架空教団潜入

 防砂林に隠され、俗世とは隔絶した宗教施設。真白の外壁と遊び気の無い外観が病棟を思わせるそこは、信者が消えると噂の新興宗教の総本山だった。
 熱心な信者達はそこで寝起きし、教祖から直々に説法を聞き、集団生活の中で信仰を深めている。酒匂がその一人として教団に潜入したのは、探偵として依頼を受けたからだ。


 酒匂が依頼を受けたのは一週間前。
 個人経営の手狭な事務所を訪れた美丈夫が、弟を教団から連れ戻して欲しいと頼み込んできたのだ。
 依頼者は水城祐一と名乗った。折り目正しい二十代の若者だったが、表情は酷く疲弊していた。何処も宗教絡みの仕事は請けてもらえなかったらしく、藁にも縋る思いで酒匂を訪ねたらしい。酒匂の探偵事務所の人気とは、そんなものなのだ。そして事実、憲法に信仰の自由が保障されている手前、宗教活動に介入するのは厄介な仕事である。
『佐一が私や両親を嫌っているのは薄々気付いてました。兄弟でずっと比べられていましたから。教団の下で暮らす事を決めた時、家族とは縁を切ったつもりだとも承知しました』
水城兄弟は正確には二卵性の双子だが、酒匂が聞いた限りでは顔も性格も全く似ていないかった。
 兄の祐一は生真面目で学歴からしても優秀で、弟の佐一は成績不振で大学を中退していた。顔も、祐一が歌舞伎役者のように涼やかで理知的な美形なら、弟はアイドルのように華やかで愛嬌ある顔立ちだ。祐一は佐一を可愛がっていたようだが、佐一はそうではなかったようである。
 家族間の確執は、親元を離れて随分経つ上に四十路目前の独り身である酒匂には、最早懐かしさすら感じる話であった。けれど、家出の延長や家族間の問題として収めるには、厄介なものが関わり過ぎてしまっていた。
『それが先日、佐一から葉書が来たんです。復縁と、私にも入信を勧める旨でした』
祐一は、酒匂に佐一からの葉書を見せた。細々とした字で長々と文章が綴られていた。内容の殆どは教団の素晴らしさについてだったが、文法的がやや怪しく、表現の重複も多い。中退とはいえ、大学まで通った男の文章にしては稚拙すぎる。
『なんだか文章が妙でしょう。よく見てください。文字の下に針を押し当てたような小さな凹みがあるでしょう。弟はそうやってメッセージを仕込んだんです』
酒匂は小さな印を付けられた文字を拾って読む。こういった手段でのメッセージの仕込み方は、古い刑事ドラマで見た事があった。
『助、け、て、教祖、人、身、バイ、ば、い、して、い、る、手紙、け、ん、え、つ、さ、れ、て……とんだカルトだった訳か』
まず現在の刑務所では通用しないであろう手段だが、教団の検閲はそこまで念入りではなかったのだろう。
『はい。調べたところ、教団の下に行ったきり帰ってこなくなるという噂は数年前から都市伝説的に流布していたようで……もし、その通りなら、弟は……弟は……』
大学院を卒業して間もない新社会人だという彼は、在学中に貯めた貯蓄と初任給の全てを投げ打ってでも、弟を連れ戻すと酒匂に頼んだ。
 干支一回り分も年下の若人の覚悟を、無碍に出来る冷酷さは酒匂には無い。寧ろ、ここで期待に応えねば男が廃る。酒匂は任侠心から、彼の依頼を引き受けたのだった。


