さよなら災厄、またきて至悪1

【速報】監督生、女だった【写真アリ】

1 名無しの慈悲
もう何でもアリかよコイツ。闇の鏡に選ばれたってのもどうせ嘘。
http://xxxx.pic…


2 名無しの熟慮
クソコラ乙
いくらオンボロ寮のヤツ等が特例中の特例でも男子校に女置くか?
教育者がそんな判断するとは……いやNRCの教育者だからな……


3 名無しの奮励
信じられん。あの欠け放題の爪と荒れ放題の手を見た上での妄言か?
あれは女の手じゃない。


4 名無しの厳格
ごめん、俺もアイツが女って知ってた
ずっと誰かに言いたかった


5 名無しの熟慮
歩き方で分かっていたよ!


6 名無しの勤勉
は? てことはマジなの?
学園長、男子校のボロ屋敷にオンナ置いとくとかバカ?


7 名無しの不屈
>>5 狩人かよオメーと思ったらスカラ生だった。何だお前。
まあ、監督生のことは知ってたけど


8 名無しの奮励
ならば我らが姫林檎ちゃんも女の子の可能性が!?
正直監督生よりもそちらの方が興味深いね


9 名無しの不屈
>>8 その可能性はない
マジフト部のシャワー室壊れた時、上裸で水道浴びてたし
まだ細いけどしっかり腹筋割れてる
 

10 名無しの熟慮
ここまで写真に対する言及無し?
明らかに隠し撮りじゃん
というか住居不法侵入でもあるだろ。流石に引くわ。


11 名無しの厳格
>>10 オンボロ寮が死ぬほどボロい。これも知ってたけど。


12 名無しの慈悲
痩せぎすだから全く期待してなかったけど、おっぱいは存在するんだな〜と思いました。結構イイじゃん。


13 名無しの奮励
>>12 そういうの、陸じゃちっぱいって言うんですよ。
てかコレに興奮すんのは性癖トガリネズミ過ぎる。アバラが野良犬のソレだが?


14 名無しの熟慮
>>11-13 そうじゃない
監督生ってモストロ週5勤務じゃなかった?
同僚に盗撮されてる監督生の気持ち考えろよ。俺ならもう二度と娑婆歩けんが


16 名無しの不屈
>>12 魚類も乳好きなの? ウケる。俺らが産卵プレイ好きみたいな感じ?


17 名無しの慈悲
オクタヴィネル寮が全員人魚ではありませんよ。>>21 さんはビーバーの獣人です。
それと>>1 スカットラ・バットさん、盗撮の件で支配人と学園長が貴方にお話ししたい事があるそうです。至急、モストロ・ラウンジに向かってください。


18 名無しの厳格
匿名性ェ……
御愁傷様です


19 名無しの勤勉
さよならイッチ。自業自得だけど。
折角だから写真は保存しとくな。やっぱ監督生といえどナオンの写真って貴重だし


20 名無しの奮励
犯罪の末の速報も大して盛り上がんなくて草。
ところで気付いてたヤツってどの段階で気付いてたの?
ウチの寮生の方が監督生よりよっぽど嫋やかな奴多いんだけど


21 名無しの勤勉
監督生に「童貞?」ってきいたら「お前が直腸で判断しろ」って言われたんだけど……そんなコト言う女の子イヤ過ぎるが……


22 名無しの厳格
女の子ってさ、もっとフワフワで可愛げあってシアワセな生き物じゃないの?


23 名無しの奮励
「いつか王子様が」とかいう監督生は全然想像出来ん。
女の子の必要条件満たしてないので、監督生は女ではない■


24 名無しの熟慮
女だったとすると、NRCに居座るメリット無さすぎだろ。
やっぱいずれ母星に帰る異星人でFA


25 名無しの勤勉
いや異世界人って自称してるの聞いた
異世界人説しか勝たん


26 名無しの慈悲
>>24-25 スレタイをお読みでないのかい? 首を刎ねてしまうよ!
赤の女王の法律第99999条にも、スレチは流刑だとあるね。


27 名無しの厳格
厳格寮長のマネが雑過ぎて逆に笑ったから、流刑地貼っとく。
監督生(異世界人説)考察→https://xxx.nrc……

ホンモノなら法律違反した段階で首を刎ねてるよ。


28 名無しの厳格
正直まだ信じられん。
今からオンボロ寮凸っちゃおっかな


29 名無しの奮励
>>20 いつ頃気付いてたかって考えると、今思えばウチの副寮長は最初から気づいてたな。
監督生にはムシューとかつけないし。
ムシュー・毛むくじゃらのがトリックスターだろって思ってたけど、ありゃ男の格好した女っつー二面性の事だったか。


