架空文化祭-午前

 有志発表は暗転と共に慌しく撤収され、司会の生徒が次の演目を告知する。次は1年生による芸術科目ごとの成果発表らしい。
 芸術科目は1年生の必修科目で、音楽、美術、書道のいずれかを選んで受講しなくてはならないカリキュラムになっている。まずは書道から始まるようで、照明の切られた舞台上に黒子装束の生徒達が画仙紙を運び込んでいた。
「皆様、お待たせしました。最初の発表は書道コースです。我が校でも最も古くから存在するコースですが、新しい表現の追及には余念がありません。伝統と革新の融合を是非御笑覧ください」
司会者の挨拶を合図に照明が点けられ、演者達の姿が露わになった。今年の書道コースを選んだ生徒は、たった3人だけだったようである。彼等は、素肌に真紅の襦袢を肩に掛けただけの状態で、白く大きな紙の上に横並びで立っていた。既に腹が不自然に膨れ、青褪めた顔色に反してペニスは元気に天を仰いでいる。
 三人とも、毛筆によって下品な文字が身体に刻まれていた。精悍な顔立ちの中央の少年には、白い腹に「牝犬」と大きな楷書体で入っている。向かって右側の少年は、あどけない顔立ちに反して大人びた草書体で「淫売」とあった。向かって左側のよく日焼けした三白眼の少年は、腿に力強い字体で「メスガキ」とある。「淫売」に関しては、下腹部に「主人募集中」の宣伝文句と値段まで記されている。つまり、他の二人には主人が居るらしい。
「わ、我が校のスポンサーでもある、T社様が、遂に、じじ人体にっ無害かつ、強烈なっび、媚薬、効果のあるっ墨液を、開発、してっくらさいましたっ」
中央の「牝犬」が震える声で発表すれば、客席からは苦笑が零れた。大人びた顔立ちと鋭い目付きに反して、甘く媚びた声をしていたからだ。
「まだっ、浣腸、したばっかりなのにっ、か、かゆいっああっお尻っ、おしりがジンジン疼いてっしかたありませんっ」
「ぼ、ぼくたちが、さっそく墨液カンチョー漏らすところ、み、みれくらさいっ」
左右の生徒が分担した台詞を述べ、襦袢を捲り上げて腰を突き出した。彼等は生まれたての小鹿のように震える膝を大きく開いて、排泄を公開する姿勢を取った。本当に我慢が利かない代物らしく、既に呂律の怪しい彼等は呼吸も不規則で酷く情けない表情を晒していた。
 観客達が了承の合図として拍手を送ると、生徒達の顔は僅かに綻んだ。
 ブポッブポッと汚らしい音をさせて、アナルが決壊する。
「ンひいいぃぃっ」
生徒達は、襦袢の裾を硬く掴んだまま、腰をヘコヘコ振りながら盛大に漏らした。真っ黒な液体が肛門から勢い良く噴き出ていく様は圧巻だった。
「ああっ! ああぁあっ」
あっと言う間に足元の白い紙が、黒く染まっていく。
「でりゅっでりゅううぅっ!!」
「淫売」が真っ先に排泄物に直腸を苛まれる刺激だけで射精し、膝から崩れ落ちた。排泄の勢いは徐々に弱まるが、強烈な媚薬に侵された彼等には過ぎた刺激のようである。精液を噴く小ぶりなペニスだけが、元気に起立している。その気持ちよくて仕方が無いといった締まりの無い顔が、観客達の嗜虐心を煽る。
 次いで「メスガキ」も崩れ落ち、ガニ股のまま無様に射精した。鉄漿女の口のようになった真っ黒な肛門がパクパクと開閉する様は、グロテスクな淫猥さがあった。

