誰も知らない貴方の事7

 日が暮れた頃、メイとロビンフッドがサザークから帰ると、既に牛若丸とクー・フーリンが新たな拠点となったカーターレーン沿いの家で二人を待っていた。
 長らく魔霧に満ちた屋外に居た所為か、メイの顔色は悪くなっていた。けれど直ぐにクー・フーリンが無事に合流した安堵に頬は綻んだ。クー・フーリンは腕や頬に切り傷を作り、衣服を土埃で汚していたものの、派手な怪我は無く、彼女を安堵させた。

 茶の一つも淹れずに、彼等は客間に寄り集る。
「ジャック・ザ・リッパーは?」
メイが色の失せた唇を開いた。クー・フーリンは決まりが悪そうに口を歪ませ、首を左右に振った。軽傷の身体に反して、表情や所作には強い疲労が滲んでいた。
「逃げ切られた。追い詰めた所でホムンクルスが湧き出てきてアサシンを庇いやがった」
クー・フーリンは端の切れた唇を尖らせ、苦々しい口調で告げた。
「それは、災難ね」
しかしこれでジャック・ザ・リッパーが魔霧計画の一端を担っていると確証が持てたと、メイが落胆を隠してフォローを入れる。けれどクー・フーリンはまたも首を横に振る。ロビンフッドの仕込んだ毒は確かに効いていたのだ。彼の用いたイチイをベースとするそれは、サーヴァントが相手であっても心拍数を減少させ、嘔吐感を呼び起こし、呼吸すら困難にさせる猛毒だ。ホムンクルスが少々時間を稼いだところで、ジャック・ザ・リッパーは緩やかに死んでいく筈だった。
「ホムンクルスを相手にしてる隙にキャスターが現れて、アサシンを回収して消えた。ありゃ空間転移だ」
そもそも槍さえあれば遅れを取ることも無かったのだと、クー・フーリンは戦闘に不向きなキャスターのクラスで現界した自身の霊基を呪った。
「令呪での強制移動って訳じゃなかったら、最早魔術じゃなくて魔法の類じゃねえすか」
口を挟んだのはロビンフッドだ。思わぬ情報に真っ先に頬を引き攣らせ、暫し言葉を選ぶ。
「或いは、魔霧計画の首謀者が聖杯を持っていると考えるのが自然かしら」
ロビンフッドが敢えて暈した可能性についてメイが言及した。聖杯戦争中ではない分、令呪による移動の可能性は薄い。ロンドン中を覆う魔霧や相次ぐサーヴァントの現界など、聖杯があると考えた方が説明が付き易かった。
 強大な力の関与に、一同は暫し言葉を失った。複数のサーヴァントが結託している事以上に規模の大きい話であり、事態は深刻だ。万能の願望機がある以上、街を闊歩する異形を倒せども計画者が一人でも残っている限り魔霧計画とやらは進行するに違いない。既に魔の霧で満たされ異形に肩で風を切らせてしまっているロンドンだが、願望機の性能から考えればこの惨状は計画とやらの通過点に過ぎない事も察せられる。
 後手に回り続けている上に防戦しかしていない現状にフラストレーションを積らせ続けている一同にとっては、少々気の滅入る情報だった。

 陰鬱な空気を断ち切ったのは牛若丸だ。
 彼女は好戦的な表情を浮かべ、武将らしい戦場への情熱を孕んだ口調で鼓舞した。
「つまり、その聖杯を奪えばロンドンを蝕む怪機械と魔霧を一掃できるという事でしょう? 目標が明確になってきたではありませんか」
まだ具体策は無いものの、己の武力に絶対の自信を寄せる牛若丸にはカリスマ性があった。その野蛮なまでに前向きな言葉に、クー・フーリンがそれもそうだと賛同する。導き手としてドルイドの格好をしてはいるが、死闘に血を滾らせる戦士の気質は健在である。錫杖を握る手に力が入り、指の節がすうと白くなっていった。


