架空文化祭-午後

 2年生のブースを後にした藤堂は、紐籤の「南方よし」にあやかって、校舎の最南端に位置するピロティに立ち寄った。
 硝子張りの壁が麗らかな秋の日差しを模した人工光を通すそこは、本来は生徒達の憩いの場である。
 しかし今日は、主人の居ない美術コースの生徒達が壁沿いに陳列されていた。開会式で尻に花を生けられた時から、ずっと展示されていたのである。出資者達に花を挿し足されたり、花を取って性交の相手をさせたりと、散々玩ばれた彼等は随分疲弊していた。それでも、彼は新たな出資者の姿を見れば、重たい瞼を上げて媚びた諂い笑いを見せた。彼等を買い取る事が出来る出資者のみが、彼等をこの場から連れ出せる。その僅かな希望に縋りたいのだろう。尤も、中には「売約済」のタグが付いた首輪が付いたまま展示され続けている生徒も居はしたが。

 藤堂も、そろそろ購入する生徒を検討しなくてはならないと思えてきた頃だ。しかし藤堂の視線は、商品たる生徒達を素通りしてしまう。それもその筈、ピロティには花で飾られた生徒よりも目立つ人物が居た。職人気質な顎鬚を蓄えた、凛々しく恰幅の良い老輩。彼等にフラワーアレンジメントを施した、阿鳴川埜菊だ。彼は、セレモニーで見せた仕立ての良い着物を何処かへ脱ぎ去っており、襦袢一枚で生徒に跨っていた。襦袢の合わせ目からそそり出た阿鳴川の逸物は、老体とは思えぬ角度だった。そして、襦袢を捲り上げてアナルを突き出し、生徒のペニスを無遠慮に咥え込んだ。
「まさか大先生ともあろうお方が、そちらの趣味をお持ちでしたとは」
アナルフラワーアレンジメントを鑑賞しに来ていた出資者達は、皆驚いていた。伝統芸術を牽引する阿鳴流の九代目家元が、子供のペニスを咥えて悦ぶ性だったとは。道理で名家にも関わらず子供も生さない訳だと、好奇の視線が集まる。
「然様、昔から若い男の陽物が好物でしてな。歳を取ると、日に日に抑えが効かなくなる」
阿鳴川は、舌なめずりでもしそうな爛々とした顔で肯ってみせた。そこに一切の羞恥は無い。この敷地内で起きている事や此処で知った事は他言できぬ規則があるとはいえ、その余りに潔い告白は貫禄すらあった。
「人は花であり、同時に花を生かす器であらねばならん」
阿鳴川は身体を弾ませ、ピストン運動に励んだ。尻を花に犯されながらペニスを阿鳴川に扱かれる責め苦にあっている生徒は、苦悶の表情を浮かべていた。耐え難い刺激に腰が間抜けに揺れれば、挿された花が動いて一層の快楽を煽る。
「いかん、花器が腰を振るな。生けた花がずれる」
生徒を咎めた阿鳴川が、仕置きとばかりに尻穴をきつく締め付けた。生徒は小さく叫んで、膝を戦慄かせた。そして、爪先が強く丸まって、涎が一筋落ちた。阿鳴川の中で果てたようだった。
 老人の射精は遅い。まだまだ楽しむ気でいる阿鳴川に、生徒はまだまだ搾り取られるに違いない。傍目から見ても、生徒は憐れだった。その様子は出資者達を楽しませたが、購入用の生徒達を物色する気は失せてしまったことだろう。
 藤堂は、阿鳴川の痴態を一通り拝見した後、ピロティを去った。


