問題のある性生活

 椿法寺財閥の若き当主、椿法寺 実篤は、結婚半年にして倦怠期を迎えていた。すっかりセックスレスである。

 その上、妻の浮気を知ってしまい、彼は情けなさでどうにかなりそうだった。
 不貞を糾弾したい気持ちは勿論あるが、彼は妻に強く出られない。二人は所謂政略であり、紡績業で名を上げた彼女の実家による後ろ盾は傾きかけた椿法寺財閥を若すぎる実篤が纏める為には必要不可欠だからだ。対等の関係があろうと、妻に結婚して間もない期間で不貞を働かれるなど、表沙汰に出来はしない。由緒ある財閥の嫡男が、良い笑い種である。
 だから実篤は無力感をぐっと堪えて、何にも気付かなかったふりを続けるつもりだった。妻の相手が、自身の執事だと知るまでは。

 「お言葉ですが、私は坊ちゃんの下手糞なセックスに御不満な奥方が欲求不満を他所に出さぬよう、椿法寺家の為に尽力したのみに御座います」
執事を自分の書斎に呼びつけて早速糾弾した実篤だが、慇懃無礼な反論に面を食らった。
「坊ちゃんの未熟な性技より、まだメイドの手マンの方がまともだと零しておりましたよ。私はそんな情けの無いセックスを教えたつもりはなかったのですが」
「そ、そんな事は……」
執事は、実篤が成人した今も主人を坊ちゃんと呼ぶ。思春期を迎える前からこの執事に面倒を見られていた実篤は、彼に口で敵った事が無い。執事を問い詰めるつもりが、逆に責め立てられている。
「どんな情け無いセックスをなさったのか、実演なさってくださいますね?」
有無を言わせぬ執事の双眸が、若い主人を貫いた。実篤は主人という立場でありながら、彼の命令に逆らえた試しなど無かった。


 実篤は執事の瞬き一つ無い視線を受けながら、おずおずとスラックスと下着を下ろした。
 下着の下には、貞操帯が付いている。実篤はそれを異常だと思ったことは無い。由緒ある家系の嫡男とは皆こうなのだと教えられていたからだ。自慰を覚えて以来、寝巻きから着替える際に執事が局部を清めて貞操帯を装着するのが当たり前だと思わされていた。
 だから実篤が排泄や性交をする際には、まず執事を呼んで鍵を開けてもらうところから始まらなくてはならない。実のところ、それが夫婦間の亀裂の原因の一つでもあったのだが、それを実篤に教えてやる者など居ない。
「あぁ……っ」
貞操帯から開放される感覚に、実篤は思わず声をあげる。貞操帯は勃起を許さないペニスゲージだけではなく、アナルプラグとも一体になっていた。ペニスを使った自慰は元より、肛門を使った自慰も防ぐ為である。しかし、体勢次第では前立腺に届く長さと太さに設計されたプラグは、不必要に実篤の性感を煽っては苦しめていた。
「しゃんと立ちなさい。ほら、さっさと奥方になさった事をコレで再現してください」
アナルからプラグを排泄する感覚に背筋が粟立つ実篤の恍惚を見咎める。執事が用意したのは、透明なシリコン製の貫通式オナホールだった。

