「貴方の全てが」

【投稿原文「貴方の全てが」】

「大嫌い、貴方の全てが」
瞳は勝手に貴方を追う、心臓は苦しくなる、呼吸は不規則になる。声を聞くだけで脳が湯立って何も考えられなくなる。何もかもを奪われた気分。こんな不自由は初めてで、コントロール出来ない自分に苛立つ。他人に左右される自分に吐き気がする。
「早く、私を返して頂戴」



【改定「貴方の全てが」】

 他人に左右されるのは嫌いだ。窮屈で、自分が自分でなくなるようで。それに、他人なんて私が全てコントロール出来るわけでもない不確定要素ばかりの存在に私の行動を制限されるなんて余りに不利益で、不合理とすら感じる。
 なのに、気が付けば私の瞳は勝手に彼女を追って、彼女の一挙一動に一喜一憂している。彼女と眼が合うだけで簡単に心臓は脈打って、微笑まれれば紅潮する頬を隠すので精一杯になってまともに微笑み返す事も儘ならない。
 嬉しくても愛しくても悲しくても恋しくても、胸は箍を嵌められたように苦しくなる。彼女の事を考えた時、呼吸は苦しいほどに不規則になって、肺腑すら彼女に支配されてしまったかのよう。そもそも私はひと時でも彼女の事を考えないなんて事が出来ただろうか。何時から彼女の存在が意識に焼き付いたのかすら分からず、只々彼女に関する記憶を一番古いものから今朝の他愛無い会話まで繰り返し繰り返し思い返す事が日課となりつつある。
 何もかもを奪われた気分で、耐えられなかった。こんな不自由は初めてで、コントロール出来ない自分に苛立つ。他人に左右される自分に吐き気がする。
 第一、私はこんなにも苦しんで振り回されているというのに、彼女からすれば私なんて多数居る友達の内の一人に過ぎない。酷く不公平だ。私に笑いかけた顔と同じ表情で私の知らない誰かにも喋りかけるのだ。私にとって特別な彼女は私にとってどうでも良い他人の話をする。私は嫉妬する権利すら持ち得ない。
 「大嫌い、貴方の全てが」
遂に彼女に打ち明けてしまった。彼女は突然の告白に呆然として、形の良い唇を酸欠の金魚のようにはくはくと動かした。どうして。という形に動いたように思えたが、幸いにも声は聞こえなかった。この一方的な苦しみには彼女は共感しないだろうし、理解しろと言うのも酷な話かもしれない。なのに苦しみに耐えかねて口はこの苦悩の根源を罵り続ける。私が口を閉ざせば呆然としていた彼女は再び口を開いて、今度は声を出してどうしてと問うだろう。だから彼女が喋り出す前に私は全てを言い切らなければならない。そうしなくてはもう二度と私は私として生きられないに違いない。きっと私は彼女の声を聴けば舌の根も乾かぬ内に今の言葉を撤回して大好きだと愛を乞い許してくれと泣きわめかざるを得ないだろう。私は彼女の声を聞くだけで脳が湯立って何も考えられなくなるのだから。
 彼女に私の意識の全てが奪われて支配される前に、友としての立場を捨てて別れを告げなくてはならない。そして私が辛うじて私である内に、最後の要求をした。 
「早く、私を返して頂戴」
もう手遅れかもしれないけれど。



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