 辛うじて堪えた「牝犬」が排泄の余韻で惚けた顔のまま、震える脚で紙の上から退いた。そして、足元の紙を回収して頭上に掲げた。
 彼が掲げ持っていたのは、五尺全紙の画仙紙だった。墨ですっかり黒く染められた中に、白抜きの文字が浮かび上がっている。
『ようこそ文化祭へ!』
はじき絵の要領で予め撥水する白い塗料で書いていたのであろうが、やはり中々の達筆だった。
「やはりコレを見ると文化祭が始まったなって気になりますねえ」
「去年はボディペイントを施すところも見せてくれたっけ。今年は媚薬が強過ぎでそれどころじゃないっぽいねえ」
藤堂の後ろの男達が、満足げに拍手を送っていた。どうやら、排泄で文字を浮き上がらせるのは定番の演出らしい。
「ぼ、ぼくたちは、午後っ午後も、パ、パフォーマンスをします。よ、よろしれれば、みにひてくらさい……」
息も絶え絶えの状態で言い切ると、「牝犬」はブビッと屁を放って崩れ落ちた。小刻みに下肢を震えさせながら、射精していた。
 すぐさま舞台は暗転し、黒子装束達が書道コースの生徒を回収していった。
「えー、書道コースは午後2時から講堂で発表をします。今度はアヌスに太筆を挿して、それぞれの抱負を書き上げます。媚薬漬のアヌスを筆に犯されて悶絶する彼等の醜態に期待しましょう」
舞台を整える間、司会者は書道コースの宣伝を付け足した。


 「おまたせしました。次の発表は美術コースのアナルフラワーアレンジメントです」
司会の声を受けて、舞台の照明が復活した。アナルフラワーアレンジメントとは、奴隷を花器に見立てて肛門に花を生けるパフォーマンスだ。藤堂の趣味ではないが、その手のパーティでは装飾品の感覚で多用される。その為、藤堂を含む観客達のアナルフラワーアレンジメントを見る目は肥えている筈だ。
 月光のように柔らかなスポットライトが、舞台の端に立った少年を照らす。彼は完璧な微笑を披露した後、彼は恭しく頭を下げた。
「僕達美術コース15名は、阿鳴川埜菊先生の下で花器として研鑽を積んでまいりました。美しい花々と磨かれた身体が織りなす官能をお楽しみ下さい」

 舞台全体に光が当てられ、舞台の全貌が露わになる。舞台上では、切花に囲まれた美しい男子生徒達が全裸で整列していた。その中央には、仕立ての良い着物の男が仁王立ちで観客席を睨んでいた。見るからに職人気質な顎鬚を蓄えた、凛々しく恰幅の良い老輩。彼こそが、阿鳴川埜菊その人だ。表の世界では日本の伝統芸術を牽引する阿鳴流の九代目家元として名が知れていた。厳しく、気難しく、弟子は取らない孤高の人である。そんな人がまさか、ゲイのサディストの嗜好を満たす為の催しに出張ってくるとは。藤堂は驚嘆に息を呑んだ。他の観客達も、物珍しさにざわめいた。

 阿鳴川の一礼を合図に、生徒達が床に仰臥した。そのまま腰だけを持ち上げ、開脚前転の途中のような格好で静止する。客席に尻と顔を同時に晒す格好だ。顔の上で力無くぶらさがるペニスは、彼等の緊張を如実に伝えていた。
 バックミュージックが雅楽めいた和琴の調べに切り替わる。阿鳴川は鋭い目付きで白いアリアムの切花を選び取る。独特なうねりと太さを備えたアリアムの長い茎が、寸分の抵抗も許さぬ手早さで中央の少年の尻に挿される。
「んんっ」
花を挿された少年の声を、音響装置が拾う。尻の中には吸水スポンジと共に媚薬も仕込まれているのだろう、少年のペニスがアナルの刺激に反応して蜜を零し始める。動くまいと自らの身体に爪を立てて快感を押し殺そうとする少年の顔はいじましい。
 だが阿鳴川は、そんな少年の艶めかしい反応には興味が無いようだった。続け様にアリアムを足していく。少年の使い込まれた小豆色のアナルから瑞々しい黄緑の茎が動的な曲線を描きながら伸びる様は、花の逞しさと人肌の艶かしさを引き立てた。
「んおっ、ひぃんっ」
阿鳴川は茎を食むアナルの淫猥な動きよりも生けた花がずれる事が気になるようで、幾度かアリアムを挿し直す。それが皮肉にも一層の快感を生んだらしく、生徒は顔を赤くして小刻みに震えていた。快感を堪える為に不自然に力の入った足の指は、白く小さく丸まっている。その健気さに、観客達も満悦だ。
 客枝として、短く切られた薔薇の花が生けられる。半剣弁平咲きの滑らかな花弁に棘の無い茎が特徴の、スムースベルベットだ。鮮烈な紅色の大輪と濃い緑の葉が、睾丸や肛門を覆っていく。茂る薔薇の奥には、すっかり硬く張り詰めたペニスが覗いている。その先端から滴る蜜が、また一段といやらしい。
 阿鳴川は仕上げとして、少年の薔薇に囲われた陰茎を厳かに摘み上げた。無駄の無い所作で鈴口を指で開き、茎の長い薔薇をそこに宛てがった。
「ああああぁぁっ」
尿道に薔薇を挿し込まれ、少年は悲鳴じみた嬌声を漏らすと同時に達していた。塞がれた尿道からは精液を漏らす事も叶わないというのに、小刻みに身体を痙攣させ、涎を垂らして荒い息を吐いていた。
「あ、ありがとぉ、ございまひた……」
焦点の怪しい眼のまま、少年は阿鳴川と観客に挨拶をした。
 阿鳴川と美しい花器となった少年に、惜しみない拍手が注がれる。
「流石は阿鳴川、男の尻に生けるのも天才的だ」
「ウチの子にも美術科目を受講させれば良かったな」
藤堂の座席の近くでも、男達が興奮気味に賛美していた。藤堂も、残る14人に阿鳴川がどんなアレンジメントを施すのかが楽しみになっていた。


