架空刑務作業

 本名で呼ばれなくなって数ヶ月、囚人番号114514として俺は新しい生活にも漸く慣れてきていた。


 俺は今のご時世では珍しくはない望んで服役した囚人だった。
 ホームレス仲間から「お兄ちゃん、そんなんじゃったら冬は死ぬんでないの」と言われて危機感を覚えた俺は、毎日確実に睡眠がとれて栄養のある飯が食えるであろう刑務所に世話になる事にしたのだ。服役手段は銀行強盗未遂だったが、元より成功させる気も無い犯行だったのでニュースにもならなかった。
 そんな訳で無事最低の貧困から脱却した俺は、刑務所で健康的で文化的な最低限度の生活を保障されて生きていく筈だった。

 ところが、この刑務所は不健全極まる淫獄だった。

 一等おかしいのは、刑務作業だ。
 服役前の俺のイメージでは、刑務作業というのは縫製や金工等の生産作業の仕事をしたり、調理師免許や情報処理技術科などの資格を取ったり、或いは社会貢献に繋がる作業をさせられるイメージだった。
 だが実際に俺達が行う刑務作業は玩具の試用及びモニタリングだった。ラジコンヘリを飛ばしたり人形遊びしたりをする訳ではない。大人の玩具の方だ。具体的にはオナホールとかディルドの類である。それらを決められた時間使用して、それらが確とコンセプト通りに性的快感を引き出せる製品であるか否かをモニタリングするのだ。
 正直、最初は非常にしんどかった。
 何が一番の苦痛だったかと言えば、玩具のバリエーションの多さである。チンコだけ扱いていれば良いというものではなく、尻の穴を穿り回したり、乳首を引っ張り回したり、尿道を弄り回したりされなくてはならなかった。
 一応、この刑務所にも服役して日の浅い者はコンセプトが初心者用となっている製品のテストに配属される程度の良心があった。だが俺は服役前から初心者ではなかったのである。初めてアナル用の玩具を試用する作業を行った時、細身のスティックを入れられてすぐに肛虐の悦楽に吐精した。同じ部屋で作業する受刑者はまだ尻の違和感に歯を食いしばるだけだったというのに、俺だけが子犬のような声をあげて悦がっていた。受刑者たちの唖然とした顔と刑務官の失笑に、俺一人が抜きん出て変態なのだと突きつけられた。
 俺は元々、自慰行為依存症だった。

 原因は多分、ストレスだ。ホームレスになる前の俺の生活はブラック企業勤務で、そこで発症した。
 事ある事に怒鳴り散らす上司や悪質なクレーマーに空返事をしながら、罵詈雑言から心を守るために官能的な事ばかり考えた。40時間以上不眠労働が続くと、疲れているのに股間が元気になってくる。どうしようもないので職場のトイレで自慰をした。射精する時に頭の中が空白になる数拍だけが癒しだった。
 社内での自慰はエスカレートして、尻にローターを仕込んだままクレームを処理してマゾヒスティックなシチュエーションを作ってみたり、眠気覚ましにセルフでスパンキングしたりもした。感染症が怖くて尿道には触れなかったが、それ以外なら大抵は経験済みだった。
 このままだと流石に人生が駄目になる。このままでは過労かテクノブレイクのどちらかで死ぬ。そう確信したが、どちらも嫌だったので逃げたした。
 職場から離れたら少しはマシだったのだ。相変わらず股間は元気になり易いが、尻を弄る癖は矯正されていたのに。久々の肛虐は酷く甘美だった。