 潜入した酒匂は、信者との交遊の中で教団の情報を集めた。
 信徒の証である古代ギリシャのキトンを思わせる白い布を身体に巻いただけの格好は落ち着かないが、周囲とも上手く馴染んできた頃合だった。
「へえ、湯瀬さんの前職って作家さんだったんですか。どういう経緯で入信を決めたんですか?」
酒匂は、信者の一人と食堂で夕餉を共にしながら言葉を交わす。湯瀬は水城兄弟とも歳が離れておらず、恋人や家族を伴わず単身での入信であった為に酒匂の興味を引いた。若く健康で身内と離れている人身売買に適した人材を、教団が何処から調達するのか知りたかったのだ。
「いやあ、何ていうか、教祖様の大きさにやられてしまって……」
「やっぱり教祖様ですか」
教祖は筋骨隆々で、一見は頼り甲斐人のある善良そうな中年男性だ。その声は父性に溢れるテノールで、脳幹に刻まれた畏怖の感情を擽る。そんな教祖の存在こそが、二番煎じの教義でそれだけの信仰を集められた要因であろう。彼こそがこの組織の支配者である明らかであった。
「ええっ酒匂さんもですか」
「ええまあ。きっかけは知人の勧めですけど。教祖様の存在は大きいですね」
酒匂は茸のパスタを巻き取りながら適当に相槌を打った。提供される食事は滋味に富み、運動や娯楽を愉しむ設備も充実している。その上、御布施を強要される事も無い。致せり尽くせりな施設を存続させているコストと教団の財源は見合わない事は、やはり人身売買の裏付けになっていた。
「教祖様にお近づきになるにはどうしたら良いんでしょう。湯瀬さんは最近どんな修行をしてるんですか?」
教祖を含む幹部連中は、一般の信者とは違って地下階に寝床を持っていた。見込みがあるとされた信者は、神官と呼ばれる幹部に地下に誘われ、更なる修行を受ける。恐らく、組織の秘密があるとするならば其処だろう。酒匂は其処に侵入する手立てを探していた。
「僕も早く湯瀬さんのように頻繁に神官様からお声がけいただけるようになりたいです」
湯瀬は幹部と呼べるような立ち位置ではないが、神官によく目をかけられていた。若く美しい湯瀬が人身売買の毒牙にかかるのも時間の問題に思えた。湯瀬を餌に教団の動向を探る手を考えてもみた酒匂だが、それはどうも気が進まなかった。
「色々ですよ。まあ、適切な時がくればってヤツです」
湯瀬が能天気な笑みでグラスを傾ける。その闊達で人懐こい顔は、酒匂に多少の罪悪感を覚えさせた。
「大丈夫ですよ、焦らず修行していきましょう」
湯瀬の穏やかな助言に笑みで返せない酒匂は、不器用に唇を引き攣らせた。
もしかして酒匂さんって結構せっかちですか、と湯瀬は人懐こい笑みのまま問いかけた。けれど酒匂は、その問いに含みを感じて思わず押し黙った。
「……それとも、急ぐ理由がおありですか」
言葉尻が、毒々しいまでに甘い。人を食ったようなと形容されるに相応しい、わざとらしい人懐こさ。

 「ついこの前、教団に不届きな男が侵入したんですよ。名前は確か、水城祐一って言いましたっけ」
依頼人の名を出され、酒匂の額に汗が伝う。弟を思う余り、祐一は独断で教団を嗅ぎ回っていたらしい。
「それで、彼が持ってた名刺に酒匂芳徳ってありましたよ。酒匂さん」
「……あのバカ!」

 酒匂の潜入は呆気無く失敗した。


 暴れる間も無く湯瀬は神官を集め、酒匂は地下室へ連行された。
「酒匂さんって、探偵だったんですね」
酒匂は手足を縛られ、タイル張りの床へと投げ出された。教祖に肩を抱かれた湯瀬が、四肢の自由を奪われた芋虫のような酒匂を見下ろしていた。
「俺も実は、ノンフィクション作家なんて気取って教団のことネタにしようとしてた不信心な時期があったんです。でもちゃんと悔い改めれば、教祖様は全てをお許しくださいました。だから大丈夫です。酒匂さんもしっかり悔い改めていきましょうね」
陶然とした狂信者の眼だった。とんだ奴に声をかけてしまったと、酒匂は己の見る眼の無さを呪った。
「ええ。湯瀬くんはしっかり反省できましたね。ほら、君の忠誠を見せて差し上げなさい」
「……はぁい」
教祖が長衣を寛げ逸物を露出すると、湯瀬は何の躊躇いも無く跪いてそれに頬を寄せた。
「教祖さま、ああ、おっきい……」
教祖の淫水焼けした野太い陽物に、高い鼻を擦り付けた湯瀬。一頻り雄の匂いを堪能してから、ゆっくりと口に含んでみせた。唐突に眼前で繰り広げられる淫行に、酒匂が絶句する。

