架空飼育生活

 薄暗いリビングの白いフローリングの上で四つ這いになった山岡は、背後から河本に犯されていた。
 もう日が落ちているというのにカーテンが開けられたままで、硝子戸越しには向かいの住宅の灯りが点々と見える。ベランダの塀を挟んでいるとはいえ、外から覗こうと思えば見られてしまう環境だ。それが山岡を落ち着かなくさせていた。更にはズボンを寛げただけの河本に対し、自身は靴下以外の衣服を取り払われた間抜けな格好をさせられているという状態も山岡を辱めた。産毛を焼くような細やかな羞恥で感覚が一層鋭くなった山岡の喉から、抑えきれない甘い声が漏れる。
 だが、与えられているのは悦びばかりではなかった。山岡の陰部では、銀色に光る貞操帯が抽挿に合わせて揺れている。これが勃起を阻むだけでなく、陰茎の根元を戒めて射精を妨げているのだ。
「く、そっ、外せ」
山岡の精悍な顔が快楽と苦悶で歪む様は、河本を愉しませた。
「良い子にしてたら、な」
傷害で服役したものの社会復帰に失敗した山岡は、同郷のよしみとやらで河本に拾われた。世間では同居や同棲と称される関係だが、常にイニシアチブは河本にあり、山岡は彼の愛玩動物だった。河本は時折、彼を犬に例えた。それは、義に厚く真面目で勤勉という彼の美点を表すと同時に、負け犬であり雌犬になり下がった彼への揶揄を含んでいた。
「あっ、ぐぅ、ふ、はっ」
性器同様に開発されきった直腸を容赦無く穿たれ、山岡は声にならない悲鳴をあげる。潔癖めいたところがあった嘗ての山岡が、もしも今の自身の媚態を見れば、卒倒した事だろう。種を付けられる雌犬そのもののポーズで尻を突き出し、男に性器を抜き差しされて快感に喘ぐなど、屈辱で憤死しかねない。今の山岡とて屈辱を感じる事には変わりないが、人間社会に疲弊しきった彼は犬として従順に振る舞い可愛がられる事に歓びを見出してもいた。河本は、命令に従う事が出来た山岡を「良い子だ」と褒めるのだ。人間社会から置き去りにされた山岡にとって、河本の承認は酷く甘美だった。

 良い子と褒められる喜びの為に、多少の羞恥や屈辱を伴うものであろうと主人たる河本の命令に従ってしまう癖が、山岡に根付き始めていた。
 彼を戒める貞操帯とて、河本の提案で山岡自身が装着したものだった。今朝、出勤前の河本から留守中に独りで楽しまないようにと貞操帯を渡され、彼が見守る前で山岡自身が錠をしたのだ。無論、その時は主人が帰宅し次第解放されるものだとばかり思っていて、射精を塞き止められたまま犯される事は山岡の想定に無かった。しかし、こうなると予測していたとしても、山岡は彼の提案を受け入れていただろう。口こそ悪い山岡だが、身体はとうに従順な飼い犬だからだ。
「良い子だ」
河本は情事特有の掠れた声で唸った。山岡の中で河本の陰茎が脈打ち、直腸に精を放つ。良い子と承認された山岡は、自身の戒めが取られる事を期待し、無意識に強請るように尻を振った。排尿の為の貞操帯の穴から透明な我慢汁がぽたぽたと零れ落ち、フローリングを濡らす。
 だが河本は山岡の戒めを取らず、泥濘んだアナルから陰茎を引き抜いた。
「え、まだ俺……」
つい焦れてはしたない要求をしそうになった己に気付いた山岡は、耳を赤くして口を噤んだ。しかし、肛門から異物を排出するぬるりとした感覚に、山岡の背骨は甘く痺れ、はしたない吐息を漏らす。河本とは違って射精を許されず収まりの付いていない山岡は、充血した菊門をヒクつかせもじもじと身体を揺すった。
「ははは、良い眺めだ」
河本は山岡の無意識に揺れる尻を馬でも躾けるようにピシャリと叩いて我慢を促し、自身のジッパーを上げて格好を整える。それから一旦山岡から離れ、キッチンの食器棚を漁った。その間も、山岡は持て余した肉の疼きと不安を抱えつつ、尻を突き出したままの四つ這いの姿勢で待機させられた。

 河本が持ってきたのは、山岡の顔とほぼ同じサイズの丸い平皿だった。
「ここにケツん中のもん全部ひり出せたら、貞操帯を外してやる」
平皿が山岡の脚の間に置かれる。貞操帯からの解放は待ち望んだ事だが、その条件は山岡を戸惑わせた。両親からの躾が大変行き届いている山岡だ。尻からの排出物を食べ物を載せるべき物で受け止めるなど、悍ましい以外の何物でもなかった。
「いい加減にしろよ変態野郎」
拒否反応を見せる山岡だが、このまま貞操帯を取ってもらえなくなるのは恐ろしかった。解放されない欲が、腰に蟠っているようで苦しいのだ。この感覚がいつまでも続くのは嫌だ、と。山岡の頭が警鐘を鳴らす。排泄への嫌悪と貞操帯からの解放を天秤にかける山岡を、河本は黙って見つめていた。
「……へんたい」
貞操帯の鍵を弄ぶ河本に無言で見つめられると、山岡は強く出られない。山岡は俯いたまま、皿を跨いでしゃがみ込んだ。それを認めた河本は、いつもの声音で従順さを褒めた。畜生、と悪態を吐いて腹を括った山岡は、下腹に力を入れて息み始めた。

