加虐の劣情、相互不理解

 ドアスコープ越しに大荷物を持った緒方を確認した今野は、渋々ではあるがドアを開けて彼を招き入れた。
「ただいまー」
図々しい挨拶はいつもの事だ。今野にとって緒方との再会は最悪の極みだったが、桜の花が散り始める頃には半同棲と言っても差し支え無さそうな頻度で緒方を家に上げていた。このまま徐々に今野の生活を侵食していく算段がある事を、緒方は隠しもしない。
「実家から布団持ってきた」
緒方の礼節を知らない三白眼が機嫌良く細まる。
「勘弁してくれ。本気で泊まる気か」
右肩に圧縮袋に詰められた布団を担ぎ、左手に衣類で膨れた紙袋を下げたまま、緒方は足先だけで器用にスニーカーを三和土に脱ぎ捨てた。その荷物を見た今野は絶望に浸った口調で応じたが、悲壮さよりも呆れが勝った態度に納まっていた。そして抵抗らしい遣り取りも無いまま、リビングの隅に荷が下ろされる。
「良いじゃん、良いじゃん。こっちのが職場近いんだって。ていうかちゃんと家賃半分払うよ」
快活な笑みだけ切り取ってみれば、好青年だから質が悪い。
「長期滞在を前提に話を進めないでくれ」

 今野とて、緒方から逃げようと思わなかった訳ではない。平静な対応が出来るようになっていようと、今野にとって緒方は野蛮なレイプ魔だ。それも同性で年上の変態に執着する、常識の通じない意思疎通困難な異常者だ。
 不動産屋に駆け込んだ事もあった。しかし、新居を決めかねている間にも、緒方の侵略を受けた。鍵を変えればベランダの硝子戸を割って侵入され、時にドアチェーンを切られ、合鍵を複製される等、手口は多岐に渡った。多種多様な侵略に拒絶と抵抗の無意味さを思い知れば、諦めが芽生えるのも無理からぬ事だった。
 切られたドアチェーンの買い替えや割られた硝子戸の修繕に金と時間を食われ続けるよりは、妥協して諦観に身を委ねた方が幾分か楽だったのだ。最早緒方は今野にとって、備えによって被害を減らす以外に付き合い方の無い回避不能の天災だった。
 今野の抵抗に遭わずに家に上がり込んだ時の緒方は上機嫌で、若干扱い易くもあった。
 盛りの付いた犬にように性交を強請るのは毎度の事だったが、仕事が立て込んでいると告げればそれを優先させる程度の分別はあったし、平時でも機嫌を損ねないよう上手く躱せば緒方が強引な性交渉に踏み切る回数は減っていた。