 「して、そちらさんの収穫は」
思考を切り替えたクー・フーリンが、チャールズ・バベッジを捜しに行ったロビンフッドとメイに話を振った。
「そうです、科学者殿には会えたのですか?」
今度はメイが首を振る番だった。
「それが十年以上前に亡くなっていたらしいの。代わりに、彼から依頼を受けた探偵だと名乗るサーヴァントに遭ったわ。これ、お土産ね」
期待通りにはいかなかったが収穫が無かった訳ではないのだと、メイが牛若丸に土産を手渡した。それは赤い液体に満たされた硝子瓶だった。十年以上前という不自然な数字に首を傾げたクー・フーリンだが、直ぐに硝子瓶の中味に目を奪われた。
「それはホムンクルスベビー。探偵さんが罠にかけたホムンクルスから摘出してくれたの。尤も、私にしてみればフラスコの中の小人と言う方が馴染のあるのだけど」
牛若丸が硝子瓶を燭台の光に透かす。すると、血に喩えるには鮮やかで透き通った赤の中に白い胎児のような肉の塊が揺蕩っている様子が鮮明になった。白くて小さいそれは、オタマジャクシとトカゲを足して二で割ったようなシルエットだが、ホムンクルスの幼体と言われれば納得できる雰囲気を持っていた。クー・フーリンは人工生命体を模した怪異を見つめ、悪趣味だと呟いた。
「ベビーというと、ホムンクルスには雌がいるのですか」
「単性生殖じゃないかしら。いえ、コンセプトから言えば、雄という方が適切かも知れないけど」
コンセプト、と牛若丸が復唱する。フラスコの中の小人は、メフィストフェレスと同様に、ゲーテの著作ファウストに登場する。ワーグナーという名の学者によって作られた、虚弱な体と膨大な知識を持つ人造の小人だ。
「ルネサンス期の医師であり錬金術を研究していたヴァン・ホーエンハイム・パラケルススは、自身の著作の中でフラスコの中の小人を作ったと主張してるの。彼によれば、ヒトの精液を蒸留機に入れて四十日密封し腐敗させ、更に馬の体内と同じ体温で保存しながら四十週間人間の血を与え続ける事でホムンクルスは生まれるって話」
魔術的な人工生命の製造工程と言えば、彼の主張ほど有名なものは無い。そもそも神秘に接近する為の事項を詳細に残しているという意味でも、パラケルススは稀有な人物と言えただろう。
 牛若丸が硝子瓶を振った。波立った赤い液体に翻弄され、ホムンクルスベビーが瓶の中をぐるぐると回った。
 伝説ではフラスコの外には出られない程に無力なホムンクルスだが、今のロンドンではこれの成体が脅威として街を彷徨いている。ファウストではホムンクルスがフラスコの外へ出て行くというエピソードがある為、その描写が新たな逸話として付加されたのではないかとメイは踏んでいた。
「パラケルスス……魔霧計画の主導者、Pか」
クー・フーリンがヴィクター邸での手掛かりを思い出し、手を打つ。ホムンクルスが魔霧計画の主導者によって放たれた使い魔ならば、それを使役する英霊はパラケルススの可能性が高い。
「そうでしょうね。あの探偵さんも、その為にこれを持たせてくれたんじゃないかしら」
メイはホムンクルスベビーの入った瓶を突付きながら、サザークで出会った探偵のサーヴァントとの交流を思い出していた。ホムンクルスの捕獲と調査は彼の提案だった。その結果、バラマーケットに群れを成している様子や、仕掛けた罠の一部を看破できた事実から、社会性とある程度の知能を持っていると推測するに至ったのだ。

 探偵に謎解きをさせられている現状にロビンフッドが悪態を吐く。
「回りくどいんすよ、あの野郎」
謎解きは探偵の仕事だろうに、とヒントだけ与えて多くを語らない探偵の態度を勿体ぶっていると非難する。調査の為の肉体労働は殆どが彼の担当だった。探偵に顎で使われた挙げ句、その労働の末にある筈の答えは曖昧なままでどうも釈然としていないらしい。宝具を看破された事も相俟って、印象は最悪である。
「推理にプライドを持っている人だからこそ、不完全な推論を語るのは憚られるんでしょう」
対照的に、メイは探偵に好意的だった。力を貸してほしいと打診した上に、際に素気無く断られて口惜しさに悶えた程だ。