 ついさっき河本が放った精液が、ブリュリュと汚い湿った放屁のような音を立てて山岡の尻から出ていく。幸い性交の前に直腸は洗浄していた為に、この後に出てくるのはローションと腸液だけだったが、汚物特有の生臭さが鼻を衝いた。もうこの皿は二度と使えないだろうと思って、山岡は鼻を啜った。

 山岡のアナルに指を挿し入れて検分し、これ以上出ないであろう事を認めた河本は貞操帯を外しにかかった。しかし、解放を待ち侘びていた山岡に非情な命令が下る。
「まだ出すなよ」
そう言い添えて、貞操帯が外された。排泄を強要された事で股間の熱は少し萎えていたものの、ずっと我慢していた事には変わりないのだ。山岡は自らの陰茎を扱きたくて仕方が無かった。それは河本の眼にもよく分かるようで、イきたいかと揶揄うように問われれば、山岡は素直に頷く他に無かった。
「よし、たまにはこっちでイかせてやる」
素直に振る舞えた褒美だと言わんばかりに河本が山岡の陰茎を指先でひと撫でした。たったその程度の刺激で、刺激に飢えていた山岡はびくりと震える。散々辱められた直後では羞恥心も薄く、陰茎が河本の厚みのある掌に包まれる事を期待して腰を突き出した。長らく閉じ込められて蒸れていた陰茎の先端からカウパー液が滴る様は、餌を前にした犬の口のようにだらしがなかった。
「お前が動くんだよ」
すっかり触られる事を待っている山岡に、河本は厳しく言った。


 俯せに腕を肩幅より拳二つ分ほど外に開いて床に着かされ、山岡は河本に腕立てをするよう指示された。山岡の勃起した股間の下には河本の手が添えられており、肘を曲げてゆっくりと体を倒していく運動の中で陰茎を刺激しようという試みであった。
「こんなの、馬鹿じゃねえか」
その格好の滑稽さに反発する山岡だが、河本にもう一度貞操帯を付けてアナルを弄られたいのかと聞かれ、渋々腕立て伏せを行った。
「ンッ、〜〜ッ」
顎が床に擦れる程度まで身体を下げると、山岡の鬼頭が冷たいフローリングに押し当たり、雁首は河本の手に包まれる。彼の腰は発情期の獣さながらにカクカクと揺れ、彼の快楽の程を物語った。
「続けろ」
河本の非情な声に従い、山岡は快楽に戦慄く身体を抑え込んで、元の体勢に戻った。掌で地面を押して身体を上げれば、山岡の陰茎もゆっくりと河本の手を擦り抜けていく。その刺激も堪らず、力を抜けば腰だけ落ちてしまいそうな心地が山岡を襲った。
「もう好きなだけ射精していいぞ。だが、勝手に止めるなよ。20回出来たら褒めてやる」
河本は山岡が排泄したものが載ったままの平皿を彼の顔の真下に置き、ノルマを指定した。快楽に負けて山岡の体勢が崩れれば、鼻を衝く下品な香りに満ちた平皿に顔を付けてしまうだろう。それが命令を守れない悪い犬への罰なのだと悟った山岡は、主人の悪趣味さに唇を噛んだ。
 再び肘を曲げて身体を床に近付けていく山岡は、喘ぎ声を押し殺すように歯を食い締めた。
 けれど、自身の先端が河本の手に触れただけでも、口の端から唾液が落ちる。禁欲を美徳とする山岡の潔癖気味な意識を何処までも裏切って、その身体は淫蕩で容易く翻弄された。震える山岡の陰茎が河本の手の中を潜り、また亀頭が床に付く。
 山岡の陰嚢は重く張り詰め、痛い程に存在を主張していたが、射精は憚られた。許可はされているものの、射精して一層過敏になった恥部を苛まれながら腕立て伏せを継続するのは不可能だと悟っていたからだ。「勝手に止めるな」という命令がある以上、何とか20回耐える他に無いのだと山岡の理性が無意識に揺れる腰に鞭を打つ。
「グッうぅ、フ、ンゥ」
喉奥から苦しげな呻きを発しながら、山岡は腕の力で身体を押し上げた。全身を緊張させ射精の欲求と闘う山岡の姿に、河本が意地の悪さが透ける御機嫌な口調で問う。
「どうした。イって良いんだぞ」
分かっているくせに、と無茶な命令を出した張本人を詰ってやりたい山岡だが、それも叶わなかった。限界まで高められた射精欲に翻弄された口は戦慄くばかりで満足に啖呵の一つも切れはしない。中途半端に開いた彼の唇から銀糸が垂れ、床へと繋がるだけだった。

 「アッ!? ひ、やめっ、ああぁっ」
突如、山岡が陸に上げられた魚のように跳ね、素っ頓狂な声をあげた。大人しく命令を遂行しようとする山岡に、河本が悪戯を仕掛けたのだ。添えるだけだった筈の河本の手が山岡の陰茎を握り、にゅるりと扱いたのだ。不意の刺激に、山岡は堪らず粗相をしてしまった。
「あ、ああ」
力の無い声をあげ、射精の余韻に呆然とする山岡。上半身も脱力し、顔から腸液と精液の混じった排泄物が載る皿に崩れ落ちた。それに嫌悪すら抱く余裕も無く、我慢していた反動なのかへこへこと腰が揺れ続けていた。

 汚れた顔を拭おうという発想すら出ないまま呆けている山岡に、河本は苦笑してみせた。
「勝手にやめるなって、言ったろ」
言い付けを守れない犬には相応の躾が必要だと宣告する河本。いつまでも呆けている悪い犬のペニスに、また貞操帯が取り付けられた。
 負け犬の夜は長い。
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