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「変…かな…?」
男ものの浴衣に着替え、不慣れな様子でもぞもぞとアキラが隣の部屋から出てきた。
デパートで一番悩んだのはデザインだった。試着が不可能だったので袋に入ったままの浴衣を合わせてみるしかなかったのだ。
シキが急に「選んでやるから俺の浴衣のデザインはお前が選べ」と言い出したのでアキラはますます悩む羽目になった。
シキが選んだのは藍色の浴衣だった。
黒の糸で模様が入っているだけのシンプルな浴衣だったが、アキラにはとてもよく似合っていた。
「変じゃないぞ。お前の白い肌が際立って見える。他の奴に見せるのが勿体ないくらいだ。」
「…そ、そうか…。ほら、シキも着てみろよ。」
アキラが急かすとシキも隣の部屋に行き着替えを始めた。
しばらくして…シキも浴衣に着替えて現れた。
「…ぁ……」
「…何だ」
「…似合ってる…」
男のアキラでも浴衣姿のシキを見てかっこいいと思ってしまうほどよく似合っていた。
アキラが選んだ浴衣はシキが最も似合いそうな黒色で白い模様の入ったものだった。
正直なところシキが黒以外の服を着ているのを見たことがなかったため、それ以外は考えられなかった。
「似合っていて当然だろう?お前が選んだのだからな。」
「…っ…」
さあ行くぞとシキはアキラを促し、祭会場に向かったのだった……
***
「ほら!シキあそこ!金魚すくいだって!」
人目も気にせずはしゃぐアキラ。
「何だ、やってみたいのか」
「…え…あ…あぁ…。」
曖昧に答えるものの、目は金魚すくいのほうに釘付けになっている。
「…あのさ…」
「…何だ」
「シキも…やろう?」
「…仕方ないな。ほら、二人分の金を払え。」
アキラが出店の男に金を渡し、ポイを受け取る。
「へぇ…こんなので金魚取れるのか?」
「ほら、隣の奴らはそれで掬っているぞ。出来ないことはない。」
「…やってみるか…」
アキラはそろりとポイを水に浸けた。
金魚の下に上手く持って行きパッと掬う。しかし金魚はポイが破けるのと同時に再び水の中に入ってしまった。
「あっ!破れた…」
「そう落ち込むな。俺のポイを使ってもう一度やってみたらどうだ?」
シキから再チャンスをもらい張り切るが、またしても失敗してしまった。
結局、残念がるアキラを見ていた出店の男が金魚を一匹袋に入れてくれた。
「いいのか?」
「えぇ。仲のいい夫婦だからサービスですよ」
その言葉に顔を赤くしたアキラ。
おそらく左手の薬指に光る指輪を見てそう思ったのだろう。
照れを隠すようにシキの腕を引っ張りその場を逃げるように立ち去った……
***
屋台はとても長く続いており、見ているだけでお腹がいっぱいになってくる。
空もいつのまにか暗くなっていて屋台の明かりが優しく辺りを照らしていた。
「アキラ。周りの奴らが見ているぞ。」
「うるさい!」
何故アキラが苛々しているかというと、数十分前にアキラは迷子になったのだ。祭りということで人が多いのにも関わらずアキラは上機嫌でズカズカと進んでいく。
ふと、我に返ったときには隣にいたはずのシキの姿が見当たらなかった。
そのまま数分探したが見つからずチビッコたちがたくさんいる『迷子センター』に行き、放送をかけてもらったのだ。
シキを待っている間、隣にいた同じく迷子の子供が「お兄ちゃんも迷子になっちゃったの?」やら「パパとはぐれちゃったの?」などなど恥ずかしい言葉をかけられ…地獄のような時間を過ごしたのだった。
しばらくしてシキがにやけながら到着。隣の子供は口をパクパクさせていた。
シキは「行くぞ」と行ってアキラの手を握り今に至る………
「シキ…いい加減手を離せよ」
「そう言いながらも手を強く握って離さないのはどっちだ。」
「…っ…」
恥ずかしいような格好悪いような…アキラの気持ちは複雑だった……
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