30 名無しの高尚
>>29 監督生は性別関係なくトリックスターだろ
アイツが関わった寮、悉く事件が起きてる
ムシュー・疫病神のが適切かもだが


31 名無しの熟慮
>>28 俺も行く。同室の奴も誘った。
一見は百聞に如かずっていうしな。
前からあの魔力無しは気に食わなかったし。


32 名無しの勤勉
>>28 のった。
おまえらゴーストの囮な。


33 名無しの慈悲
>>32 あのゴーストに囮とか要らんくね
猫も火吹くだけで賢くねーし。倒せるっしょ。
俺も行く。あの恥知らずは二度と表を歩けなくなるべき。


34 名無しの高尚
>>28 やめておけ。オンボロ寮ってガゴ研の活動範囲だぞ。
あの方と鉢合わせたら雷が落ちるからな。比喩とかでなく。

>20 ちな、僕が知ったのは迷い込んだモー・ショボーの捕獲を副寮長に手伝わされてた時。
モー・ショボーが監督生をスルーしてたの見たら察するしかないでしょ。


35 名無しの厳格
オンボロ寮についてんのグロテスクじゃなかったか?
まあ、アレと鉢合わせるリスク負ってまで監督生をひん剥きに行く気も無いが…

それよか男子校でモー・ショボーが放たれてた事が信じがたいんだが。
そういうのって警報が鳴ったり校内放送あったりせんの?


36 名無しの慈悲
モー・ショボーって何?
俺が無知なんか?


37 名無しの勤勉
>>36 お前の無知。オクタってことはどうせ陸一年生だろ。

モー・ショボーは危険魔法生物に指定された害鳥。好物は男の脳髄。
男を見つけると美少女の姿になって誘惑して、油断して近づいた男の身体を鋭い嘴で貫いて脳髄を啜る。
……は? コイツが男子校の敷地内に居たのにオレ等なーんも聞かされてなかったってこと? は??


38 名無しの奮励
モー・ショボーの一番ヤベェとこが抜けたぞ。
アレの誘惑は一種の強烈な催眠ってところが一番きめえんだ。どんなに鳥糞臭い糞害鳥でも、コイツに誘われてる時はモー・ショボーの擬態をサイコーの女にしか思えなってキッスしたくなる。そんでキッスの瞬間、通常の鳥とは逆向きに反った長い嘴が口内から脳味噌を貫いてジュルジュルされるってワケ。
周りは何故か、お似合いの二人だと思って近づくのを止めないから更に厄介なんだよな。
でも尾羽は惚れ薬の材料として有名だから、女性のみの狩猟グループで狩ってた歴史もある。


39 名無しの高尚
>>37 安心せい。とっくに捕まえて野に放したわ。


40 名無しの不屈
何も安心できん。
害獣相手に愛護精神とか要らんから殺しとけよ…これだから妖精はカス

>20 ウチは匂いとかで早々に気付いてる奴もいたけど、寮長が箝口令敷いてたらしい。
あの人、夕焼けの草原の王室育ちだから、女には優しいんだよね。
ちな俺が実際に知ったのは、寮長が監督生の腕ブチ折った時の騒動ね。
多分、あん時サバナ全員に知れ渡ったと思う。


41 名無しの勤勉
折った!?
優しい人は女の子の腕折りませんが?
サバナの優しさの基準だいぶ野蛮では??


42 名無しの不屈
寮長の名誉の為に補足させてくれ。
事故だったんだ。
監督生が「打倒オクタに協力しなきゃ騒ぎ続ける!」ってブブゼラ吹きまくってて、寮長が楽器取り上げようとした時にベキーッつったの。
監督生が悪い。つーか、あの蛸野郎が悪い。
寮長が骨接ぎ呪文上手くてよかったな……


43 名無しの奮励
ブブゼラwww


44 名無しの厳格
あー。あの、支配人にオンボロ寮取り上げられてた時ね。
何でサバナが総出で協力してんのかなって思ったわ。成る程。
ブブゼラwwwww


45 名無しの不屈
腕折れた時、寮長が一番ビックリしてた。
監督生、泣きながらブブゼラ吹き続けてたし。


46 名無しの不屈
腕「ポキーッwww」
ブブゼラ「ブボッ!?ッブーーッ……ブッ↑ブ↓ボーーーッ↑↑!!」
魔獣「ブビ……」お耳ペショー
寮長「ぉぁ……」お耳ペショー
(´・ω・)カワイソス


47 名無しの熟慮
監督生も不屈の精神持ってるな
魔獣のブビ…って何? 脱糞?


48 名無しの勤勉
ブブゼラだろJK
ねこたんはウンチなんてしない


49 名無しの不屈
ウンチくらいするだろ。猫エアプか?
あと、あの毛玉が吹いてたのはカズー。
あんな騒ぎになると思ってなかったから、オレが貸したって寮長にバレるのが怖い。


50 名無しの熟慮
戦犯身内で草


51 名無しの不屈
寮長の名誉回復できた?
あの人マジで女子供にはちゃんとしてるから。
サバナも別に野蛮じゃないから。
そういう訳で俺は>>1 と>>28-32 を寮長にチクった。