 物欲しげに尻を振りながら跪いて口淫に励む湯瀬の姿は、カルトの実態と教祖の本性を知るには充分な光景だった。けれど、教祖にとってこれは余興ですらなかった。
「もっと面白いものを見せてあげましょう」
教祖の合図で、神官が部屋に台車を運び入れる。台車には、酒匂の依頼人である水城祐一とその弟の佐一が乗せられていた。腕を台車に括りつけられ、尻同士をつき合わせるような姿勢で身体固定された兄弟は、美しい顔を苦悶に歪ませている。
「兄ちゃ、ごめ、ごめんなさ……」
「さいち、あああ、さいち、苦し、ああ……」
よく見れば、二人は互いの肛門を透明なパイプで繋げられていた。彼等の腹は膨れており、既に浣腸液の類を仕込まれている事が察せられた。それより酒匂の眼を引いたのは、彼等の下腹に描かれた揃いの紋様だ。それがどんな効能を与えるか、酒匂は知っていた。
「弟思いのお兄さんですから、佐一君とお揃いの身体にして差し上げました。乳首の刺激で達しながらでなければ肛門からの排泄が叶わぬ祝福を授けたのです」
なんて悪趣味だと、酒匂が顔を歪ませた。
「君もこの悦びが恋しかったでしょう。お久しぶりですね、酒匂くん」
教祖が酒匂の胴に張り付いた白布を捲り上げる。晒されたのは、少したるみ始めたものの未だ厚い腹筋と、その表皮に赤く浮かぶ火傷痕のような紋様。彼等と同じ、教祖の支配が及んだ証だ。
 酒匂は既に、この男の力を知っていた。

 酒匂は酷い顔色になっていたが、息を大きく吐いて平常を装って悪態を吐いた。
「……整形したのか、変態サド野郎」
嗜虐的な悪趣味極まる催しが、酒匂の忌々しい記憶を刺激する。

 酒匂が以前に教祖と対面したのは、まだ教祖が新興宗教の頂点に君臨する前のことだ。
 その頃の酒匂は水城兄弟より若干若く、公務員を目指す大学生だった。就職活動に向けた自己啓発セミナーで、酒匂は講師を名乗っていた教組と出会った。教祖は教団の前身として、セミナーで大学生を洗脳しては支配下に置いていた。酒匂は彼に気に入られ、意識開発と称して肉体の至る所を開発された。下腹部に水城達と同じ紋様を描かれ、男を欲しくて堪らない身体にされた。今の水城と同じように身体を玩ばれた。性の奴隷となる恥辱を与えられ、身体がそれに順応するよう調教された。
 そんな調教を施せる男を、酒匂は二人と知らない。顔が変わろうと、身体全体で覚えこんだ男の逸物は分ってしまう。この男の手管を忘れられる筈が無かった。
「……何が教祖だ、クソ野郎……」
 何とか彼らの隙を突いて逃げ果せた酒匂だが、紋様の描かれた下腹部は未だに淫らな疼きを抱えている。元の仕事の戻る事も出来ず、落ちぶれた生活の中で頻繁に己を慰める日々は四十路を間近にしても続いていた。
 この男は人の尊厳を奪う天才だ。宗教だの教祖だのが掲げる慈悲や救済などとは真反対のものしか齎さない、魔性の類だ。性の奴隷として地獄を見てきた酒匂は、憤りに満ちた声をあげる。強がる半面、またこの異常な男の下に連れ戻されるに違いないという悲しみと恐怖が心を重くしていた。
「おや、口の悪さも相変わらずだ。君は私の好みより聊か逞しくなり過ぎてしまったけれど、反応が良いのが可愛いですね」
過去の屈辱と対面した酒匂を教祖が揶揄する。口元を隠して笑おうと、声音と僅かに覗く目元が嘲りを雄弁に表していた。
 