 羞恥にまごつく実篤の尻を叩いて、執事がオナホール相手のセックスを促す。
「痛っ、や、やる、やるから……」
実篤は今にも泣きそうな顔で陰茎を手で擦って軽く勃たせ、執事が握るオナホールの口に陰茎を宛がう。実篤のペニスは立派とは言い難いが、思春期に執事によって強制的に剥かれ、裏筋を切って育ちやすくさせていたお陰か、日本人の平均をやや上回る長さを持っていた。
「御婦人の膣にいきなりお邪魔したのですか? 睦言も、愛撫も無しに?」
執事の呆れ返った声に、実篤の肩が強張る。
「いや、事前に……クンニを、多少……」
俯いて返答する実篤は、耳まで赤かった。何故こんなにも赤裸々に根掘り葉掘り聞かれなくてはならないのか。その悔しさと恥かしさに、涙腺が熱を持ち始めていた。
「そうですか。まあ、今日は良しとしましょう」
「ああっ」
執事がオナホールを持つ手を動かして、実篤のペニスを一息に肉厚なゴムの中へと収めた。久しいペニスへの刺激に、実篤の腰が跳ねる。膣を模したシリコンが、適度な弾力を持って竿に吸い付く。その感覚だけで、実篤は鼻にかかった吐息を漏らした。
 冷徹な執事の視線に促されて、実篤は惨めにも腰を前後させた。透明のシリコンゴムから、抜き差しされる赤黒いペニスがよく見えた。
「る、留美さん……お綺麗です、きもちい、ですか……あっ、うう……留美さん……」
情事の最中に妻へと送った言葉も、切れ切れに紡ぐ。随分前の記憶を強引に引っ張り出した再現劇は、ぎこちない上に下手糞だ。先走りで粘りのある水音を奏で始めると、実篤の羞恥心は一層傷付けられた。それでも陰茎は着々とに硬く張り詰め、熱く脈動していた。
 実際の妻とは違う、体温のない穴を相手に交尾を試みる様子は滑稽極まる。そんな自身の醜態を理解しながらも、実篤は小さな尻に笑窪を作って懸命に腰を打ち付けた。
 余りの惨めさに、この時間が早く終わってほしいと考えるのは自然な事だった。それにつられて、抽挿が早くなっていく。
「ふ、ふっ、イく、留美さん、イきます……」
此処には居ない妻の名を呼んで射精を宣言する実篤。

 けれど、射精は叶わなかった。執事にオナホールを取り上げられ、陰茎の根元を握られ射精を塞き止められ、実篤は虐待された子犬のような声を上げた。
「いけません。椿法寺財閥のお世継ぎをお作りになる為の大切な子種です。再現と言えど、無駄打ちは許されませんよ」
「ああっ、そんな……」
パンパンに張った睾丸を疼かせ、実篤は悶えた。射精寸前まで昇り詰めたにも関わらず開放を許されないもどかしさに、腰を震わせて不規則な浅い息を吐く。
「御自分で我慢なされないのなら、栓を致しましょう」
執事の白い手袋に包まれた手が、容赦無く実篤の尿道に金属製の太い棒を宛がう。表面は滑らかだが、球を連ねた形のそれは尿道を塞ぐには充分な太さを持っていた。そして、ただの栓と称するには不必要に長かった。それに尿道を押し広げられて前立腺まで小突かれるのを想像して、実篤は必死に首を振る。
「それっ、だめっ、いやっああああっ」
実篤の抵抗も虚しく、銀色の球の連なりがズブズブと入っていった。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……ゆるして……」
射精を覚えたばかりの頃、実篤は自慰をする度に仕置きと称してこの執事に尿道を躾けられていた。実篤はそこで射精を妨げられたまま快感を拾う事を覚えこまされていた。同時に、強烈な快感の苦しさも十二分に知っていた。その記憶が思い起こされて、実篤は退行気味に舌足らずな口調で謝った。何に謝罪しているのかは、彼自身も分ってはいない。朱に染まった眦から、涙が伝っていた。
「椿法寺財閥の当主がそのように情けない口を利いてはなりません」
執事が叱咤するように、尿道に挿した棒を抜き差しして前立腺を前方からノックする。実篤の薄い腹筋が、暴力的なまでに鮮烈な快楽で痙攣する。それは最早痛みに近かった。その刺激に負けてまた情けない謝罪の言葉を漏らした実篤は、再び折檻を受ける羽目になった。


