高嶺の失敗


「トリック オア トリート」


嶺の失敗





「…総帥…どうなされましたか…」


シキがいきなり言い出すものだからアキラは驚いた。


「…ハロウィン…ですね」

「お菓子をくれないとイタズラするぞ。」

威圧的に言われ、思わず後ずさる。
思い返せば去年のハロウィンのときも『イタズラ』という名で弄ばれたのだ。

「総帥、勤務中ですからそのような戯れ事はお止めください。」

「…つまらん奴だな」


そっけないアキラの態度に気分を害したシキは何も言うことなく仕事を再開させた。


「…残念ながら総帥、今年は準備できておりますので。」

「何がだ」

「…お菓子ですよ。しかし、今自分たちが仕事を放棄してしまうと他の兵士たちに示しがつきません。せめて休憩時間までは働きましょう。」

アキラにビシッと言われ、何も言い返せなかった……



***

休憩時間になり、アキラは二人分の紅茶を注いだ。


「はい、お菓子です。」

そう言って、前日に兵士に買って来させたお菓子を手渡す。
赤い包装紙を破き箱を開けると、そこには一つ一つ銀紙に包まれたチョコレートが入っていた。


「チョコレートか。」

「えぇ。疲れた時には甘い物をお食べになられたほうがいいですし。」

「…お前もどうだ?」

シキはその中のチョコレートを一つ取りアキラに聞くが、アキラは丁重に断った。

「…すみません…結構です…」

「チョコレートは嫌いか」

「甘いものは好んで食べませんが……そうではなくて、このチョコは中にお酒が入っているようで…。」

「酒?」

「…聞くところによるとウィスキーが入っているらしいです。」

シキは興味本意に銀紙を剥きチョコを取り出す。
外形は何のへんてつもないボトルの形をしたチョコだ。

それを口に入れ、噛む。


「ほう。変わっているな。」

「お口に合いましたか?」

「悪くない。」


そう言ってシキは二つ目を口に入れた。





それからは一つ口に入れては紅茶を飲み……を繰り返していた。
いくらお菓子だからといっても一応酒が入っているのだ。シキがほろ酔い状態になるまであまり時間はかからなかった。


シキの様子が次第に変わり始めるのをアキラは察した。

「総帥、あまりお食べになられないほうが…」

「…大丈夫だ」

「…しかし…午後の仕事に支障が出ますので…」

アキラの忠告に全く耳を貸さないシキ。
それどころかチョコを食べる勢いが増しているようにも思える。

「…総帥。」

再度注意を促したが、そのチョコが余程気に入ったのか、返答がなくなった。

「…総帥、いい加減……っ…」

アキラは見てしまった。
普段は絶対に見せないシキの楽しげな顔を。
いつもとは違う柔らかな表情にドキッとさせられる。


その時、不意にシキに腕を掴まれて引き寄せられた。そのままバランスを崩してシキの胸に縋り付く形になる。

「…アキラ」

後ろから羽交い締めにされ、熱っぽい声で囁かれ、アキラの首筋を手が這い始める。
ゆっくりと優しく触れられてゾクリとする。

「…そ…すい…昼間からこんな…駄目です…」

やんわりと拒否するが、後ろからふわりと香るウィスキーの香りとシキの吐息に、自分の身体もどこか熱くなる気がした。

酒に酔ったシキは再びチョコに手を伸ばし、一つ口に入れるとそのままアキラの顎を掴んで首だけ後ろを向かせ口付ける。
シキの舌がアキラの口腔内を這い、無理矢理舌を絡める。
アキラの口の中でチョコの甘さとアルコールが混ざる。


「…っ…ふ、…総帥…駄目ですって…」

シキから離れようとするが、強く腕を掴まれ、もう片方の手がアキラの後頭部に回されていたので、出来なかった。

徐々にアキラの体内にアルコールが回るのを感じる。普段にはないふわふわした感じ……


「身体が熱いぞ。酔っているのか?」

キスの合間にそう聞かれ、抱きしめられた身体が更に熱くなる。

「……酔っているのは貴方のほうです……」

そう言ってはにかんだ。


首だけ後ろを向いていたのがいつの間にか互いが互いを抱きしめる形になっていた……

不意に唇が離れ、シキはアキラの首元に顔を埋めた。その瞬間、チクリとした痛みが走った。


「…っ!」

シキが勢いよく首筋を吸ったのだ。
アキラの首に赤い鬱血痕が付く。

「…総帥…このような所に跡を……っ…」

言い切る前に二つ目の印を付ける。
そのあともわざと見える所に所有の証を刻むかのように吸い付く。

最初こそ痛みしか感じなかったが、徐々に痛みの中にどこか甘さを見出だすようになり、思わず声が漏れる。

「…っはっ…」

「どうした、痛みに感じているのか。淫乱なものだな。」

「…っ…違いますっ…」

「そう言っているわりには俺の膝に固いモノが当たるが。」

そう言いながらシキはアキラのものを腿で押し付ける。急な刺激に身体をしならせる。

「アッ!……んっ…」

身体の力が抜け、座り込みそうになったところを間一髪シキが抱き留めてそのまま執務室の隣のシキの自室に連れていく。
ベットにゆっくりと寝かせて組み敷く。

「あらかじめ菓子を用意していたのは予想外だった。だが……このチョコを選んだことに関しては失敗だったようだな。」

真下のアキラを見てクスクス笑う。


片腕をアキラのものに延ばし、布越しで掴む。


「…そう…すい…」

「先に言っておくがな、午後の仕事の始まる時間は過ぎているようだ。それならば今は『勤務中』だろ?……声は出すなよ。」

口端を吊り上げながらサディスティックな笑みを見せる。

『勤務中』は先程アキラがシキに言った言葉だ。同じことを言われ、アキラは少々後悔した。



***




「面白いものを見せてもらった。」

上機嫌な様子で仕事を再開させるシキ。


あの後、声を出すまいと手で口元を押さえようと試みるも、シキに腕を縫い止められ塞ぐものを無くしたアキラは快感から洩れる抑えられなかった声を部屋中に響かせることになった。


「…総帥は意地悪です……来年は止めてください…」

掠れた声で力無く言う。

昼間からそういうことをしてしまったため、今日の勤務が終わるまでの数時間、腰の痛みに耐えつつ仕事をする羽目になってしまった。

一方、部屋の外まで洩れていたアキラの嬌声を聞き、たくさんの兵士がドアに耳を近付け、行為の一部始終を聞いていたというのは言うまでもない……………






end


最後までお読み下さりありがとうございました。
『***』の部分は書こうか悩みましたが、今回は無しということで(笑)甘々な総帥×高嶺を想像してください←

シキはおそらく酒に酔っていたのは嘘で、そう言ってただアキラにくっつきたかっただけだと思います!アキラもまんざらではない様子で(ry

感想などがありましたらどうぞ!!





2009.10.31





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