52 名無しの厳格
獣人が女の子守るマンなのはカッコだけじゃねえのなの?
監督生に突っかかってんの、ポムとサバナがダントツ多いって聞いたけど


53 名無しの勤勉
>>51 あーあ白けたわ。こっちはとっくにパンツ脱いでんのに


54 名無しの奮励
>>53 パンツ履け


55 名無しの不屈
>>52 ゆうて弱肉強食だし弱いのが悪いんよ
獣人の女性はもっと強いし逞しい


56 名無しの不屈
そもそも女って認めてない。
アイツ、魔獣を逆さづりにしてたらスゲー勢いで金的してきたぞ
2836472378歩譲ってアマゾネスだわ


57 名無しの勤勉
ネコたんに何してんだ。お前が1000%悪いよ


58 名無しの熟慮
いうてサバナの寮長もマジフトん時監督生の脳天に思いっきしディスクぶつけてたし、事故と見做せる範囲ならお咎め無さそう


59 名無しの不屈
寮の獣人勢に白眼視されないギリギリで監督生にちょっかい出すのスリルあって面白いんだよな……


60 名無しの勤勉
イジメっ子多すぎて不登校になりそう。全寮制だけど


61 名無しの慈悲
【速報】サバナ寮長、間に合わずwww
>>51 のチクりも虚しく、留年寮長はオンボロ寮の事態収拾に間に合わなかった模様
http://xxxx.pic…


62 名無しの不屈
女の子がひどい目にあうの地雷過ぎてリンク踏めない。
誰か優しく教えて。難しいならバカどもに相応しい刑罰だけでもいいから。


63 名無しの勤勉
えっとですね。
頭にストッキング被った>>28たちがですね、タレ目な方のウツボさんとゴースト達に足を掴まれてオンボロ寮の屋根から吊るされてます。
ウツボさん、めっちゃ良い笑顔。


64 名無しの不屈
こわい写真じゃなくてよかった!
さっそく先輩達にも写真見せて>>28達を笑い者にしてる。


65 名無しの慈悲
ウチの支配人はスレ主が特定できた時点でウツボを派遣してました〜v
というか今、監督生くんはラウンジで大戦犯スカットラくんと示談交渉中ですので、オンボロ寮にはいません。
引っかかってやんの〜ww ピッピロピ〜www


66 名無しの奮励
>>65 得意気だけど、左端のストッキング野郎がオクタ生なんだよな……


67 名無しの熟慮
そもそも大戦犯スカットラくんもオクタなんですが……
さては、新たなマッチポンプ商法始めましたね?(熟慮)


68 名無しの勤勉
とりま寮長に報告したんで、じきにこのスレ消えるよ



※スレッド削除要請が出されました※



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※このスレッドは削除されました※



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 本来ならとうに消灯時刻を過ぎている、夜のモストロ・ラウンジにて。
 ボックス席の下座には、苛立ちの余り顔面を蒼白にしたアズールと、怯えた面持ちの寮生、スカットラが座していた。
 ジェイドは四人分の紅茶を蒸しながら、監督生の盗撮画像が掲載されたスレッドが削除された事を確認する。退屈な悪意に億劫な事務処理を増やされたジェイドがスカットラを睥睨すれば、彼は小動物のように震えて謝った。嫌な夜だった。


 スカットラがナイトレイブンカレッジ在校生限定の掲示板に監督生の盗撮写真を掲示してから、約二時間が経過している。彼等は問題行動が発覚し次第、可能な限り手早い措置を講じ、本日中に監督生に謝罪及び和解交渉を取り付けていた。
「誠に申し訳ございませんでした、復唱」
「……ま、誠に、申し訳ございませんでした」
アズールは軽侮を隠さない刺々しい声音で、スカットラに謝罪の言葉を復唱させる。スカットラはボックス席に着座を許される前、ジェイドに散々「お話し」をされ、肉体言語を以てオクタヴィネルに不利益をもたらした事を反省させられていた。よって、スカットラはアズールに非常に従順になり、彼の言葉を繰り返した。
「この度は、監督生さんのプライバシーを著しく侵害したことを、本当に軽率であったと反省しています。復唱」
「……この度は、監督生さんのプライバシーを著しく侵害したことを、本当に軽率であったと反省しています」
「総てはわたくしの過ぎた自己顕示欲と浅慮によって招いたことであり、いかなる罰をも受ける所存です。復唱」
「総てはわたくしの過ぎた自己顕示欲と浅慮によって招いたことであり……罰を、う、受ける、所存です」
アズールはスカットラが真に謝罪の心があるか否かなどまるで気に留めていない。ただ一字一句の余分すら許さず、謝罪の言葉を仕込んでいた。まるで猿に芸を仕込んでいるかのような風情すらあった。
「いかなる罰をも受ける所存です、でしょう? しっかり復唱してください。貴方にできることはこれくらいしか無いのですから」
事実、スカットラへの軽蔑と瞋恚が許容値を超えてしまったアズールにとって、彼は感情を認めるに値しない存在に成り下がっていた。彼が真に反省し更生するかなど、アズールには全く重要ではないのだ。
 この交渉で最も肝要なのは、監督生とオクタヴィネル及びモストロ・ラウンジが和解する事であった。