 だがもう気に病む事は無い。
 此処では受刑者の殆どがアナルで絶頂できるし、当時は初心者だった同期の受刑者達も今では立派な玄人だ。


 そんな俺は今日も刑務作業に勤しむ。
 割り振られた作業部屋に9人の受刑者と3人の刑務官が集合し、本日もよろしくお願いしますと挨拶をする事から始まり、受刑者は当然のように全裸になった。時刻は朝8時である。これから昼食までの約4時間、受刑者は刑務作業の為に服を身に付けずに過ごす事が決まっている。点呼を終えると、腸内洗浄に不備が無いか点検するために壁に手を付く姿勢を取らされる。務官が受刑者一人一人の肛門を指で割り開いていく。隣で114513番が恥辱と緩い刺激に背を丸めて耐えながら点検されているのが横目で窺えた。他人が居る状態でプライベートな部分を晒す事に慣れるのは難しい。
 自分の番が来て、アナルに刑務官の指が侵入してきたのを感じた。薄いゴム手袋に覆われた指が容赦無く腸壁を掻き回して、隈なく調べられる。
「んあっ……ひんっあっあっあっ」
「静かにしなさい、114514番」
真面目な口調で咎める刑務官だが、執拗に指を出し入れしてくる。隣の奴よりもやたら手間をかけられていた。入所時の身体検査でも直腸内を調べられるが、こんなに執拗でいやらしい手付きではなかった。感じ易い身体を面白がられている事は明白だった。
「ごめん、なさ、あぁっ、〜〜〜〜ッ」
お前の所為だろ、なんて反抗すると反省不充分として懲罰を受ける可能性があるので、喘ぎながらでも一応は謝罪をする。刑務官はなおも指を出し入れし、喘き声を我慢させる事を楽しんでいるようだった。そして射精が出来そうになった直前で、ちゅぽっと指を引き抜かれる。刑務官は事務的に次の受刑者の点検へと移っていった。

 今日試用する製品のコンセプトは、既にアナルでのオナニーを愛好している男性を更に満足させられる電動前立腺マッサージャーだった。俺は射精間際まで弄ばれて放置された身体のまま、その説明を聞いた。最近は点検と称して散々尻を弄っておいて作業では一切触らないなどというハラスメントもあるので、今日は火照ったアナルを掻き回す事が約束されいると分かって少し安堵した。
 受刑者全員が商品名の伏せられたアナルバイブを一固ずつ受け取り、それぞれの座席に座る。座席は床に固定された肘掛椅子になっていて、立ったり寝たりした姿勢での使用を前提とした製品でない限りはここに座って試用を行うのだ。刑務官に悪戯に弄られてからペニスがずっと上を向いていて苦しいが、ローションを玩具に塗して準備を整える事に徹する。団子状の凹凸を持ったシャフトの卑猥な形を滑る手で確かめていく。シャフトは全体的に太くて、確かに初心者向きではない。根元のプラグ部分は会陰部にフィットして刺激を与えてくれそうな作りだった。表面がプニプニとしたシリコン製で触っていて気持ちが良く、期待感が高まってしまった。
 刑務官の合図に従って、周囲とタイミングを合わせてバイブを挿入する。職場の個室トイレでのオナニーが癖になっていた俺は、便座の上でも出来る椅子の上でしゃがみ込んだ窮屈な姿勢での挿入が楽だったが、この刑務所で肘掛に膝をかけて股を開くよう矯正されていた。そちらの方が製品の使用状態が確認し易いからだ。
「ああぁっ」
既にヒクついて刺激を待ちわびた肛門はそれを貪欲に飲み込んで、早くも快感を拾う。一旦プラグが会陰に付くまで挿入しただけで、前立腺をシャフトの頭に擦り上げられる。そういう設計を施された形と角度なのだろう、周囲の受刑者達も挿入してすぐに悶えていた。この作業では喘ぎ声を我慢しなくて良いので、口を半開きにしたままスイッチも居れていない状態で味わった。
「はぁっ、ん、いい……」
扱く事を許されない陰茎の先から、カウパーがだらだらと零れた。
「何が良いんだ」
刑務官の一人が寄って来て尋ねてくる。モニタリングであるからには、使用状態を具体的に記録する必要がある。喘ぐ事を許されている分、こういった恥ずかしい質問にも答えなくてはならない。
「形が、イイとこにっあたって……ふとくて、前立腺、食い込んで」
気持ちいい。良い所を自分で喋る事で、暗示にかかったみたいに感覚が増していく。刑務官はふむと頷いてメモを取る。おしゃぶりを咥える子供のようにバイブに吸い付くアナルを刑務官が一瞥する。尻の肉が締まって、とろとろと精液が出た。
「114514番、射精」
すかさず刑務官が報告する。広くない部屋全体に伝わるには充分だった。俺はいつも誰より早く達してしまうので恥ずかしかった。早漏というよりも、事前に執拗に弄ってくる刑務官側に問題があるのだが。
「114514番、早くスイッチを入れなさい」
そう言うが早いか、リモコンを奪われる。
「あ!?あっあっ、だめ、つよいっ! 止め、やっ」
突然バイブを起動され、俺は狼狽えた。射精したばかりで過敏になっているというのに、前傾したシャフトが前立腺を無慈悲に刺激する。さっき刑務官側に問題があると内心毒づいたのを察せられてしまったのかもしれない。刑務官はバイブの振動に喘ぐ俺の言葉をメモしている暫くの間、リモコンを返してくれなかった。