 緒方は今野の家だというのに、勝手を知りつくした迷いない所作で珈琲を淹れた。相変わらず冷蔵庫には作り置きの茶など無く、インスタントの珈琲粉が重宝されていた。二人とも砂糖は入れない。緒方は既に今野の好む珈琲の濃さも把握するまでになっていた。
「そろそろお揃いで食器用意した方が良くね?」
緒方は今野の隣に腰を下ろした。サイズの異なるマグカップがローテーブルの上に並ぶ。
 テーブルの小ささからすれば対面に座るべきだろうと思わないでもない今野だったが、露骨に詰められた距離がそんな突っ込みを野暮なものにしていた。
「実家からディスク持ってきたから一緒に見ようぜ」
案の定、緒方の手は今野の肩を馴れ馴れしく抱いた。筋肉の付いた腕は重いだけでなく、子供のように体温が高い。今野は緒方の腕を払い除けようとはせず、その行為に仄めかされた下心に関心を払わないよう努めてテレビのリモコンを渡した。
「ジャンルはアクションか」
この傍若無人な男がラブロマンスを持って来ていたらそれはそれで滅入ると思いつつも、どうせアダルトビデオの類だろうと今野は当たりを付けていた。緒方が訪れる度に性交渉を迫られる今野がそういったイメージを抱いてしまうのも仕方の無い事だった。
「ううん、俺のホームビデオ」
再生装置がデータを読み込んでいる最中の青い画面に切り替わる。青一色の液晶画面に、今野の呆けた顔が反射していた。
「ホームビデオとか見て面白く思えるのは親族だけだと思うんだが」
懐古趣味も無く家族の団欒に関しても関心の薄い彼にとっては、特に面白いものではない。弟夫婦に見せられた甥子のホームビデオでも白けた程だ。まして緒方の、親族でもない上に自分の背を遥かに超えた可愛くない男の成長記録に興味が抱ける筈も無かった。それに子供時代の緒方の事なら、大体は知っているので然したる新鮮味も無い。
 緒方を相手に今更一般的な感覚を説くのも無意味と思いつつ、今野は諭した。けれど緒方はぬけぬけと言い放つ。
「え、でもアッちゃん子供ん時の俺は好きでしょ」
今野は飲みかけていた珈琲を嚥下し損ねて咽た。そんな事なら市販のアダルトビデオの方が断然マシだった。
「僕はそういう話をする気はない」
悶着を避けてきた今野だが、自分でも意図しない程に低い声が出た。
 緒方から性欲が向けられる事についてはある程度の耐性が付き始めていた今野だが、自己嫌悪の根源である己の性嗜好について触れられるのは酷く耐え難かった。緒方が彼のショタコン趣味に言及したのは最初と二度目の侵入の時のみだけで、二度目の時に今野が大人げなく癇癪を起し本気で泣いて嫌がったのが効いたのか彼のセクシャリティには踏み込まない不文律が形成されていた。少なくとも、今野は今の今までそう思って緒方の侵入と狼藉を妥協してきていた。

 テレビの液晶画面が青一色から切り替わり、学校の校庭と思しき映像に騒々しい歓声と子供特有の甲高い声が流れ始める。ただのつまらないホームビデオの筈が途端に見てはならないものに思えて、今野は緒方からリモコンを回収しようと試みる。
「違うんだって」
テレビを消されまいと、緒方が武骨な手でリモコンを握り締めて抵抗する。大きな図体に反して、その挙動は悪戯が発覚して焦る子供と何ら変わらない。マグが倒れて珈琲が零れる。カーペットは今野が強姦された春の初めに取り替えたばかりでまだ新しかったが、みるみる珈琲の茶色を吸収していった。
「違わないだろ」
腕力でも俊敏性でも敵わない今野はリモコンの奪取を諦めテレビの主電源を抑えようと立ち上がるが、それを緒方が引き倒して留める。カーペットの上に俯せで倒れマウントを取られる形となった今野だが、緒方に振り回され荒事に免疫が付いたのか怯まなかった。ひと呼吸置いて、意図的に凍てた声を絞り出す。
「荷物を纏めて実家に帰れ」

 緒方は押し黙った。二人の問答が止まると、途端に広くない部屋の空気が重く苦しいものに変わる。止める機会を失ったテレビの音だけが二人の鼓膜を震わせていた。
 普段なら今野の意向など気にも留めず好き勝手に狼藉を働く彼だが、彼への好意に偽りは無いのだ。殊に最近は雑な扱いを受けながらも宿泊すら許容される程度まで距離を詰め、受容される心地良さを覚えていたのだ。その反動は大きかった。
 動揺が生まれ、今野を取り押さえる緒方の手が緩む。その隙に、今野は緒方の下から這い出る事に成功し、ずれた眼鏡を掛け直す。