 アズールに咎められて復唱し直したスカットラだが、顔面は蒼白で、言いたくない事を脅迫されて言っているのは丸わかりの様相だった。
 彼は謝罪文の全文を何度か繰り返させられた後で、歯を打ち鳴らしながらアズールに伺った。
「あ、あの、ァアアーシェングロット……罰、罰って、いかなる罰って、その、もし、監督生が」
「ええ。もし、監督生さんが貴方に顔を二度と見せるなというのであれば、貴方はこの学園にはいられなくなるでしょう」
スカットラがあまりに吃ったものだから、話が進まないとみたアズールが途中で結論を言ってみせた。スカットラと監督生は寮も学年も異なる間柄だが、この学園では異学年合同の授業は珍しくないので、どちらかが学園を去らない限りは接触を絶つのは難しい。加えて、監督生は生活費の確保を理由にホリデー明けからラウンジに勤務しており、その勤労の頻度はオクタヴィネル寮生と然程変わらない。スカットラと監督生のどちらか何れを切らねばならぬとあれば、スカットラが追い出されるのは道理であった。
「御父上の多大なる寄付が息子さんを一年と半年程度学園で遊ばせた程度で無駄になってしまうのは、本当に心苦しいことではありますが……ええ、貴方が一般常識を学ぶための授業料だったと思ってもらう他になさそうですね」
同情の欠片も無く、スカットラにとって最悪の想定を口にしたアズール。その彩度の低い青色をした瞳は実に冷ややかだった。


 悪童の集う学園において盗撮そのものは些事に数えられがちではあったが、今回は被害者が校内で唯一魔法を使えない監督生だった事や、その流出に付随して彼女が秘匿していた正体まで不特定多数に知れてしまうなど、大事になるだけの要素が揃い過ぎていた。

 どうにか縋らんとするスカットラを態度で拒絶したアズールは、冬の海より冷たい声で告げる。
「愚かな行いには、報いが伴うという事です。貴方の犯した愚行に始末を付けねば、オクタヴィネルの、僕の信頼が損なわれたままになる」

 尤も、アズールは本件は示談で留まると確信しており、警察沙汰には至らないと踏んでいた。
 事件として公になるのは、被害者のプライバシーを悪戯に蝕むだけでメリットも無い上、事なかれ主義の学園長の意向と、複雑な監督生の身の上を鑑みれば、金銭解決以外の手段は無いからだ。

 一番穏当なのは、示談金として監督生が当面食費を気にしなくて良いだけのマドルを握らせてやることである。幸い、スカットラは陽光の国で四番目のシェアを誇るスポーツメーカーの御曹司だ。絞れるだけ絞れば、それなりの額になる。
 その副次的な作用としてスカットラが実家で如何なる扱いを受けるかや、実家あるいは監督生の希望によって退学を望まれるかは、アズールにとっては誤差の範囲だった。



 畢竟、アズールが守りたいのはオクタヴィネルの名誉であり、支配人としての自身あり、従業員という歯車で維持されたモストロ・ラウンジの運営だった。
 そして、モストロ・ラウンジの経営には、そこで労働する監督生も当然含まれている。

 オクタヴィネルとは異なる寮に所属する従業員は、大多数と休日を希望する日が被らない為にシフトを組む管理職にとって上で便利な存在であったのだ。加えて、監督生は同年代の学生達より余程よく働いていた。中流家庭以上の出身ややんごとない身分の学生も多い中、金欠を動機として自主的に働く監督生は、労働に対する意欲が違う。その上、彼女の元居た世界では四月から学校が始まると同時に就労も可能になる文化であったため、監督生は同学年の少年達より幾分か就労経験に富んでいた。
 サボリ魔も横領癖も珍しくない悪童の集うカレッジにおいて、監視せずとも勤勉に動くだけで貴重な存在なのだが、更に経験者かつ常識人とくれば、これしきの不祥事で易々と失うには勿体無い人材なのだ。


 だからアズールは、ジェイドと入念な再発防止策を用意し、プレゼンする予定でいた。スカットラには短時間ながらも、念入りに反省を痛覚に刻ませている。
 後は、謝罪と交渉に関しても、出来上がった台本を読むだけ、という状態であった。
 その万全な準備を以て、彼等は監督生の来訪に臨んでいた。その筈だった。


 定刻通りにラウンジの入り口に現れた監督生に、ジェイドが歩み寄る。
「ようこそいらっしゃいました……お時間を頂戴できて……幸いです」
ジェイドの歓迎と労いの言葉は、動揺で途切れかけ、不自然に繋ぎ直された。

 ジェイドの慇懃にして完璧な振る舞いを崩したのは、監督生が酷い有様であった所為だ。
 彼女は相変わらず女の身体をサイズの合わない制服に押し込めて、男らしさを補填するためだけの化粧をしていた。正確には、化粧をしているいうより、化粧を落としていないと称するべきかもしれない。崩れかけた化粧と最後にいつ櫛を通したのか分からない髪型は、年頃の少女らしからぬ風貌であった。