 「114518番、射精」
右後ろの方から二人目の射精が報告され、やっと刑務官は俺にリモコンを返して全体の監視に戻る。慌ててリモコンを引っ掴んでバイブを止めてから、リモコン操作を確認する。振動の強さが3段階とシャフトのスイング機能もあるらしい。あの刑務官が勝手に設定したのは中間の強さの振動だったらしく、最も激しい段階ではなかった事に驚く。あの力強いバイブレーションを思い出してしまい、腰が甘く疼いた。あの刺激を求めて、そっとバイブの設定を中に合わせる。
「んっ、す、すごぃ」
前立腺をダイレクトに捉えられ、力強い振動が襲ってきた。ハードな圧迫感に前立腺を揉み込まれて、思わず尻が揺れる。まだ中なのだと自身に言い聞かせながら、力の篭る爪先を意識的に緩める。フッフッと荒い息を吐いて、身体が刺激に親しむよう努めた。

 「ぅお、イイですっ! スイングさせると、指でっ、グ、グリグリしてる感じが……」
真後ろの114517番が状態を報告させられているようだった。ハスキーな彼の喘ぎ声が一層強く聞こえてくる。
「おっおっ、イぐぅ……前立腺グリグリさいこお……」
刑務官が特にしつこく聞かなくとも実況を怠らない彼はこの刑務所では模範囚だった。真後ろからの悦楽を訴え続ける切ない声に煽られて、俺も一層快楽を貪る。間も無く刑務官による114517番の射精が報告された。

 誰もが恥も外聞も無く、他人の監視下で腰を振って射精する。同じ玩具で喘がされているという共感が自慰への罪悪感を消してしまう。残るのは快楽を貪ろうとする浅ましい欲求と、より強い刺激への好奇心だった。

 ひと呼吸して、リモコンのバイブ設定を強にする。
「ヒィッ!しゅごっ、むり、ぁあっ」
玩具が暴れ出した瞬間、俺は背を逸らして悲鳴をあげた。一度射精した筈の陰茎が、また痛い程に硬く張り詰める。激しく、余りに正確にイイところを力強く突いてくるのが逸そ恐ろしかった。
「らめっ、らめっ、やらあぁ〜〜!」
滑舌すら怪しく拒絶の言葉を吐く口とは裏腹に、右手でスイングをオンにして更なる刺激で自身を追い込む。このバイブの凶悪さが、俺の歪んだ後天性のマゾヒズムを擽ったのだ。本当にグリグリされているみたいなスイングだった。シャフトが太いので、指でされていると言うよりも性器で突かれているみたいだと思った。そうだ、俺は無機物に犯されている。そう感じた瞬間から理性は全面降伏を認めた。あまりの刺激に舌が引っ込まなくなって、犬のように涎が首元まで濡らす。腹筋が痙攣する腹や勃ちっぱなしの陰茎を無防備に晒す負け犬だった。尻を突き出して、バイブに支配されるままになる。イってしまう。そう呻いている心地だったが、スイングに合わせて意味を成さない子音と母音が口から漏れ出るだけだった。
「114514番、射精」
そう言われて自身のペニスが間欠泉のように精を放っている事に気付く。まだイっている感覚が続いていて、絶頂に終わりが見えなかった。絶頂の最中の肉壁を、無機質なバイブが苛み続ける。そうして次々と生まれる快楽の波が、押し寄せて引いていかない。頭がチカチカした。
 だが玩具を止める事はしなかった。もっと蹂躙されていたいとすら思った。脚がガクガク震えて椅子から落ちそうなので、両手で背もたれを掴んで椅子にしがみ付くしかなかった。好き勝手にうねるバイブを括約筋で食い締めて、無様に薄い精液を撒き散らす。