 双方からの探偵の評価を聞いていたクー・フーリンは、根本的な疑問を呈した。
「その探偵の、十年以上前に死んだチャールズ・バベッジの依頼を受けてるっつう話、そこんとこにも突っ込んでおいた方が良いんじゃねえのか」
不自然な話だ、とクー・フーリンが探偵に不信感を呈する。十年以上前の依頼と言うならそのサーヴァントが現界している期間を疑わなくてはならない。しかし、死亡報告が嘘だったとしても、そんな引っかかりを覚えさせるような嘘を吐く意図は分からない。
「そういえば、十年以上も同じ謎を追っているというのも些か考えにくいですね」
だとしたら探偵として英霊になるような人物像とは矛盾する能力の欠如だと、牛若丸も首を傾げた。
 それはメイもロビンフッドも探偵の名乗りを聞いた時から感じていた疑問だった。
「そこなんですけど、依頼人もサーヴァントって考えた方がしっくりきません?」
ロビンフッドが牛若丸とクー・フーリンに意見を仰ぐ。彼とメイはサザークからの帰還するまでの間に、幾つかの推論を用意していたが、どれも確証を持てていなかった。
「私達はヴィクター邸でいつ書かれたのかも分からないメモを発見して以来、バベッジ卿が生きていて力になってくれるものだと思い込んでいたけど、それってやっぱり変だと思うの」
彼が生まれた年は今から一世紀ほど前だ。平均寿命から考えても生きている方が稀ではあるが、生きていたとしても力になってくれる様態である可能性は一層低い。けれど、誰もが当たり前のように、存命かつ何一つ衰えの無いチャールズ・バベッジを脳裏に描いていた。現界の際にその時代の知識を授かるサーヴァントは愚か、ロンドンで生きてきたメイもその非常識を当然だと錯覚していた。そんな事実の改変に近い事象のブレが起きるのは、超常的な力の干渉で認知が歪められていたからではないかと疑っているのだ。そして、そんな事が可能だとするならば、やはりそこにも聖杯の存在があると見るべきだ。
「つまりメイ殿は頼りの科学者殿も魔霧計画の一員とお考えなのですね」
人々にチャールズ・バベッジが存命だと錯覚させる事は、サーヴァントとしての彼の存在を隠蔽する事に繋がる。そのような力と動機がある者が居るとするならば、やはり魔霧計画を主導する者でなくては筋が通らない。
 懊悩で牛若丸の幼さを残す顔が歪む。彼女のへの字になった唇の間から、思案の呻きが漏れる。
「チャールズ・バベッジこそがBだとするなら、回り続ける歯車は、蒸気を上げて邁進するヘルタースケルターは……彼が夢見た科学の具現……」
牛若丸につられて、メイもへの字口で暫し考え込んだ。符号は幾つか合致する気はするのだが、メフィストフェレスやパラケルススのようにはっきりとした根拠が無い為に自信を持って主張できる訳ではなかった。
「でも、バベッジ卿がロンドンを死の霧で満す計画に賛同できるとは思えないのよね。確か、まだ彼の子供も孫も健在の筈。そんな世界を壊せるのかしら」
推論に自信を持てない理由の一つがこれだ。バベッジが死亡してからの月日は少女が観測するには長い期間だが、歴史に焼き付いた影として召喚される英霊の感覚からしてみれば余りに短い。
 頭を悩ませるメイに硝子瓶を返し、牛若丸は口を開く。
「であれば探偵への依頼も気になります。魔霧計画の主導者として依頼するならば、避難した魔術師達の潜伏先を暴く事やはぐれもののサーヴァントを回収する事だろうに、その様子は無いのですから」
メイとロビンフッドと接触した探偵は、嫌味は言えど害意も敵意も彼等に向けなかった。それどころか、Pとホムンクルスの正体を暴かせた。
 これに対してクー・フーリンが推測を紡ぐ。探偵の行動が依頼人の不利益にならないものであるという前提の立場からの意見だった。
「魔霧計画の主導者ってのは、あくまでサーヴァントの関与を突き止めた博士の主観だろ。聖杯の力でいけ好かねえ計画に加担されてるんだとしたら、計画の阻害か聖杯を支配する輩を出し抜く裏工作を依頼してるっつう可能性も有り得るんじゃねえのか」
サーヴァントはマスターの存在によって己の道徳や尊厳を踏み躙られる事もあり得る使い魔に過ぎない身だが、抵抗を試みない訳ではないのだと、サーヴァントである彼自身がよく分かっていた。
「そうだと良いのだけど」
メイは曖昧に頷いて、顎に手をやった。
 尤も、バベッジがサーヴァントとなっていたとしても、死後から十年と幾分かしか経たない神秘の浅い英霊である。まだ未熟な英霊と一世紀ケルトの英雄であるクー・フーリンと同じように当て嵌めて考えるのも難しい面があるが、バベッジの精神力と善性に期待したくもなる。