 監督生の姿を認めた瞬間、少年達はラウンジの重力がうんと上がったような錯覚に陥った。
 ジェイドは自身の役目を思い出して監督生をエスコートするが、頭の中は気拙さと居心地の悪さでいっぱいになっていた。彼は、男子校育ち故に同年代の陸の女との交友関係が少なければ、この美貌なので女の方も気合が入った者しか碌に声をかけて来ない。だからこそ、こんなに見窄むらしく色々と限界を迎えていそうな女と対峙するのは初めてであったのだ。


 ジャズ調のピアノ音楽が無い代わりに、ラウンジは男達の沈痛な緘黙と監督生の擦り減った靴による足音だけが音を作っていた。

 店内は営業時より明るく、清潔感のある事務的な照明が点けられている影響で、通常のラウンジより遠く離れた相手の顔や格好が鮮明に見える。全く外出向きでない監督生の格好に、見てはいけないものを突き付けられた気がしたアズールは、無意識に唾を呑んだ。彼もジェイドと全く同じことを思った。
 監督生のアイシャドウが溶けかけた眼の下には濃い隈が居座り、真一文字に結んだ唇が表情を殺している。青白い水槽を背にして歩いてくる監督生の顔は、能面のようだった。オンボロ寮をかけて対峙した時の用心深さや敵愾心とも異なるその顔は、無関心と称するのが一番適格だとすら思えた。
 ボックス席に座るよう交渉の場を設定したのは彼等なのに、心の何処かで来るなと念じる程だった。


 監督生と対峙したアズールに、どっと緊張の汗が噴き出る。
 居心地が悪い。漠然とそう感じた。嫌な緊張が、口角を強張らせる。当たり前と言えば当たり前の感性なのだが、その衝動的な忌避感が全ての感情を優越していた。
 紅茶をサーブするジェイドも、硬直したアズールと監督生を交互に見るばかりで、とうにいつもの愛想笑いを引っ込めていた。
 居心地が悪い。その感情が共鳴した事を察した彼等は、互いに視線を送り合って、困惑を共有する。

 今更ながら、不意に「監督生を組織に加えた状態が本当に望ましいことなのか」と二人の間に疑問が芽生えていた。
 無性に監督生を遠ざけたい気分になって、用意してきた提案の全てが頭の奥底に逃げていく。


 心情の変化はスカットラにも訪れていた。彼は怯えた反省の態度から一変し、監督生に牙を剥いた。
「どのツラ下げてきてんだ、このブス」
アズールとジェイドの前では決して聞くことのない口の利き方だった。
「前々から気に食わなかったんだ。無給でコキ使えたイソギンチャク共を解放してラウンジを人手不足にしたのは監督生だろ。ポイントカードとか七面倒臭え仕事増やす原因になったのもお前だろ。なに被害者ぶってんだよ。アァくそ、俺ァ悪くねえ、当然の反応だろうがよ」
スカットラは明らかに苛立って、監督生を詰り続ける。スカットラはヒト属であったが、気の荒さは繁殖期にテリトリーを犯された獣のそれだった。
「なに生活が苦しいだ将来が心配だの自分勝手なこと言ってバイトしてんだ。そんなん誰もしらねーよっ。滅茶苦茶だよお前のせいで。本当はこの学園に通う資格なんざ何一つ持ってねえくせに! オレ達のこと、騙してたくせに!」
スカットラがこれだけの文量を喋る間、アズールとジェイドはどちらも口を挟めなかった。
 ポイントカードの制度を作ったのはアズールであり、ラウンジには監督生の他にもラギーなどラウンジと禍根のある生徒も雇っていたが、彼等はそれを反論の材料にすることもなく、黙って最後まで聞いてしまったのだ。

 監督生と言えば、終始黙っている。
 ジェイドがサーブした紅茶には誰も手を付けず、予定に反したやり取りにただ時間を消費した。アズールは先程まで確かに彼女を失ってはならないと思っていたのに、措置を講じた筈だったのに、今になって全て放り出してしまっている。監督生を引き留めたところで、ラウンジの従業員がそれを受け入れるか怪しいにではと考えが過ったからだ。そこを調節して管理するのが運営の仕事であるのは承知な筈なのに、その厳しさにばかり目が向いていた。

 対峙している監督生が今何を考えているか全く分からないのも、彼等が二の足を踏んだ原因の一つだ。

 監督生は、プライドの高く血の気の多い者で溢れたカレッジにおいては珍しい程温厚で忍耐をに身に着けた学生であったが、不当な扱いには抗議できる正確であった。彼女から手痛い反撃を食った者は少なくなく、アズールもその内の一人である。それなのに、今回はただただ黙ってされるがままにスカットラの罵倒を聞いていた。示談の為に呼び出されたのではなかったのかと詰めることもなく、扱いの酷さに憤る事もない。
 無感動で無関心。ラウンジやスカットラだけでなく、総ての事に関心が無いのではないかと思わせる態度だった。

