犬だと昨日も言っただ…「抜かせ。嘘も大概にしろ」

俺がそう言うと、アキラの目から大粒の涙が溢れ出した。


「…嘘じゃない!!…嘘じゃないんだ…」

顔を赤くして鼻を啜りながらアキラはそう言った。


「泣いたって俺には…」

『アキラさん!!』


マンションの入り口から一人の若い女が先程アキラが持っていたケージを持って走ってきた。
女はこの状況を見て立ち止まる。きっと訳がわからないのだろう。
…それも当然だ。涙を流しながら俺と口論しているのだから。

「…すみません、お取り込み中でしたら…」

「…っ…大丈夫です。…何ですか」


女はどこを見たらいいのかわからずケージのほうを見た。
中にはフサフサとした毛並みの白い犬が女を見ていた。

「…あの…いきなり部屋を飛び出して行ってしまったので驚きました…。それで…サチコがいきなりケージから飛び出して玄関の前で鳴くもので…。それでアキラさんに最後に合わせてあげようかと思って…。」


今、この女…何と言った?

アキラは目を擦り、ケージの中の犬を抱き上げた。

「サチコ、今日でさよならだ。…もう病気になんてなるなよ。飼い主を心配させるような犬になっちゃ駄目だ。…な?」


『サチコ』と呼ばれた犬はじっとアキラを見ていた。一度頭を撫でると女に犬を返した。

「本当にありがとうございました。」

「また何かあったら来てください。……シキ、帰ろう」

「…あ…あぁ。」

俺は頭を下げている女をチラリと見て、アキラのあとに続いたのだった………




***

先程から無言の時間が流れる。
その沈黙を破ったのはアキラだった。


「…ゴメン。」

「…何故お前が謝る」

「俺、あの時ちゃんとシキに話しておけばよかった。」

「……。」


アキラは何故昨日、俺に理由を言うのを躊躇ったのかを全て話した。
聞いてみれば馬鹿馬鹿しくて笑いそうになってしまった。


「…つまり、自分の声をその犬に聞かせてやってるだなんて知られたら恥ずかしいと思ったから言わなかったのか。」

「…馬鹿みたいだろ、犬に話しかけてる奴なんて。」


淡々と答えてはいるが、恥ずかしいのだろう。顔を赤く染めていた。

「…馬鹿だ。」

「…!!」

「そんなことで馬鹿にするとでも思ったのかお前は。逆に隠されるほうがもっと辛かった。」

俺がそう言うとアキラは再び謝ってきた。


「俺は…てっきりお前が浮気でもしているのかと思った。」

「馬鹿じゃないのか…?…浮気をする理由がないだろ。」

そう言って俺のほうを見た。


「…俺は、…シキが好き…だから…そんなこと…しない。」


下を向き頭を掻くアキラを後ろからそっと抱きしめると、耳元で囁いた。




「…俺も…愛してる」




犬が引き起こした大事件
だが…この一件でアキラの気持ちを再確認できたようだ……………





end



まさか2日続くとは自分でも思っていなかった勘違い話。
まぁ…でも…サチコ…。ネーミングセンスないですね(笑)自分で読み直して吹き出しました←(ギャグ的な意味で

単純なことでここまで話が大きくなるんだからシキも嫉妬深いなぁ…と思われましたでしょう←そこが狙いです(笑)
実際のシキからは想像もつかないでしょうが、私が考えるシキアキ夫婦はこんな感じです。


それではあと2日、お楽しみください。

よろしければ感想お聞かせください。





2009.12.23

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