 液晶の中で、体操着の男女が整列した全校生徒を前にスポーツマンシップに則った競争を行う事を宣誓している。楽しげな小学生達の運動会の映像は、余りに場違いだった。子供達の燥ぐ声が、今野の自己嫌悪を刺激する。
 今野が再び帰るよう促そうとした時、またも緒方が「違う」と口を開いた。
「俺のこと見てよアッちゃん。昔の俺で良いから」
四角形の画面の中で、まだ幼い緒方が撮影者に向かって懸命に手を振っていた。屈託無く大口を開けて笑った口から、乳歯が抜けた跡が覗いている。
「そういうのが嫌だと言ってるのが分からないのか」
性交渉を行ってきた二人だが、それは極めて緒方の一方的なものであり、今野自身の性的興奮とはいずれも遠い所にあった。それでも、今野にとってはその方が良かったのだ。自身の性欲自体が疎ましい彼にとっては、その方が精神的に楽だったからだ。何故自身が最も嫌悪する事象を他人の手によって突き付けられなくてはならないのかと、今野は唇を噛む。
「俺で興奮してよ」
けれど、緒方は譲らない。小学4年生の時分から今野に手を出される妄想で自慰を繰り返した彼の執着は底知れない。恋愛の対象からとうに外れている身でも、今野から欲望の籠った眼差しを向けられたいのだと訴える。間接的であろうとも求められたいと願うその双眸は、異様な熱を帯びていた。

 首を横に振り続ける今野の肩を、緒方が勢い良く掴んだ。
「どうして。別に盗撮とかじゃないし。ていうか俺だし。俺自身は良いって言ってんじゃん」
肉体労働に無縁の薄い肩に、緒方の太い指が痛い程に食い込む。自身の性癖に付き纏う罪悪感に苦しむ今野に配慮をしているつもりでいるらしい緒方だが、ただただ迷惑にしかなっていない。

 だが、今野は拒否の言葉をこれ以上紡げなかった。緒方の眼が据わっていたからだ。今野の経験則が、目の前の男の機嫌をこれ以上損ねるべきではないと警鐘を鳴らしていた。
「……そうだよね。元々アッちゃんは俺のこと歓迎しちゃいなかったしね」
今野は再会したばかりの日の暴挙を思い出さざるを得なかった。繰り返した拒絶の先にあるのは、緒方の暴走、白昼のレイプ。敵わない筋力差で押さえつけられて与えられる、一方的な痛みだ。
 保身の為にも弁解して緒方を宥めなくてはと思う今野だが、上手い言葉も探せず呻くような吃音が漏れるばかり。碌々役に立っていないというのに喉が渇いていく。咄嗟に時こそ嘘を吐けないのは彼の性分だった。器用に調子の良い事を言える性分だったら、そもそも人付き合いを敬遠して引き篭もりに近い生活を選ぶ事もなかっただろうと、今野は自身の性格を誰より知っていた。
「あ、ああ、そうでもない。今は。君が淹れてくれる珈琲、好きだし……」
嘘ではない範囲でしどろもどろに答える。言い訳を並べて自己正当化を図る子供のように下手糞な口調だった。
「好き?」
その単語に過剰反応した緒方の眉が跳ね上がった。
「ああ。好きだ。その、気が利く奴だと思う。使った食器を洗ってから帰っていくところとか、特に」
言わない方が良い詳細まで今野の口から滑り落ちる。緒方は悪趣味で我の強い異常者だが、合意の上で付き合えば悪い奴にはならないのではないかと今野は思っていた。人をよく見ていて、そこそこマメで気が利くのは事実だ。それらの態度はあくまで今野の為に行われていた事であり、今野との距離を詰める上で無意味だと分かれば緒方が大人しく振る舞う意味も無くなる。
 今野は眼鏡をずり上げるふりをして、緒方から目を逸らした。つい、三角割でこじ開けられた為に取り換えを余儀なくされた硝子戸に眼がいってしまう。破壊にも傷害にも何ら躊躇いが無いこの男にストッパーをかけられるのは、今野の最大限の受容が担保になっていたからだ。
「……悪い。その、過剰に反応し過ぎたと思う」
折れた今野が頭を下げ、事態の収拾を図った。今野の態度が軟化すれば緒方も素直で、こっちも吃驚させてごめんと眼を細める。
 帰れと言ったところで帰らないであろう緒方の強制送還を今野は早々に諦めた。足元では、冷たくなった珈琲がカーペットにすっかり染みていた。点いたままのテレビは、未だに体操着姿の小学生達が右往左往する様を垂れ直している。