 阿鳴川は拍手が鳴り止むのも待たずに、次の生徒に取り掛かる。
 その間も、花を生けられた生徒は感じいった惚けた顔を晒していた。達して過敏になっている粘膜に花を生けられたまま放置されるのは、もどかしくて堪らないに違いない。けれど、花を生けられた少年は、全ての舞台発表が終わるまで花器として大人しくその姿勢を維持し続けなくてはならないのだった。

 尻に白百合を生けられた生徒が、艶めかしい声をあげる。
 幼さが残る1年生の中では異質な、逞しい成人の生徒だった。大人の大きな尻に、大和百合の力強いシルエットと清純な色合いが眩しい。客枝はブル−スターで、明るく鮮やかな水色が愛らしさを生んでいた。逞しい大人の尻を、少女趣味めいた色合いの花々が際立てる。見事な采配だった。
 その次の生徒は、伝統ある阿鳴川のイメージから大きく抜け出し、キッチュに仕上げられた。尻に挿された大小の玉菊の色鮮やかな球状の花が強調されてロリポップのような愛嬌を振りまいているのだ。生徒から苦しげに漏れ出る吐息すら、砂糖菓子の匂いを纏っていそうだった。

 生徒の身体に関心を寄せない阿鳴川だが、花器の美点を引き立てたりギャップを楽しませたりする花の選び方は、的確に観客を悦ばせる。
「君にも白百合が似合うだろうな」
藤堂はふと、彫像めいて美しいタツキにも白い花が映えるだろうと口にした。清楚そうな外見のくせに、近くに寄れば主張の強い独特の芳香が鼻を刺すところも、この男にそっくりではないかと思ったのだ。ただ、あの大振りな大和百合ではなく、小ぶりな乙女百合がいい。
「え、えへへ、照れます」
タツキは、コンパニオンらしからぬ初心な所作で素直に喜んでいた。
「藤堂様もきっとお似合いです、あっ! 違っ、お尻に挿す方じゃなくて、普通に似合うって意味ですからねっ」
タツキの慌しい返答に、藤堂の隣席に座すマエストロが吹き出した。
「ほら、バラとか、ラフレシアとか」
タツキが弁解を試みるも、更なる残念さを露呈するだけだった。
「……君、もしかして常にハンカチを噛ませておく必要があるのかい」
「ちがうんです、その、花とか詳しくないんですっ」


 風情を解さないタツキとの会話は、藤堂やマエストロにとっては新鮮であった。
 藤堂がタツキの無知と阿呆を楽しんでいる間も、舞台上の阿鳴川は花で男達を喘ぎに喘がせていた。遂に、最後の生徒にも花を生けた阿鳴川は、客席に向かって厳かに立礼をした。
「扶養者の居ない花器につきましては、ステージ発表後はピロティに展示致します。気に入った花器がありましたら、是非お声掛けください」
色とりどりに花を生けられた生徒達が荷台に乗せられて舞台脇に飾られる中、阿鳴川が悠々と舞台を降りていく。その背中に、熱っぽい拍手が降り注いだ。