 「酒匂くんがその身体にされてなお逃げることが出来てしまったのは当時の私の未熟さ故です。ですから君は私が責任を持って完全な教徒に育ててあげましょう」
教祖の脇に控えていた神官が、酒匂の前に写真をばら撒いた。それは全て、彼から逃げた後の酒匂が映っていた。それも全て、恥辱的な記録写真だった。性欲を持て余して行きずりの男とホテルに入る酒匂の後姿、些細な刺激で勃起して焦りを覚える酒匂の横顔、そしてあろう事か自宅も兼ねている探偵事務所や、最寄駅の個室トイレの写真まであった。疼くアナルに指を突っ込んで自慰に耽る酒匂の写真は、どんなポルノより淫猥だった。
 彼は、逃げた獲物をそのままにしておく程生温い支配者ではないのだ。
「今まで中途半端でさぞ苦しかったでしょう。火照り続ける身体を持て余す体験を経て、私の有難味が身に沁みたのではありませんか」
浅ましい姿を余す所無く記録されていることを悟った酒匂は、羞恥と絶望で眩暈を覚えた。酒匂は身体を一時ばかり玩具にされただけでなく、その後の人生をも弄ばれていたのだ。つかの間の自由も、全て彼の掌の上だったのだ。これ以上無い屈辱に、酒匂は反論の言葉も失っていた。
「そうです、君の事はずっと監視していましたとも。だから水城くんのお兄さんが貴方に依頼した事も当然知っていました。尤も、水城くんの手紙は仕掛けが浅はかで分かり易過ぎましたが」
水城兄弟がビクリと肩を震わせた。この男達にとっては、何とも都合の良い展開だろう。鴨が葱を背負って来たどころか、鍋も薪も抱えて来たようなものだ。
 教祖の愉悦を隠さない高笑いが、酒匂の鼓膜を犯す。


 「さあ、我々の再会を祝いましょう。そして水城兄弟の深い絆に拍手を」

 互いの肛門を透明なパイプで繋げられたままの水城兄弟に、神官達が疎らな拍手を寄越す。
「まずはお兄さんの方からイってみましょう」
教祖の合図で、神官の一人が祐一の胸にしゃぶり付く。それだけで祐一は喉を反らせて嬌声をあげた。涼やかで理知的な相貌が幼子のように情けなく崩れる様子は、神官や教祖の嗜虐心を煽った。助けてやりたくとも、拘束されている酒匂には文字通り手も足も出せない。
「ややめ、で、出ちゃ、ぐぅっさいち、許しっああっイぐっ!!」
ジュッ、ジュッと軽く歯を立てられたまま乳首を吸われ、祐一は呆気無く根を上げる。腹に付きそうな程に勃起した陰茎の先から精液を飛ばすと同時に、祐一は腹を痙攣させて泣いた。
「ああああっさいち、ごめっ出て、ああっおなか、ぎゅるぎゅるって! ああっ!」
水城兄弟を繋ぐ透明のチューブは、祐一の肛門から排泄されるスカイブルーのゼリーで満ちた。膨らんでいた祐一の腹が、見る見る凹んでいく。チューブだけでは到底収まらない量のゼリーは、当然佐一の腹へと入る。既に膨れている腹に更なる異物を送り込まれた佐一は悶絶した。
「ぐっぐるじぃっ兄ちゃ、やめっはいっでごないでぇっ」
腰を跳ねさせ身を捩る佐一だが、拘束された身では碌な抵抗も叶わなかった。それどころか、仕込まれ過ぎた身体は圧迫感にすら快楽を拾って陰茎を勃たせていた。
「ごめんな……さいち、ごめんな……」
譫言のように謝る祐一。弟の中に排泄する罪悪感に眉を寄せるが、その表情には漸く排泄が許された事への安堵と開放感も滲んでいた。