 「……久々に正太郎くんって呼んでくれる?」
今野は今日で何回目か分からない妥協を重ね、溜息を噛み殺した。


 液晶の中で、目に痛いほどの青空を背にした体操着姿の幼い緒方が八重歯を見せて笑っていた。カメラを見付けて、悪戯っぽく駆け寄ってくる。
『正太郎、アンタ何持ってんの?』
母親と思しき撮影者の声に、やや舌足らずで元気の良い声で答えて、幼い正太郎が手の中の物を見せる。金色の折り紙に黒マジックで書かれた1等賞の文字が微笑ましい。
『アッちゃんに見せてあげんの。アッちゃん、リレーの選手に選ばれたこと1回も無いんだって! コレ見たら絶対ビックリする! でしょ!?』
この頃の緒方は、恐らく純粋な方の意味で今野に懐いていた。落ち着きなくアッちゃんがアッちゃんがと繰り返す様は雛鳥のようですらあった。
『あーあ、握り締めるからシワシワじゃない。貸してごらん』
『ヤダ、母ちゃん盗るじゃん』
『盗らないよ』
『お年玉盗ったって、兄ちゃん言ってた』
母子の家庭事情が垣間見える会話が漫然と続く。周囲の様子からして、昼休憩に突入した頃合いらしい。
 そんな和気藹々としたホームビデオを前に、今野は緒方の脚の間に座って陰茎を扱かされていた。
 幾ら少年性愛者であろうと、見知った家族の記録で興奮を催すのは無理がある。しかし、緒方の要求を無事に棄却できる気もせず、今野は間抜けにも陰茎を露出して手で捏ね繰り回しながら緒方の気が済むのを待っていた。
『ちょっと正太郎、ご飯前に靴触んないでよ』
小学生の時の緒方は体操着を兄の御下がりで済ませていたらしく、ブルーシートに腰を降ろすとハーフパンツの横幅が余り過ぎているのが目についた。健康的に焼けた小麦色の肌の中で、無防備な腿の内側は白く目立つ。今野はこんな状態でも子供特有の肌理細かい膚を眼で追ってしまいそうになる自分の性に心底嫌気がさしていた。
『アッちゃん高校ん時は靴屋のバイトだったんだって。靴紐の色んな結び方知ってんの!』
無邪気に今野を慕う幼い緒方。これが今や年上の冴えない男に自慰を強要する傍若無人な変態に育っている現実に、今野は辟易とした。
『これね、ハシゴ結び! アッちゃんはもっとシャシャシャーッて、結ぶの早いよ!』
今野が彼を歪ませた原因であると言えばそれまでだが、此処まで世知辛く諸行無常を突きつけられては厭世的な気分にもなる。
『それスニーカーの結び方じゃない。運動向きじゃないのよ。戻しなさい』
物理的な刺激に緩く血が集まっているものの、今野の陰茎は猛った状態とは程遠い。やる気の無いそれに焦れたのか、緒方が今野よりも縦にも横にも一回り大きい手を添え始めた。
『そんでアッちゃんヒモ解くのもはえーの!』
人の話など殆ど聞いてない自由人ぶりだけは、この頃から変わっていない。うんざりし始めた母親が気の無い相槌を打っていた。兎に角今野が凄いのだと幼い視点から純粋に尊敬を寄せる無垢な口振りに、今野の良心は無数の細かい棘が刺さったような痛みを覚えた。けれど、当の緒方は熱心に今野の陰茎を弄っているだけだった。
「こん時の俺、可愛い?」
緒方が今野の肩に顎を載せた。変声期などとうに終えた低い声が、今野の薄い耳朶を擽る。一般的な感性をもって評価しても、ホームビデオに登場する緒方の言動は可愛いと言える範疇のものだろう。けれど、今の今野にとっては酷く複雑である。それに緒方も、幼い自身が手放しに可愛いと褒められる事を素直に喜べるような機嫌でもなさそうだった。
「返答に困る」
緒方に背を預けたまま、今野は渋い顔をした。間接的にでも承認されたい欲求と、今野の性の対象になり得る幼い自身への嫉妬を、緒方は隠そうとしないからだ。恐らく、今野が現状の緒方が一番好きだと告げれば万事が快方に向かうのだろうが、彼はそんな気障な台詞を吐けるような性分ではない。取って付けた方便では、緒方も納得しないだろう。