 「最後は音楽コースによる合奏をお楽しみください」
空いた舞台中央に、音楽コースの生徒が運び込まれてくる。音楽コースの生徒は、磔台や分娩台に様々なポーズで固定されていた。彼等は演奏者ではなく、楽器なのだ。雑音を最低限にするべく、生徒全員に轡が噛ませてあった。その中に有志発表で軽音バンドのヴォーカルを務めていたブロンドの青年を見つけた藤堂は、思わずマエストロを見遣った。
「私ならニコロから声を奪うなんて勿体無い真似はしないね」
マエストロが口髭を弄りながら拗ねた声を出した。ブロンドの青年はニコロというらしい。彼は分娩台に固定され、青褪めた顔で観客席に視線をやっていた。
 本当に音楽の才能がある男が、合奏の名を借りた辱めで消費されている。不覚にも藤堂は、その贅沢さに悪趣味な愉悦を覚えた。
「演奏は上海BDSM交響楽団の皆様です。独創的な現代音楽をお楽しみ下さい」
紹介と共に、スーツの男達が入場する。その中には、サウンドアートで財を成したアーティストの顔もあった。各々が担当する生徒の横に立つと、装置を取り付けたり尻を叩いて音を確かめたり、チューニング作業に入った。

 奏者とアイコンタクトをとった指揮者が、いよいよ指揮棒を振り上げる。

 パドルを持つ奏者が指揮に合わせて生徒の尻を叩く。若い尻を打つ小気味良い音が合奏のリズムを形成する。
 リコーダーのように単純な構造の縦笛を尻に挿された生徒は、抽挿によって軽快な音を出した。直腸に空気や水を送り込まれては、肛門から派手な破裂音を奏でる生徒も居た。
 ニコロは、尿道にでんでん太鼓のような小型の打楽器を尿道に挿されていた。鼓を打たれる度、振動が雄芯から前立腺へと駆け抜けるらしい。曲が進むにつれて叩かれるテンポが速まっていく。曲の中盤からは、不細工に鼻水を吹き出しながら悶絶していた。
「〜〜ッ!! ――!!!!」
肛門へ笛を抽挿され続けていた生徒が、絶え間ない絶頂に追い込まれて遂に失禁した。それでも奏者は笛を操る手を緩める事無く、リズムに従って進行していく。いっそ機械的とすら言える無慈悲な抽挿にあわせて、舞台上に尿が飛ぶ。

 一人が漏らすと気が緩んでいくのか、尻を鞭打たれ続けていた生徒も縮み上がったペニスから力無く小水を垂れ流した。
「……悔しいが、面白い」
マエストロの苦々しい声音で漏らされた感嘆に、藤堂も頷いた。前衛的だが、バリエーション豊かな音の表現は拘り抜かれている。そして見事に、演奏者達の技術によってタイミングが巧みに統制されているのだ。ついでに言えば、生徒達が羞恥や苦痛に顔を赤くして泣いているのが可愛らしい。

 ドラム奏者が、平手で生徒の尻を叩きに叩く。猿のように真赤になった尻が、軽快に弾む。
 最後に、指揮者が一際大きく腕を振った。それを合図に、粘度を調整された液体を直腸に注がれていた生徒達のアナルプラグが一斉に引き抜かれる。豪快な放屁と排泄音。そして、静寂。
 降り注ぐ拍手の中、轡を噛まされた生徒達は音も無く痙攣していた。アンコールを求める声には応えられそうにない。これにて閉幕だ。

 奏者達が降壇後、黒子装束の生徒達によって、音楽コースの生徒達が回収されていく。ニコロも尿道から楽器を取り外され、漸く射精が叶ったようだった。轡が外された瞬間に嘔吐する者も居た。
「これにて、オープニングセレモニーを閉会します。30分の休憩と準備時間をいただいた後、教室展示と食堂を開放します。午後もごゆっくり文化祭をお楽しみ下さい」
司会者慇懃に挨拶をして、ステージの幕が降りていった。客席や通路に明かりが燈って、主人達が次々に退出していく。既に通路には、主人を待っている生徒が集まり始めていた。
「それでは私も失礼します。頑張った子に褒美をあげなくては」
マエストロも、藤堂に挨拶をして立ち上がった。ペットが可愛くて仕方が無いのだと、隠す気も無いらしい。
 マエストロの御機嫌な足取りを、藤堂は羨ましく思いながら見送った。


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