 けれど、教祖の手に落ちた彼には、束の間の安堵も許されはしない。
「じゃあお兄さん、弟くんを楽にしてあげましょうね」
「やめっ」
祐一の抗議も虚しく、今度は佐一の乳首に手が伸ばされる。兄より開発されていた期間が長い佐一は、乳首を指で弾かれただけで直ぐに達した。
「あぁっちくびっイイっイくっ出るぅっ」
乳首のみで性感を得る事に長けてしまった所為か、佐一の陰茎は祐一に比べて一回り小さく、射精も勢いに欠ける。それなのに排泄の勢いだけは兄に勝っているのだから、余計に無様であった。肛門を繋ぐチューブを満たしていたスカイブルーのゼリーは、佐一が排泄したショッキングピンクのゼリーで祐一の腹へと押し戻された。腹が膨れた状態に戻って苦しむ祐一だが、更に佐一の腹に入っていた分のゼリーも押し込まれて悲鳴を上げた。
「ぐるじぃっも、これ以上ダメだっ、さいち、我慢してくれっ」
「無理っそんなの無理っ」
佐一は腰を揺らめかせ、最後の一滴までゼリーを排泄した。
「あああっそんな! そんなぁっ!」
腸に入った大量のゼリーに膀胱を圧迫された祐一は、小水を漏らしてしまった。その醜態に神官達がご機嫌に笑った。精液とは比べ物にならない量の排泄は、タイルの床を景気良く濡らしていった。
「ああ……兄ちゃん、お漏らししちゃったの……」
佐一は排泄を終えた余韻に蕩けた顔のまま兄を見遣った。アンモニアの匂いが立ち込める。神官達の哄笑が響く。神官の一人が「お兄ちゃんのくせに」と祐一の粗相を揶揄った。中には彼等の様子を見ながら自らの陰茎を扱きだす神官も居た。
「い、いわないでくれ……」
弟を助けに来た筈が何の役にも立たぬまま痴態を晒し続ける祐一は、涙声で羞恥を訴えた。
「大丈夫ですよ。いずれ二人とも排尿でアクメできるようにさせてあげますからね。ね、湯瀬くん」
教祖が足元に跪いている湯瀬に声をかける。湯瀬は喉奥を教祖に突かれただけで甘い絶頂を幾度も繰り返していた。排泄行為で性感を得るなど、彼にとっては序の口だろう。彼は教祖の陰茎に頬を寄せたまま、水城兄弟の醜態を羨ましそうに見詰めていた。
「はい。おしっこアクメ大好きです。湯瀬はたくさん開発していただいてとっても幸せです」
湯瀬の言葉に嘘はない。実際、教祖の支配下に居続けては、いずれ誰もがそんな色狂いになってしまうのだ。
 湯瀬は教祖に促され、神官達のペニスもしゃぶって回った。その尊厳をかなぐり捨てた従順さには酒匂も狂気を感じて慄然とした。けれど下腹に刻まれた呪印の所為か、酒匂の魔羅は淫気に当てられて興奮を催していた。


 水城兄弟は交互に乳首を刺激されながら、ゼリー浣腸をリレーさせられ続けた。ピンクとブルーの二色だったゼリーは、互いの腹で交じり合って紫に変わっている。
「ほひいいいっやめっぐるじいっ」
佐一が仰け反って頭を振る。アイドルじみた顔は涙で歪んで赤子のようだった。
「も、いぎだぐないっあたまバカになるっォヒぃっ、イぐっイぐうううっ」
祐一はもう、酒匂の知る折り目正しく理知的な若者などではなかった。乳首を摘まれては発情期の猫より煩く喚きたて、弟の苦悶などお構いなしに排泄を繰り返している。精子を吐き過ぎた陰茎は勃つ力も弱くなって、潮とも尿ともつかぬ薄い汁を零すだけになっていた。最早男性失格なのだと神官達は嘲笑う。嬲られ続けた乳首だけが腫れて赤々と色付いて立派になっていくのだから、尚更に憐れだった。
「あっあっあああんっイくぅっ出せるっあひっ」
祐一の絶頂が治まりきらない内に、佐一に刺激が与えられる。佐一は乳首の先に触れられただけで、いとも簡単にイった。ゼリーはパイプの中で行ったり来たりを繰り返す。
「出すなぁっがまんしろってぇ、ッヒ、ゼリー来るっぐるじぃっ」
祐一が佐一に舌足らずに訴える。
「ヤだぁっ兄ちゃんだって出してるじゃんんんっああっも、出さないでよぉっ」
兄弟の絆は何処へやら、腹の苦しさに抗えずにいきんでゼリーを押し付けあう二人。
 それでも、彼等の身体は簡単に達してしまうし、排泄の開放感だけでなく浣腸の閉塞感にすら悦びを覚えていた。意思に反して快楽を拾い続けるのが、教祖が紋様を通して刻んだ呪いなのだ。

