淫靡の作戦
「シキ、花見に行きたい」
隣で寝息を立てるアキラを見て、ふとその言葉が脳裏をよぎった。
アキラの思い付きの発言にはいつも世話係が手を焼いているそうだが、そのわが
ままの矛先がシキに向いてしまったのだから厄介ものだった。
立ち上がろうとすると、いつのまに目を覚ましたのか、シキの服の裾を掴んでいた。
「花見。」
「…無理な事を言う。今どのくらい忙しいのかくらいお前にもわかるだろ。」
「…でも…」
何を言っても無駄のようだ。
「しかし何故花見に行きたい?」
「ほら、あそこ。桜が咲いてるでしょ?…だから…」
「なら別に俺と行かなくてもいいだ…「シキと…見たいんだ。シキはそういうも
のには関心がないかもしれないけど…」
アキラは急に落ち込んだように俯くと、掴んでいた手を離した。
何を考えてるのだろう。俯いたまま黙り込んでしまった。
それから暫くして何かを思いついたのか、シキのほうを見ると笑顔を見せた。
「…そうだよね、シキだって忙しいんだもん。仕事のほうが大切なんだもんね。俺なんて二の次、三の次なんだよね。…さっきの話はなかったことにして。」
真っ白な腕で抱きつかれて「早く遠征に行け」と催促までしてきた。
いつもならありえないことだ。
しかし、そのアキラの笑顔の裏には彼なりの考えがあったのだ……
***
シキはアキラの様子に何かを感じとったようだが、どうすることもできなかった。
アキラのことを二の次三の次に考えたことは一度もない。自分が取るべき解決策はなんだろうか。
「シキ様、どうなされましたか。」
兵士の一人に話しかけられていたことにも全く気がつかなかった。
「いや、なんでもない。お前は早く自分の持ち場へ戻れ。」
「はっ。」
先程からアキラの最後の言葉がループしている。
(何故俺が悩まなければいけないんだ。)
所有物が言う言葉に悩まされている自分に激しく自己嫌悪した。
***
「シキ…そろそろ…かな?」
大きなシキの寝室にアキラは一人、言い訳のシャツだけ身に纏いベットに横たわった。
自分がシキに言い放った言葉…「仕事のほうが大切なんだもんね」
その一言がどれほどシキの心に響いたのか実験をしてみた。
これで自分のことをどれだけ思ってくれているのかがわかる。
最近、何かと忙しくアキラのことを放置していたことにアキラが不安を感じていたのも事実だ。
自然と顔がにやけてしまい、その顔を世話係に見られてしまった。
「随分とご機嫌がよろしいみたいですね。」
「うん。シキがね、もうすぐ帰って来るんだもん。」
何を言っているのだろうと思ったに違いない。
シキが遠征に向かってまだ半日しか経っていない。
いつもならその時間に帰ってくるというのはあり得ない話だ。
世話係が首を捻らせていると、部屋をノックする音が聞こえ、兵の一人が世話係に耳打ちした。
それからアキラのほうを向き一礼したかと思うとすぐに部屋を出て行った。
「アキラ様、シキ様がもうすぐお戻りになられるそうです。」
「ほらね、言ったとおりでしょ?」
先程の会話を世話係は知らないので驚きが隠せないようだ。
「シキの出迎えに行ってくる。」
アキラは立ち上がるとふわふわした足取りで部屋を後にした……
***
「シキ様、お帰りなさいませ」
「お荷物をお持ちいたします!」
シキを出迎えるためにたくさんの兵が列を作っていた。
アキラはシキの姿を見つけると裸足のまま走り出した。
シキもそれに気づいたのだろう。足を止めるとアキラが来るのを待った。
「シキ…お帰り」
「…全く…所有物の言いなりになる主も馬鹿としか思えんな。」
アキラはシキに抱きつき頬にキスをした。周りの兵が一瞬うろたえたのを見たのだろう。
シキは鋭く睨みつけて虚勢を張った。そのままアキラの華奢な身体をいとも簡単に抱きかかえるとそのまま城の中に入った。
部屋に入るなり、シキはアキラを乱暴にベットに組み敷くと激しく唇を貪った。
アキラの身体はをれを待ち望んでいたかのように熱くなった。
「…シキ…」
「なんだ」
「俺と仕事、どっちが大切?」
「…馬鹿なことを。」
そう言われ口づけが再開される。
暫くそれを愉しんだ後、急にシキはアキラの身体を起すと服を着るように促した。
「…花見に行くぞ。」
「ほんと?」
「早く支度をしろ。置いていくぞ」
そういいながら部屋を出て行くシキ。
アキラは身支度を整えると軽い足取りでシキのあとを追っていった。
その背中は喜びに満ち溢れていた………
end
花見ネタ、失敗。(笑)
シキはアキラにどこまでも弱ければいいと思います。
2009.04.12
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