 例えば、明日以降、彼女はどうやって「生活を続けていくつもりなのか。虚無を映したままの監督生の瞳は何も明かさない。

 盗撮写真は、オンボロ寮に無断で侵入した挙句に監督生が寮で着替えをしている場面を捉えたものだった。それも、胸に巻いたさらしを解いて、性別の誤魔化しようのない胸を寛げている様子が克明に写っていた。そのデータが面白半分に校内のスレッドに投稿されたのだから、監督生にとっては最悪だ。
 現役のナイトレイブンカレッジ生しかログインできないスレッドとはいえ、ネットの海に流された情報は最早、誰にも回収しきれない。人の口に戸は立てられない。まして、好奇心と万能感で溢れる思春期の盛りの少年達の口には。
 オンボロと形容されるに相応しい建付けの悪い家屋に、魔法も使えない上に身寄りも無い非力な少女が一人。今までならば、聡い者や一部の極めて懇意な者だけが監督生の身の上に気付いてる状態だった。しかし今後は、愚かな者こそ監督生の正体に固執する事になるだろう。本件で被る監督生の被害は計り知れない。
 今後の監督生の学園生活に待ち受ける困苦を思えば、金銭など幾ら貰っても足りはしない筈である。

 なのに監督生は、呼ばれるままにラウンジに来て、何の感情表現も賠償請求も無い。怒らず、詰らず、話さず、ただ虚しく、そこに在る。
 木偶の坊より質が悪い。
「……ラウンジをお辞めになるおつもりですか」
アズールは漸く、声を発した。そういえば呼び出しておいて碌な挨拶もしていないと気付いたものの、最早そんな繕った態度は無駄だった。
「では、そうします」


 ミドルスクールの段階で軽んじてきた者達に相応の報復をしてきたアズールには、彼女の態度は信じがたいものだった。手に入るならばユニーク魔法を取得する前の稚魚の魔法ですら奪ってしまいたがるアズールには、ここでスカットラから毟らない選択肢など考えてすらいなかったのだ。
 理解し難い異物が現前に居座っている感覚に、アズールは膚を粟立てた。

 ジェイドも、監督生のつれない態度に些か目を見張った。聞かん坊のグリムに根気よく付き合っている普段の彼女からは、到底考えられなかった無機質さを垣間見ていた。寮を取り上げた挙句に暴走して多くを危険に晒したアズールに対して「まん丸でかわいい」だの「稀代の努力家」だのと言ってのけた彼女と、果たして同じ人物か怪しく思った程だ。これが失望を超過した事によって一切の関わり合いを拒絶するに至った所為だというのなら、もう望みは無い。


 監督生は立ち上がって、抑揚の無い声で話を打ち切った。
「お話が終わりなら、帰りますね」
彼女はとうとう、ティーカップには触りすらしなかった。
 学園中を駆けずり回って履き潰した靴で、彼女は玄関へと真っすぐ歩いていく。すり減ったゴム底の靴は、足音を矮小かつ歪なものにしていた。監督生の小さな背中は、惨めというより、幽鬼と同種の不気味さがあった。
 監督生を見送りに立ったジェイドとアズールは、無言で顔を見合わせる。
 早く彼女と離れたかった。しかし今オンボロ寮に帰したら首吊り遺体で発見されそうだ、とも直感的に思ったのである。

 彼女を寮まで追いかけるべきか視線で相談する男達を、監督生が不意に振り返った。
「これ、戴いてもいいですか」
監督生は、レジスターの横に飾っていたドライフラワーを指差していた。赤と白のチューリップを乾燥魔法でドラフラワーにしたそれは、ジェイドが温室に立ち寄った際にサイエンス部の後輩から貰ったものだった。何故今そんな物をと思わなくもなかったアズールとジェイドだが、ようやく要求らしい要求をされた事に若干の安堵を覚えて頷いた。
「ええ、構いません。どうぞご自由に」
ジェイドが返答をすれば、監督生は赤いチューリップだけを引き抜いて、今度こそモストロ・ラウンジを後にした。


 監督生がラウンジから去ると、ジェイドとアズールは脱力して深く息を吐いた。
 彼女の気配が消えてようやく、ラウンジの空調がまともになった気がしたのだ。それまでは息が詰まりそうで、極寒の海で育った二人が寒気を覚える程だった。
「――もしかして僕達、取り返しのつかない事をしたのでは」
「じゃあどうしろって言うんだ」
とてもじゃないが会話なんてできる相手じゃなかったと、ジェイドとアズールは戸惑いから脱却しきれない顔のままお互いを小突き合った。
「そもそも、スカットラくんの罵倒を何故止めなったんですか」
「それを言うならお前も――」
管理職二人が言い合う隙に、スカットラはラウンジから転がるように逃げ出した。監督生の異様さも彼の心に歪を残したが、それ以上にアズールの意向を無視して加害衝動を暴発させた報いが怖かったのだ。
 スカットラにとって、あれは正に衝動だった。自身の不利益になるのは分かり切っている事なのに、その瞬間に湧いた監督生への嫌悪と排斥への欲求が抑えられなかったのだ。盗撮の件もそうだ。元々、オンボロ寮を覗いたのは。監督生が何やら隠し事をしていると勘付いており、弱みを握って強請ってやろうと画策した所為だった。その弱みを不特定多数に向けて公開するなど、強請りの手段を自ら失うような真似をするつもりはなかったのだ。けれど、彼女の姿を認めた瞬間、彼女がより肩身が狭くなるようにしてやりたいという衝動が頭をもたげたのだ。
 まるで、何かに憑かれたように。
 誰かにそうさせられたかのように。