 膝を躍らせてしゃがみ込もうとする実篤の腰を掴んで、執事は彼を強引に立たせた。
「坊ちゃんの性技は眼も当てられぬ程に拙い事がよく分かりました」
これでは奥方に同情します、と執事は言い切った。尿道を塞がれたままの陰茎に再びオナホールを被せ、実篤の尻を叩く。
「奥方を悦ばせる腰振りを練習なさいましょう。勿論、これから毎晩私が教えて差し上げます」
執事はそう言うや否や、主人の肛門を割り開いて自らの陰茎を挿入した。
「ひぎぁあっ!?」
常日頃からアナルプラグを食んでいるそこは従順に広がって執事を受け入れたが、実篤の精神的衝撃は計り知れない。主人のものよりも格段に太く長い執事の陰茎が、無機物しか受け入れた事のなかった直腸を暴く。その熱に実篤は引き攣った声を上げる事しか出来なかった。
「ほら、私の腰使いを覚えてください。出来ますね?」
最初はゆっくり、と執事は緩慢に陰茎を引き抜いては押し入れてを繰り返す。エラの張った亀頭を肛門の入り口付近に擦り付けられる感覚に慄く実篤。奥まで陰茎が入れば、圧迫感と会陰に下生えが押し当たる生々しさに息を呑む事しか出来やしない。更には執事の腰に動かされる形で実篤の腰も前後し、栓をされたままの陰茎がオナホールの中で蹂躙される始末。
「ああーっ、い、嫌っ、悦い、いいっいぃっ」
オナホールとの擬似交尾を強要されると同時に、執事に女にされる。前も後ろも滅茶苦茶で、実篤の中で混沌とした快楽が爆ぜる。硬く熱い陰茎に前立腺を的確に責められて、オナホールに出口を塞がれたペニスを扱かれて、食い縛った歯の隙からだらしの無い嬌声がひっきりなしに漏れる。執事の巧みな腰使いは、時に焦らすようであり追い詰めるようですらあった。
「腰が引けていては奥様を満足させられませんよ。さあ坊ちゃん、頑張って」
執事は革靴を鳴らし、更に腰を打ち付ける。形の良い亀頭に前立腺を小刻みにノックされる度、実篤は射精を伴わない絶頂を迎えた。筋肉の収縮に伴って、アナルが激しく蠕動してペニスに一層吸い付けば、より強い快感が絶頂中の身体を襲う。
「やら、も、やら、よすぎてばかになる、ちんちんばかになるっ」
射精させてくれと実篤は高貴さの欠片も無い声で執事に哀願しながら、何度もドライオーガズムを迎えた。
 とうとう実篤は気を失うまで尿道を開放しては貰えなかった。


 気を失ったまま身体を清められ、実篤は眠りに付かされた。その翌朝には何事も無かったかのような澄まし顔をした執事に定刻通りに起こされ、何時も通り貞操帯を付けられて日常へと戻される。
 相変わらず、妻は実篤と眼も合わせぬ倦怠期ぶりで、執事は妻の相手を辞退する事もなかった。然したる変化といえば、妻は執事以外にもメイドや庭師にも手を出していると実篤の耳に届いたくらいである。

 しかし、やはり執事は宣言通り、この日から毎晩実篤に性交の「練習」を課すようになったのだった。
「いいっちんちんすき……悦いっあああっおしり悦い……」
妻との性交以外では射精を封じられた実篤は、執事に後背位で貫かれながら陰茎を扱かれる。白痴のように涎を垂らし、尻を穿られる快楽に酔うようになっていた。
「坊ちゃん、早くあの阿婆擦れと世継ぎを作ってくださいね。坊ちゃんに似た、可愛くて頭の足りない淫乱な子をお願いしますよ」
前後不覚のまま絶頂に身を委ねる実篤に、耳元で囁く執事の言葉は届かなかった。廊下で聞き耳を立てるメイド達だけが、椿法寺財閥がこの男に乗っ取られるのも時間の問題だろうとクスクス笑い合っていた。



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