 相反する感情を抱えたまま、緒方は今野の肩口に歯を当てた。鼻から吐かれる息は荒く、今野の首筋を擽った。犬の甘噛みのようなそれは、痛みを与えるものではない。不機嫌になったり自身に妬いたりしていたかと思えば、緒方も折り合いの付かない自身の忙しない感情に疲れたのか結局は縋って甘える仕草を見せ始めた。尤も、緒方が今野に甘えていない時の方が珍しいが。
 自身の陰茎を惰性で弄び続ける緒方の手を、今野は指を絡めるように握って止めさせた。肩口に顔を埋めたままの緒方が不明瞭な呻き声で返事をする。駄々っ子かと呆れた今野だが、此処に来て子供に喩えるのは面倒を呼びそうなので胸中だけに留めた。

 テレビの中では、幼い緒方がまだ小さい口腔いっぱいにおにぎりを頬張っているところだった。今では食べ方こそ綺麗になったが、大食らいは変わりない。今野は時折、この男には胃袋に底が無ければ食欲も性欲も底無しなのではないかと思わされていた。
「どうして君の方が興奮してるんだ」
腕白で可愛い筈の少年にいちいち意思疎通困難な暴君の影がチラついて意識が散漫になる今野だが、思春期を迎える前から性欲を彼一人に費やした緒方には無縁の事だったらしい。触りもしていないのに育った緒方の陰茎を背に押し付けられた今野が身じろぎした。それを合図に、緒方は今野の手を取って身体ごと振り向かせた。緒方のズボンが寛げられ、今野の手がそこに導かれる。
 滑りを伴った熱が脈を打つ生々しさを掌で感じた今野だが、慣れとは恐ろしいもので、それを始めて眼にした時の恐怖や屈辱は限りなく薄くなっていた。寧ろ、テレビ画面を見る必要が無くなった事に対しての安堵が勝っていた。
 今野の手を使って自らを慰めながら、緒方は口を吸った。彼の厚い舌が今野の舌に絡まり、歯列の形を確かめるようになぞり、頬の内側を舐り、口腔を我が物顔で這い回る。行き場を無くして溢れた唾液が、口の端から落ちていく。
 断続的に唇を吸う音をたてながら、緒方は今野のシャツを捲りにかかった。


 今野にとって、体力で敵わない上に致命的な秘密を握っている緒方は天災のようなものだ。犬に噛まれたと思うよりも、大人しく難が過ぎ去るのを待つ事に慣れてしまえば、歪ながらも日常の一部に帰属する。

 体中を這い回る武骨な手の感触にも、今野は慣れつつあった。
「明日カーペット買いに行こ」
視界の端に汚れたカーペットを認めた緒方が今野の機嫌を取るように提案した。恐らく揃いのマグカップも欲しがるに違いないと、今野は冷めたままの頭で予測したが、曖昧に頷いて行為を許した。
 明日の予定を取り付けるという事は、一先ず事後の行動に差し障らない程度で済ませるという担保だからだ。しかし同時に、未来の約束をするという関係を継続する宣誓を承諾したに等しかった。生産性の無い変態二人だ。関係を断つ契機も見付からない。

 前立腺を押しつぶされる生理的な刺激と直腸に異物が抜き差しされる原始的な快楽に、今野の爪先が怯えたように丸まる。
 破れ鍋に綴じ蓋という緒方の主張を思い出して今野は首を振るが、この行為に生理的な喜びを学習してしまえば益々彼に都合良く転んでいくのだろうと諦観に満ちた胸の裡では悟っていた。


 テレビからは相変わらず、幼気な緒方の声が聞こえている。
『俺、アッちゃんと結婚したい』
もう結婚の意味くらい分かる歳だろうと呆れ混じりに嘆く母親の声は、今野の吐く息に掻き消された。



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