 藤堂がタツキの案内で訪れた講堂では、書道のパフォーマンスが佳境を迎えていた。
 パフォーマーは、書道コースで唯一主人が付いていないあどけない顔立ちの少年だけだった。主人が付いている他の生徒は、とうにパフォーマンスを終えて撤収した後のようである。身体に「淫売」と書かれたままだったので、非常に分かりやすい。なお、下腹部のに記された「主人募集中」の宣伝文句と値段も変わっていなかった。
 「淫売」は、自身の尻に赤子の腕ほどの柄の筆を挿し、ガニ股で深く腰を落として文字を書いていた。書いている文字は「貞淑」の二字だが、淑の字は尻で書くには無茶な画数だ。何度も失敗をしてはやり直しているらしく、硯の横には失敗作が大量に重ねられていた。額に浮かんでいる汗も尋常ではなく、膝も笑い通しだった。セレモニーで直腸吸収していた媚薬効果のある墨汁の影響が未だに濃いのだろう、息が荒く、顔も真赤になっていた。成功する見込みなど最初からないのだ。それを含めての見世物なのだと、勿論観客は承知している。
「君、こういう遊びが好みなのか」
藤堂がタツキに耳打ちした。彼のペニスがミニスカートを持ち上げて反応を見せていたからだ。
「いえ、共感するというか……僕も一昨年は書道コースだったので」
タツキの耳が赤い。その年はペニスに直接墨液をつけて書いたらしいが、媚薬塗れの身体に達成できない課題を与えられる終わりの無い苦悶は未だ鮮明のようだった。藤堂はタツキのペニスを悪戯に扱きながら、適当な相槌を打ってから視線を「淫売」に戻した。
 身動ぎだけで気をやってしまいそうな、切羽詰った顔が可愛らしい少年だった。実際、何度か射精はしているのだろう、彼の足元は汗より粘性のありそうな液で濡れている。
「ああっ」
筆の先が紙から離れた瞬間だった。射精と共に「淫売」が背中から倒れた。筆を食んだままのアナルが、別の生き物のように激しく収縮を繰り返していた。それに連動するように、白濁を吐いたばかりの尿道口が開閉している。藤堂は、自身の手の中でタツキのペニスが一層の反応を見せたことを感じ取っていた。
「あ、え、あ? ひっなに、や、あっな、な、なんか、へんんっ」
天を仰いだままのペニスから、潮が噴き上がる。作品が濡れて、字が滲んでいく。しかし本人はまだ自身に何が起きているか未だ飲み込めていないらしい。足を痙攣させながら不明瞭な悲鳴を上げるその様子は、溺れているようですらあった。
「おおっと残念、貞淑には程遠いようですね。まだこの淫売にチャンスを与えても良い方は拍手をお願いします」
司会を務めていた教員がマイクを取った。勿論、観客は拍手で応じる。教員が「淫売」に礼を言うように促すが、彼はとうに気を失っていた。それでもなお上を向いたままのペニスに、観客たちは失笑を漏らす。
「では、1時間の休憩を挟んで再チャレンジとさせていただきます。お集まりの皆様、大変ありがとうございました。次回もよろしくお願いします」

 その挨拶を合図に、講堂から人が散っていく。その人波に倣って、藤堂も講堂から教室棟へと移動する。
「君も書道で潮噴いた?」
「おチンチン擦れ過ぎて血が出るかと思いました」
「はは、それは面白いね」
面白くないですよう、とタツキが必死に首を振るものだから、藤堂は益々それが気になった。


 藤堂は、タツキに3年生の教室展示を案内させた。
 3年生はクラス混合で、競馬を模した催しをしていた。扉を取ってスペースを広く見せた教室から、進行役の生徒が新たなレースの開始を叫んでいる。
「それでは選手紹介に移ります」
早口気味の紹介を受けながら、選手兼競走馬の生徒達がゆっくりと教室を周回する。実際の競馬でいうなら、パドックのところなのだろう。教室の前方には、鞍にディルドの付いた木馬が並んでいた。これに跨らせて、最も早く射精する選手を当てるルールらしい。勿論、金もそれなりに動く。
「1番脇から、中等部からの編入生サツキインパクト47キロ、小柄ながらも大健闘、クレバーな差し馬!」
タツキが競馬新聞を貰ってきたので、藤堂はそれに照らし合わせながら選手の身体を確認した。このレースでは1度に出場する選手の人数が少ない為に馬券は単勝のみしか買えないが、賭けた馬が最下位だった場合は激励として犯す事ができるらしい。ここの出資者達は今更配当金など欲しいと思わないほどの富豪だ。最早、最下位を予想する楽しみ方をする者が圧倒的に多数だ。
「前回レースでは1番人気チハルウララ55キロ、縦割れアナルが乾く間もなし、今回こそ勝ち星をあげたいところです」
またお前に賭けたからな、しっかり負けろよと野次とも応援とも付かぬ檄が飛ぶ。
「シリコン入りのGカップ巨乳サイレンススズナ49キロ、今日もメスアナルが絶好調!」
女性と見紛う美貌の少年が、豊かな胸を揺らしながら入場する。彼は所謂シーメールだ。目を引くが、需要は極めてニッチだ。そういう戦略で売り出しているのか、前の主人に肉体を改造された挙句に捨てられたのか。最高学年で主人が付いていないとなれば、こういった変り種も訳有りも当然居るのだ。
「そしてナツキブライアンは購入につき引退しましたので、代走オサムキャップ52キロが出場です」
紹介された4人がゆっくりとした歩みで、木馬の横に立つ。
「馬券の購入はお済みですか? それでは、発走まで暫くお待ちください」
選手の4人が、緊張した面持ちで木馬を跨いだ。鐙に両足を乗せ、アナルをディルドに触れる寸前まで腰を落とすのが待機姿勢らしい。藤堂は取り合えずオサムキャップに賭けた。急遽代走が決まったらしい彼の所在無さ気な態度が可愛かったからだ。