 酒匂もまた、教祖の呪いに苦しんでいた。二人の苦悶に同情しながらも、どうしようもなく欲情してしまうのだ。教祖に仕込まれた身体が、滅茶苦茶にされたがって疼く。彼等の痴態に自身を重ねて、我慢汁で股間が濡れそぼる。手足を縛られてなければ、自慰に及んでいたかもしれない。
 淫行が繰り広げられる中、一人放置される酒匂は己の浅ましさに絶望していた。自らを慰めることも、誰かに触られる事もなく、タイルの床の冷たさだけが火照った身体に沁みている。最早、酒匂は内心、神官達に身体を好き勝手に使われている湯瀬を羨ましく感じていた。苦しんでいる水城すら、妬ましい。酒匂は疼く下腹を誤魔化すように膝を擦り合わせ、己の不甲斐無さに唇を噛んだ。

 「おお見ろ、またイったぞ」
「お前の所為で可愛い弟が苦しんでるのに、酷い兄貴じゃないか」
湯瀬の身体を貪れない神官達が、水城兄弟の痴態で自らの陰茎を扱きだす。祐一の肌理細かい膚に、精液が引っ掛けられる。硬くしこった乳首に陰茎を擦り付けられ、祐一は最早何度目かも分からぬ絶頂を迎えた。
 佐一も身体中を神官達に弄られ、貶められる。
「元はといえばお前が巻き込んだ兄貴だ、ちょっとは遠慮して我慢してみろっ」
「こんな身体でよく教団を抜けようなんて思えたな」
「またイったぞ、情けない奴め」
「もう女の子みたいな乳首じゃないか」
佐一は熟れた乳首に息を吹きかけられただけで、舌を突き出して絶頂する。拘束された肢体が増大し過ぎた快楽に震えて、息も絶え絶えだった。

 佐一はとうとう、掠れた声で許してくださいと懇願した。
 心はとうに折れていた。最早、身の振り方を選ぶ余地など無い。彼等が安息を得るには、邪悪な教祖に縋る他に無いのだった。
 もう逆らいません、逃げようなんて思いません。いい子になります。信者になります。だから許してください。出させてください。教祖さま、教祖さま。鼻水すら垂れ流したまま、美しい兄弟は泣いて喚く。
「おや、水城くんは我が教団の素晴らしさを思い出してくれたようですね」
教祖が屈んで佐一に目線を合わせると、説法の時と変わらぬ声音で問いかけた。
「もう気の迷いも醒めたでしょう。こんなにも気持ち良い思いをして、お兄さんと仲良く出来たんですから」
佐一も祐一も、犬のように息を切らして頷いた。
「はひ、しあわせれす、きもちよすぎてこわい、たすけて、なんでもいうことききます、たすげでください……」
「ぼくがバカでした……教祖様にさからうなんて……二度とはむかいません、きもちよくしていただいてありがとうございます……」
力あるものの慈悲に縋りたい気持ちと、逸そ自我の欠片も残さず壊された方が楽になれるのではないかという願望が、彼等の思考を鈍らせていた。快楽と苦痛で揉まれた脳が、恭順な信者になる事だけを唯一の救済と誤認する。