 屋内で寄り集まって推測に推論を重ねても、正しい答えに到達する事は無い。魔霧計画の主導者の正体を暴きつつあれど、如何にして接触するかというところまでは到底辿り着いていないのが現状だ。
 ううむと唸るメイの手の甲に、生温い温度がポタリと滴った。血だった。
「あれ、いやだ」
滴る血は彼女の手を汚し、胸元を汚した。それは彼女の鼻から出ていた。ホムンクルスベビーの揺蕩う硝子瓶に詰められた液より赤く、粘度も温度も生々しいそれは、鼻を抑えた手の隙間から溢れてメイの袖口を濡らしていく。
「ごめんなさい。これ以上の話はまた明日にしましょ」
メイは上を向いて鼻血が引っ込むのを待とうとしたが、出血が止まる気配は薄く、話の腰を折る事を謝った。
「そうですね、もう夜ですから。私は夜回りをしてから大聖堂へ戻ります」
メイの醜態を見ないよう気を遣った牛若丸が逸早く腰を上げた。
「嬢ちゃん、やっぱお前さんが外に出てくのは無茶じゃねえのか」
「いいえ、ただ疲れただけ。それより貴方は牛若丸といて。ジャック・ザ・リッパーが狙うのは女性の筈だから」
既に家を出ようとする牛若丸に、メイはクー・フーリンをあてがった。ついでに大聖堂に泊めてもらえとも促す。まだジャック・ザ・リッパーが消滅していない手前、夜霧の中を女性一人で歩かせる訳にもいかないという判断は妥当である。
「……おう。そん時はしかと討ち取ってやる」
クー・フーリンの眼は流れ続ける彼女の血に焦点を当てたままだったが、結局それ以上の言及は引っ込め、錫杖を担いで牛若丸の後を追った。

 喋った所為で口にまで血が入り込み、メイは顔を顰めた。部屋にはまだロビンフッドが残っている。
「貴方は」
「俺は此処で寝ますよ」
ロビンフッドはメイの言葉を遮って、客間の来客用ソファに腰を下ろした。
「それで構わないけど。貴方にはもう少し話しておきたい事があるの」
急な出血の為に放り出されていた硝子瓶は、燭台の揺らめく光を映していた。その中で揺蕩うホムンクルスベビーに焦点を合わせながら、ロビンフッドが小さく溜息を吐いた。
「体調不良なので明日からは安静にします、なんて話なら聞かない事もないですけど。逆でしょ、どうせ」
ロビンフッドに先回りされて、メイは頷く。一日中行動を共にしていた分、彼女の身体的な不調について彼も薄々気付いていたのだ。魔力に対する耐性が常人より高かったとしても、ただの人間が魔霧に晒されていて平気な訳も無かった。
彼は呆れと苦渋の混じった声音で、意向に従うとロビンフッドは請け負った。深いため息の後、煙草を吸おうとした彼だったが、火を付ける前にマッチを懐に仕舞った。
「あと、こういう時は俯いて鼻を抑えるもんです。上向いても喉に血が詰まるだけっすよ」