 ジェイドとアズールも、交渉の席で後手をとって碌に何も言えなかった自分達がどうかしていた事は漠然と自覚していた。
 けれども、そんな非論理的な事をの所為にするのは意志薄弱を認めるようでどちらも言い出せず、彼等は不安と動揺を隠すために喋り続けるしかないのだった。

「そういえばアズール、白いチューリップの花言葉はご存じですか」
ジェイドは偏ってしまったドライフラワーを手慰みがてらに整え、残された白いチューリップについてアズールに尋ねた。
「純粋、でしたか」
「ええ。そして、許しを請う、とも。これだけを残したのは僕達に対する皮肉だった可能性は?」
肩を竦めるジェイドに、アズールが頭を抱える。そんな周りくどい事で不満を表明するような質ではないし、そんな余裕がある筈もない事は明らかだった。けれど、すぐさま否定できないのは、監督生も日頃の彼女らしくないからだ。

 二人のシャツの内側に嫌な汗が伝って、寒気を呼んでいた。魔法も使えない、後ろ盾もないただの後輩を相手に、居心地が悪くて仕方がなかったのだ。



 未だアズールとジェイドが気拙さを消化できずにいるラウンジに、別件の仕事を終えたフロイドが戻ってくる。
「は? ケモノ臭っせぇ! 換気しろって」
上等な革靴には不似合いな所作でラウンジの扉を蹴り開けたフロイドは、開口一番に文句を垂れた。
 彼は監督生の正体を知って面白半分にオンボロ寮を訪ねた生徒を「絞めて」きたばかりであったが、相手は女相手だからと勇んできた色情狂か卑怯者ばかり。フロイドが要るとなれば一目散に逃げる輩が揃っていたので、あまりの絞め甲斐の無さに消化不良を起こしていて機嫌が最悪なのだ。

 フロイドは、ジェイドとアズールに何か言い返される前に化粧室用の消臭スプレーを手に取ると、ボックス席に幾度も消臭剤を噴霧した。


.


 件の盗撮写真が投稿された日から、監督生は授業に出ていない。
 彼女の出るべき授業には、グリムのみで出席していた。二人で一人分として扱われる彼等なので、片方の出席に免じて取り敢えずは良しとしているのだろう。厳格なトレインすらも、グリムが筆記には向かない形状の手でノートを取っている内は、情状酌量としているようであった。


 ジェイドはふと監督生が唯一興味を示したチューリップの出所が気になって、サイエンス部の根城である放課後の植物園へと脚を運んだ。
 強いて言うなら、ジェイド行動は直感に基づくものであった。サイエンス部の顧問が監督生の担任であることや、チューリップを持ってきた後輩が監督生と同じクラスの生徒であったことも気に留めてはいたが、それだけである。監督生の事情と不登校の経緯は極めて分かり易く、それは誰に話を聞こうと同じだと思っていたのだ。だから、ジェイドはサイエンス部に具体的な何かを期待して近寄った訳ではなかったのである。

 ただ、植物園を彩る多種多様かつ色取り取りの樹々や草花に視線をやった時、その土に真新しい足跡を見つけてしまった時はジェイドも己の鼻の良さと詮索癖の強さに目を瞬かせた。
 一年生の中でもとりわけ小ぶりな靴のサイズで、メーカーすら分からないほど擦り減った靴底に、すぐに監督生の顔が浮かんだからだ。


 芙蓉に牡丹、椿に山茶花。木瓜、紅梅。馬酔木。赤爪草。
 アネモネ、ポピー、クレマチス。ラナンキュラス。ゼラニウム。
 気候区分と季節ごとに空調管理された植物園では、常に花が咲いている。魔法薬や錬金術などの原料やサイエンス部の実験に使う為であるが、観葉植物も多いのは管理者の趣味と技術力の誇示に違いない。しかし、それらの花の枝は、どれも不自然に、素人が伐採した跡が一か所ずつあった。そして花を育てる柔い土の上にはやはり、彼女の足跡が残っている。