 教祖は二人の支離滅裂な懇願を聞き、微笑んだ。彼が慈悲を与えると宣言すれば、二人の肛門を繋いでいたチューブがいとも簡単に抜け落ちた。
 しかし排泄までは許さなかったらしく、ゼリーが詰められた二人の腹は膨れたままだった。肛門はチューブの太さに開ききったままだったが、そこから顔を覗かせるゼリーは謎の張力で留まっていた。
「では、信仰心を見せてもらいましょう。其処に、素直になりきれない哀れな男が居ますね?」
教祖が酒匂を指差した。水城兄弟だけでなく、神官や湯瀬の視線も酒匂に集まった。
 途轍も無い悪寒が酒匂の背筋を駆ける。しかし拘束された身に出来る抵抗など虚しいばかりであった。
「君達の手で救済してあげましょう。二度と我々から逃げたいなどと思わないように。性奴隷の幸せを今一度教えてあげましょう」
神官は酒匂を物のように引っ掴み、教祖の前へと引きずり出した。
「今はっきり性奴隷っつたろ!?」
正体見たりと叫ぶ酒匂の声が虚しく響く。そうしている間にも、水城兄弟は神官達の手を借りて台車から降ろされ、膨れたままの腹を庇った鈍足で酒匂にじりじりと歩み寄って来る。

 教組に洗脳された依頼人とその弟が、淫蕩な笑みを湛えたまま酒匂に手を伸ばす。便乗した湯瀬も、悪戯に酒匂の膚を撫で回す。
「た、助けてくれ! 俺はもう、俺はこんなことっ」
「ごめんなさい酒匂さん。でもきっと気持ちいいから。ほら、もう乳首たってる……」
祐一が酒匂の乳首に吸い付いた。教組や神官達にされてきた気持ちの良い事を片っ端からなぞっている。
「酒匂さん、おちんちんおっきいんですね……ああっおいしそう……」
佐一は何の躊躇いも無く酒匂の陰茎を口に含んだ。それどころか、喉の奥に亀頭を擦り付けては積極的に嘔吐いている。佐一は喉の奥を犯される被虐の喜びを自ら貪り、艶かしく尻を振りながら達してしまった。佐一にとってそれが本日何度目の絶頂なのか、本人ですら分かりはしない。それでも彼の陰茎はまだ快楽を求めて勃ち上がり始めていた。
「……ゼリーでいっぱいのお腹でおちんちん頬張ったらどうなっちゃうんだろ」
まだ達していない酒匂の陰茎に鼻を擦り付けながら、佐一は陶然とアナルを疼かせた。到底正気ではない提案も、さも名案のように扱われた。止めさせる為に口を開いた酒匂を、湯瀬がディープキスで黙らせる。本当は期待しているくせに。と耳打ちしたのは誰っだったか。教祖の呪いを受けている酒匂の身体は、確かに与えられる快楽に悦んでいた。淫らな紋様の描かれた下腹が疼いて仕方が無いのだ。
「ふふ、酒匂さんもおしりヒクヒクしてる」
酒匂の口内を犯していた湯瀬の舌が抜かれると、粘性が増した唾液が糸を引きながら床に落ちた。気を抜くと馬鹿のうように喘いでしまいそうになるのを辛うじて耐える酒匂に、佐一が跨って腰を振る。勢い良く揺れる佐一の陰茎を、祐一が捕まえて物欲しげに捏ね繰り回す。
「酒匂さんはだれに入れられたい?」
湯瀬と祐一の指が、交互に酒匂の肛門を突付く。会陰をなぞったり、浅く指を入れたり、温くもどかしい快楽が酒匂の羞恥心を擽った。
「順番に犯しっこしよう?」
いっそ逞しい神官達にモノのように犯される方がまだ屈辱は少なかっただろう。同じ奴隷に堕とされた証を持つ若い美青年達に優しく犯されるのは、骨を蝕む蜜のようだった。
 助けてくれ、と啜り泣く酒匂の良心は確実に溶けて無くなろうとしていた。

 おかえりなさい、酒匂くん。教組が快楽に蕩ける酒匂に声をかけたのは、夜が白み始める頃だった。
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