 暴れるバイブに翻弄されて、まるで此方が玩具になったようだった。


 暫く前立腺を掻き回される感覚に酔っていたが、突然バイブが静止した。
 刑務官にリモコンを取られてバイブを切られたのだ。しかも、そのままリモコンを持っていかれてしまった。
「んんっ、なんれぇ……?」
急に刺激が止んで、酷いもどかしさに駆られて脚を擦り合わせる。太いシャフトは入れているだけで良いところに当たりはするが、大きな刺激の後では到底物足りない。動かないバイブを手で動かして刺激を得ようとプラグに手を伸ばしたところで、部屋の雰囲気がおかしい事に気付いた。

 左前に座る114510番だけが異様に喘いでいた。他の者はバイブの試用を止めて青褪めた顔で彼を見ているだけだった。
「あああああぁぁ、だずげでぇぇっ、も無理っ、止まんな、やだっやだああぁぁ!」
アナルの疼きを忘れて、中途半端に引き出したバイブをそのままに手を止めて114510番を見遣る。彼はパニックを起こして泣き叫んでいた。
「114510番、大人しくしなさい」
刑務官は宥めようとするが、その声は彼に届かない。こうなった理由には察しが付いた。接続不良だ。リモコンでの操作が出来なくなり、止める事が出来ない過度な刺激にパニックを起こしたのだ。
 俺達の試用する製品はまだ開発段階である。だから、そういった事故はたまに起きるのだ。俺も経験したことがあるので、他人事として見る事が出来なかった。
「今バイブを抜く。大人しく脚を開きなさい」
望まない強過ぎる刺激から逃れようと身を捩る114510番の脚は只管に宙を蹴っていた。動けば動く程中のバイブも動くのだが、そんな事を考えられる余裕はとうに無くなっているのだろう。
「やだ、もっやだ、ゆるじでっう、あぁあっだずげでえぇえ!! ゆるじでぇえ」
刑務官が2人がかりで彼のバタつく脚を両側から抑える事に成功していたが、脚を掴まれた事に動揺した114510番のは刑務官に殺されると言わんばかりの悲鳴を上げた。
「あ、こらっ」
3人目の刑務官が肛門に手を伸ばしてバイブを引き抜くと同時に、114510番は失禁した。俺の位置からは椅子が邪魔になって見えなかったが、水の音が聞こえ続けた。啜り泣く114510番の声も混じっていた。

 部屋に立ち込めるアンモニアの臭い。泣き止まない114510番は刑務官の一人に抱えられて医務室に送られたが、全員が物音を立てるのを躊躇った。
「……製品を回収する」
刑務官が指示を出した事で、予定時間より早く作業が切り上げられた。

 今回の製品は相当気持ちが良かったが、実用化にはまだ時間がかかりそうだと思った。
 肛門の縁に引っかかっていただけだったバイブを引き抜いて、不燃物として回収する。労務作業は清掃によって終わる。汗や精液で汚れた椅子を拭き、尿や精液で濡れた床を掃除して、やっと身体を清めて服を着る事が許されるのである。
 そうこうしている内に、結局は通常通りの作業終了時刻となってしまった。
「ありがとうございました」
学生時代のように声を揃えて挨拶をするのが決まりだった。刑務官も頷いて、お決まりの挨拶を返す。
「午後の刑務作業に備え、昼食後は各自で浣腸を済ませておくように」
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