 ジェイドはヘテロクロミアの双眸で、植物園の管理責任者兼サイエンス部の顧問であるクルーウェルを見遣った。果たして、完璧主義的な管理癖とそれに見合う観察力と実力を備えた彼が、植物への無体に気付いていないことがあるだろうか。
「リーチ。丁度いい所に来たな。お前も試食しろ」
クルーウェルはもの言いたげなジェイドと視線を合わせるや否や、ジェイドをサイエンス部の活動に巻き込んだ。ジェイドが返事をする前に、カムの一声で魔法が身体を引っ張り、地面から脚が離されたと思った時には既にクルーウェルの横に立たされていた。手の早い男である。
「お前、食べるのは好きだろう」
「ええ。おっしゃる通りです」
「毒は」
「嗜む程度に」
「そうか、大好きか」
錬金術の授業をしている時のクルーウェルは駄犬相手に鞭を振るうことに忙しいが、サイエンス部では結構自由にやっているらしい。何せ、サイエンス部は理系分野において優秀な生徒が集まっている。グッドボーイとは言い難い面々でもあるが、知的好奇心に首輪を付けられた科学の申し子達はクルーウェルが尻を叩かずとも邁進するので、彼はご機嫌なのだ。
「俺とルークで苺味の薔薇を作ってるんだ。良かったら中間発表に付き合ってくれ」
トレイはサイエンス部の札のかかった薔薇垣から、慣れた手付きで薔薇を切ってジェイドに手渡した。
 花は手本のような半剣弁高芯咲きで、ハーツラビュルの庭を彩っていても可笑しくない見事な真紅だった。しかし、花芯からは確かに苺の香りがしていた。花径は約六センチと慎ましやかな印象を受けるが、食べる事を前提に品種改良したものであるならば妥当なサイズと言えた。寧ろ、苺の代替にするには大きい気もする。
「苺の味と香りは正確に再現できているんだが、魔力を想定以上に吸った上、どうも毒性が強くてな」
何でもない日を祝うケーキに使いたかったが食用には不向きなのだと説明した口で、トレイは薔薇を食んでみせた。クルーウェルとルークも、当たり前のように薔薇を試食している。
「ああ、鼻に抜ける苺の酸味と舌を蕩かす甘み、そして歯間に残る硬い萼。喉を焼いていく鮮烈な痛み。実にトレビアン! 刺激的な上に、まだまだ改良の余地があるなんて、何と素晴らしいことだろう」
毒性があると言いつつ当然のように試食するのは、知的好奇心の強さと魔法士としての傲慢さ故だ。この顧問と上級生は、解毒薬の用意なり消化器官への保護魔法なりそれなりの知識と対策を知った上での蛮行に及んではいる。とはいえ、その光景を目の当たりにしたサイエンス部の一年生は入る部活を間違えたかしらと一度は考えるだろう。
 しかしジェイドは言うまでも無く好奇心で身を亡ぼすタイプの男であったので、ルークの感想を聞くなり嬉々として薔薇に噛り付いた。

 美男子達は薔薇を囲む様子は耽美であったが、あくまでサイエンス部の活動である。
 一等甘みの強い部位を探して掌の上で薔薇を解体しては部位ごとに口に運んだり、毒を舌下吸収してみて体調の変化を観測したり、下級生や運動部達から見れば狂気の沙汰だと逃げたくなるような検証が続いた。殊に、指先と口元を真赤に染めたクルーウェルなど、吸血鬼か食人鬼の風情であった。
「糖度を上げればより毒性が強くなるのでは?」
食道を爛れさせる毒に舌鼓を打ったジェイドは、鋭い歯を隠すように口許に手をやって微笑んだ。もうひとつ薔薇を味わおうとしたジェイドだが、自身の指や魔法では花を取るに至らず、トレイに枝を切って貰った。勝手に剪定されないよう薔薇垣そのものに加護がれているらしい。小動物や使い魔、あるいは未熟な下級生などが誤って口にすれば厄介なことになるのは目に見えているので、安全管理としては妥当である。同時に、ジェイドはこの措置がクルーウェルが監督生の存在に気付いている証だと悟った。
「その毒の発生条件が曖昧なんだよな」
トレイは何個目かの薔薇を咥えたまま、ふむと唸って腕を組んだ。ジェイドとトレイは互いに想定する実用の方向性が正反対な事に目を瞑りつつも、毒の発生する原因を巡って仮説を交換し合う。
「駄犬共。そろそろ花を食うのをやめろ。レポートを書く前に薔薇が無くなるぞ」


 結局、毒花の試食会はジェイドがモストロ・ラウンジの勤務時間五分前になるまで続いた。

 その間も、素人の花鋏の音が聞こえていた。薔薇垣のすぐ裏で。あるいは、隣の花壇で。少女子か細い独り言と刃物をすり合わせる音が、植物園のあちらこちらを移動していく。
それはジェイドの幻聴か、皆が哀れな少女に芽生えた狂気に気付かぬふりをしているのか。花鋏を鳴らす正体を誰も確かめようとはしなかった。

 毒花を毟って食らう男達が、好奇心の赴くまま走れる魔法士達が、揃いも揃って見ざる聞かざるを通した。
 暴いてしまえば、既に追い詰められている少女を修復不能な状態にしてしまう気がしたのだ。大柄で優秀な恐れを知らない男達には、縁遠く克服しがたい悪寒だった。

 ただジェイドの内耳には、か細い声と鋏の音が未だ残っていた。


 これかもしれない。きっとこれかもしれない。
 しょき、しょき。しょき、しょき。しょき、しょき、しょき、しょき。


 鼻腔から苺の甘い香りが消えた時、残るのは得体の知らない獣臭さだけだった。




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