 出血が治まると、メイはロビンフッドの横に移動してソファに座った。
 顔や手だけでなく彼女の赤い髪やにも血が付いて固まっているのが見て取れたが、彼女はそれを無視して話を再開させた。
「それだけ分かってもらえてるなら別に良いんだけど、一応見ておいてほしくて」
メイが血の付いた袖口を捲り上げ、腕を晒した。彼等が出会う直前に、ヘルタースケルターに切りつけられてできた傷だ。深くはないその傷は、感染症にさえならなければ、すぐに瘡蓋となって癒えていくいく筈だった。
 けれど彼女の腕の傷は、熟れ過ぎた果実のように罅割れ、裂けた皮膚の間からは赤色が見えていた。思わずロビンフッドがそれは何かと問う。メイ自身にも分かる事ではなかった。分かるのは、もう後には引けない程度まで怪異に侵されているという事だけだ。

 それは蝋のように白い肌の割れ目でゼラチン質の赤い球状のものが犇き蠕動していた。血や肉より鮮やかで毒々しい赤色が、目に痛い。まるで無数の赤い瞳が肉の奥から覗いているような、グロテスクな異変だった。
「気付いたのは今日の午後。鈍い痛みが鋭くなってきて、膿んでるんじゃないかと確認したら、この有り様」
彼女の傷口から覗く人間の物ではない赤色がロビンフッドを見ていた。眼球じみたそれの虹彩のような部分がギョロリと動く様は凝視としか喩えようがない。
「私、このまま人間じゃなくなってしまうのかしら」
魔霧に蠢く生き物の仲間になってしまったらどうしよう、とメイは掠れた声で言った。ロビンフッドが彼女の腕に触れると、彼女の体温が嫌に熱い事が分かった。二人の喉が急激に渇いていく。
「この街の人達が言うところの魔女になってしまうのかも」
メイは大聖堂での半狂乱の罵声の数々を思い出していた。集団ヒステリーの馬鹿げた妄想が、異形を宿した肉の裂け目から現実になっていくようで恐ろしかった。
 メイはロンドン橋で見せた表情と同じ顔をして、天井を仰いだ。此処には鉛色の空は無く、彼女の自宅より幾分か高い位置に綺麗な天井があるばかりだ。けれど潤んだ緑の眼は、相変わらず眼窩から零れ落ちそうな涙を留めておくのに必死だった。
 悲しみをリアクションとして表出する事は、脳がその感情を認め、感情を増幅させる事に繋がる。泣くという行為は、悲しみから目を反らしたい人間には、これ以上無く不都合な生理だ。既に過積載の悲しみと絶望に押し潰された彼女の中で、僅かばかりに機能する理性がこれ以上の感情を寄越すなと悲鳴を上げているから、彼女は上を向いてやり過す他に無いのだ。
「上向くなっつってんでしょ」
ロビンフッドが彼女の頭を押して、俯かせる。途端に重力に負けた涙が彼女の膝に落ちていった。スカートに一滴落ちれば、二滴三滴とそれに続いた。
「お忘れでしょうけどね、令呪もない小娘なんてこっちはどうとでもできるんですよ。オタクが害になるってんなら、そんだけの話です」
彼女の豊かな赤毛にロビンフッドの指が絡む。メイの後頭部を包むように触れる彼の掌は、彼女の頭蓋骨の丸みを知った。その角の無い均一な頭蓋骨は、頭が柔い赤子の頃からまめに手をかけてもらわねば成り得ない、謂わば家族から慈しまれた痕跡だ。それが酷く寂しく感じて、ロビンフッドは手を離せなかった。

 メイは涙を頬に伝うままにさせ、静かに眼を閉じる。
「じゃあ頼んでいいのね、私のこと」
ロビンフッドに頭を預けて、メイは久しぶりに嗚咽を堪えるのを止めた。

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