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「俺だって…怒ったりするんだから…」
『哀しみの先に』
「ねぇ、シキはいつ帰ってくるの?」
シャツ一枚を羽織ったアキラがつまらなさそうに世話係に聞く。
「…もう暫くかかるそうです。」
それを聞くと、アキラは盛大に溜息をついた。
いつもそうだ
シキが期日を守って遠征先から戻ってきたことは一度もない。
初めはアキラも「シキは忙しいのだから」と割り切っていたのだが、最近は約束を破られている気がしてならないのだ。
「大人しくちゃんと待ってたら帰ってくるって言ってたから俺…ちゃんと待ってるのに。今回は誰も誘ってないし部屋でいい子にしてるのに!!」
腹が立ち、食べかけのデザートを世話係に投げつけた。
突然の行動に避けきれずデザートをまともに顔面に食らった世話係は放心状態に陥っていた。
「あ…」
固まる世話係を見て自分が悪いことをしてしまったと思ったのだろう、そろそろとした足取りで歩み寄り、顔に付いた生クリームを指で取った。
「…ごめん…なさい…。このこと、シキには言わないで…」
「あ、アキラ様、気になさらないでください!…それに、シキ様には言うつもりもありませんので。」
いつもとは様子が違うアキラに世話係は驚く。
毎回、暴れだしたら鎮めるのに苦労しているのだが、今回はシキに「大人しく待っていろ」と言われたからだろう、やけに大人しい。
「アキラ様のお洋服にも生クリームが付いております。ベタベタして気持ち悪いでしょうから今すぐ着替えをお持ちいたします!」
そう言うと世話係はいなくなった。
大きな部屋、大きなベッドに寝転がる
「シキ…どうしてちゃんと約束守ってくれないんだろう…。もしかして…俺のこと嫌いになっちゃったのかな…」
嫌な考えばかりが浮かんでくる。
不安と同時に怒りが湧いてきた。
どうして自分ばかりがちゃんと言われたとおりにしているのにシキは約束を破るのだろう…
こんなの…不公平じゃないか…
シキの所有物である以上、逆らうことなどできないが、いい加減アキラも腹が立ってきたのだ。
「……あっ…いいこと考えちゃった…」
アキラは軽い足取りでテーブルの隣にある棚に向かい、鍵で開けて中から錠剤を取り出した。
「…これ…本当に使えるのかな…?まぁいいや。物は試しだ。」
一瞬躊躇したが、少量の水を口に含み、目を瞑りその錠剤を呑んだ。
「…っ!!!」
全身に激痛が走る
と同時に身体が発熱しているかのように熱くなり、目の前がぼやけてくる。
自分の身体を腕で掻き抱きしゃがみこんだ。
痛い熱い痛い熱い痛い熱い!!!
身体の中で何かが起きているのだろう。
アキラは耐え切れなくなって悲鳴ともとれる声を上げた。
その声を聞きつけた世話係が慌てて部屋の中に入ってきたが、その時にはアキラの意識はなかったのだった…
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