 馬券購入者が居なくなった事を確認した司会が、発走を宣言し、フラッグを振った。それを合図に、選手達が一斉に腰を落としてディルドを迎え入れた。皆よく訓練されており、ここで手間取るような青臭さは一切見せなかった。
 そこそこ長いディルドが瞬く間に見えなくなり、ほぼ同時に選手全員の尻が鞍に付く。
「ふっふっ! ふっふっ!」
チハルウララが、スクワットの要領で身体を上下させる。逞しいハムストリングが、男臭くていやらしい。大きな動きでディルドがアナルを出入りする様も見ごたえがある。こんな風に長いストロークで出し入れするのが好きなのかと、卑下た妄想を抱かせる。1番人気のパフォーマンスは伊達ではなかった。これに負けじと、オサムキャップも上下運動を激しくさせる。勢い良く身体が弾む度に腹を打つ陰茎が、我慢汁を撒き散らす。
「ああっああんっああ〜〜んっ」
最も派手な喘ぎ方をするのは、サイレンススズナだ。自己暗示をかけていると言っていい。激しい動きで消耗するより、自身の喘ぎ声を聞く事で気持ち良いと認識する事で実際に快楽を得ようとしているのだ。実際、彼は声が高く、眼を閉じて聞けば女のそれと変わらない。きつく眼を閉じて自身の世界に浸りながら、腰をくねらせて快楽を必死に追いかけている。
 一方、サツキインパクトは自分のペースを崩さず浅く小刻みな上下運動を淡々と繰り返していた。しかし、それが悦いのは明白だった。銀の糸になったカウパーが途切れる事無く尿道口と木馬を繋いでいた。
「ああ〜〜っイくっイっちゃううっ」
眉間に深く皺を寄せて快楽を手繰り寄せるサイレンススズナがラストスパートに入った。負けじとピストンを早めるチハルウララ。
「イく! イく! 俺もイく!!」
サイレンススズナに倣って自己暗示的な嬌声をあげるオサムキャップ。
「あっ、ん、ああっ」
速度と角度を保ちつつ腰を振っているサツキインパクトも、甘い声を抑えられなくなってきた。その控えめな嬌声のまま、身体を不随意に震わせ、白濁を零した。
「1着、サツキインパクト!!」
司会が勝者を宣言した直後、サイレンススズナが大きな胸を突き出して射精した。次いで、オサムキャップも精液を飛ばす。これで全ての決着が付いた。
「またもドンケツはチハルウララ! チハルに賭けていただいた皆様、大変申し訳ございません!」
チハルウララは、射精を待たずに木馬から降ろされた。次走の選手に手を引かれ、隣のブースに連行される。
「隣のブースでチハルが身体で誠心誠意お詫びいたしますので、どうぞ激励してやってください」
これが目当てでチハルウララに賭けた者は少なくない。ハードな輪姦になることだろう。こんな様子だから搾り尽くされて、また肝心なレースで射精が出来なくなるに違いない。そう踏んだ観客たちは、次の機会もきっとチハルウララに賭ける。こういった悪循環が生まれて出来レース化してしまうのは、学生クオリティの出し物故だ。参加者が皆、このレースで出した損失に拘る必要が無い程度に金がある所為でもあるのだろうが。

 進行役の生徒が、次のレースの準備にかかる。
「それでは、次のレースも射精の速さを競う形式で行きたいと思います」
使用済みのディルドが付いた鞍が捨てられ、新しい鞍が付け直されていく。
「もしお客様の中で、お手持ちの奴隷を飛び入り参加させたい方がいらっしゃいましたら是非お声掛けください。ドンケツのペナルティを受け入れていただけるなら、皆様のご自慢の駿馬を出場させることも可能です」
先程レースに出ていたチハルウララ以外の選手は一旦休憩のようで、彼等が控え室に引っ込むと、進行役の生徒は選手を募集した。主人にくっついて暢気に観戦に来ていた生徒達の血の気が引いた。主人の方も、ペナルティを受け入れられる者は居ないようである。気に入っている奴隷をわざわざ他人の精液でクリームパイにしても良いと思える嗜好の持ち主は稀有なのだ。
「ちなみに、一応ですがご主人様の出場も可能です。この場合、ペナルティは要相談になります」
進行役の台詞に、観客がどっと笑う。実際にペナルティを受け入れない主人が最下位だった場合は3着の生徒が輪姦されるのだろうが、殆ど冗談でしかない提案だった。

 「藤堂様、賭けをしませんか」
進行役が洒脱なトークを交えて飛び入り参加者を募る最中、タツキは神妙な顔持ちで藤堂に囁いた。舌足らずで能天気なお喋りが引っ込んで、緊張に上擦った声音になっていた。
「僕がレースで勝ったら、僕を買ってください」
教員の耳に入れば無礼として咎められるに違いない台詞だった。だが、タツキは切実だ。もう最高学年で後が無い。この接待とて、下心をもって引き受けている。それは藤堂も承知だった。
「負けたら?」
「諦めます」
簡潔で、硬質な返答だった。元々、藤堂への接待が無ければ、タツキもそちら側でショーに参加していた筈なのだ。それを鑑みれば、当然ペナルティに晒される覚悟はあるだろう。
 藤堂の脳裏にふと、今朝タツキを後ろから犯した際の情景が甦った。従順な淫乱で、嬌声はあけすけで、風情なんて気にしちゃいない。相手が出資者であれば、誰に犯されようとそんな様子で身を任せるのかもしれない。藤堂は、タツキの彫り深で中性的な顔立ちを一瞥して、意地悪を自覚しながらも質問を重ねた。
「……もし、君が賭けに勝ったとして、僕の他に君を飼いたいという人が出てきたら?」
「それ、は……ちょっと検討したいですね」
「君、結構現金だな?」
「アッ、すみません、でも藤堂様に買っていただきたいのは本当なんですっ、あ、駄目だコレ全然フォローになってない!」
慌しい返答は、すっかりいつもの頭の足りないタツキだった。弁解を試みる程、更なる残念さを露呈する。
「君、本当に格好の付かない子だねえ」
黙っていれば美人なのに、と何度目か分からぬ感想を漏らす藤堂の口元は緩んでいた。
「いいよ。君を買おう」

 決め手を問われれば、藤堂は恐らく、阿呆のくせに打算的で突拍子も無い奴だからと応えるだろう。
従順で賢くて健気なだけなら、前に飼っていた男の方がどうしても上等に思えてしまう。その点、タツキは何処をとっても比較の対象になりはしない。ただただ愉しく過ごせる子だ。
 それに、他の出資者に尻尾を振っている姿を想像すると面白くないと感じる程度には、藤堂はタツキを気に入ってしまっていた。
「残念だけど、僕がペナルティを呑ませたくないからレースは無しだ」
早速タツキが大声で歓声をあげる。そして全身全霊の万歳三唱。当然、周囲の視線が集まる。それを煩いと咎める藤堂だが、やはり前言を撤回する気にはならなかった。

 新たに忙しない犬を迎えた藤堂の生活は、漸く楽しいものになりそうだった

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