架空体力育成

 体操着に着替えた美しい男子生徒達が、予鈴に急かされるように体育館へ集まっていく。

 窓の無い体育館には、スポーツジムもかくやという台数のフィットネスバイクが置かれており、生徒達はそのマシンを見遣って苦虫を噛み潰したような顔をした。
「今週から持久走? 最悪じゃん」
「勘弁してよ。俺、アレが一番嫌なんだけど」
生徒達は、顰めた顔を見合わせる。二年生ともなれば、授業前に出ている機材と季節で大体の授業内容の察しは付くのだ。殊に、嫌だった記憶は格別鮮明である。
「軍曹のヤツ、冬は走らせときゃいいって思ってない?」
「別に冬が寒いのは娑婆だけだろ」
冬といえど、性奴隷を養成する学園は生徒を常に裸同然で過ごさせるため、常に空調が整っている。屋外に見える運動場も、空はドーム状の天井に季節や時間に合わせた空模様を映し出しているに過ぎない。北風とは無縁の彼等だった。よって当然、走って温まろう等という考えも無い。
 そも、彼等の体力育成とは、性の奴隷として満足に振舞う為の体力と身体技能を養成する科目であった。彼等の体操着は、季節を問わず白い半袖と紺色のブルマのみ。薄くタイトな布地は、身体の形を余すところ無く伝えようとする意匠が露骨に淫靡である。
「マジで走らせんの好きだよね。真性サディストってああいう奴だよ。ウチのご主人様のがまだ可愛く見えるね」
「さらっと惚気入れるな」
しかし、既に少なくとも一年以上は学園で躾けられている彼等である。抵抗する気力もとうに手折られているので、結局は教員の悪口を言い合うだけで脱走を試みる者もなかった。
「惚気ってか、奴隷の鎖自慢だよな」
あーあ、と小石を蹴る真似をして、生徒達は各自でストレッチを始めた。ある者は屈伸から始め、ある者は伸脚、ある者は膝回しと、順番は違えど態度は皆そこそこ真面目だった。
 彼等は身体が資本なので、怪我をするのは勿論、体力が無いと見なされる事も不利だと承知しているからだ。
 そして何より、彼らは体育教師からの懲罰を恐れていた。
 

 本鈴と共に、軍曹と呼ばれた体育教師が体育館に入室した。
 本名は鬼頭。まだ二十台後半の若さだが、授業内容とは無関係な竹刀を持参する前時代的な装備であった。これが体罰として生徒の身体に振り下ろされた事はないが、筋肉で張り詰めた身体は暴力など行使せずとも充分に威圧的である。故に渾名は軍曹であるが、皆内心では鬼軍曹と呼んでいた。

 彼が入室した瞬間、体育館の空気が張り詰める。
 面倒臭さそうにだれていた生徒達の背筋が伸び、誰に言われずとも自然に四列横隊に並んだ。
「気をつけ!」
日直であったアキオは、今日一番の声を張って号令をかけた。やる気が無いと思われるのがおっかないのだ。教員の中で一番屈強な鬼頭は、風紀委員の顧問と生活指導を担当している事も相俟って、生活態度にも厳しい。教員も陰で鬼軍曹と呼ぶ程である。
「お願いします!」
生徒達が唱和して、一斉に頭を下げた。集団行動は体育の基本である。

 鬼頭はよく響く声で挨拶を返すと、生徒に準備体操をするよう号令を出した。
「前立腺をほぐす運動ー!」
無論、生徒達が各自でやっていたストレッチは、授業前に終わっていて当然という扱いなのである。
 号令を受けた奇数列の生徒は、馬跳びの馬役のように膝に手を付いて尻を突き出した。偶数列の生徒は、目の前にいる生徒の尻に手をかけ、ブルマをずらすと事務的な手付きでアナルに指を挿し入れた。
「いち、に、さん、し。に、に、さん、し……」
四拍数える毎に挿入する指を増やされ、奇数列の生徒は鼻から甘い息を漏らした。淫靡に躾けられた彼等の身体は、尻の穴を広げられるだけも堪らない快楽を拾うようになっているのだ。ブルマに覆われたままの陰茎が勃起し、布地を濡らし始めていた。しかし、たかが準備体操で達しているようでは授業の五十分間を乗り切れない。それを身に染みて理解している生徒達は、誰に言われるまででもなく耐え忍んだ。

 やがて鬼頭が交代の指示を出し、偶数列の生徒が尻を出す。気数列の生徒はブルマを直して、自分がされたように相手のアナルをほぐす側に回った。
 他人の排泄器官を触る事への抵抗感など、この学園に送られれば一ヶ月と経たずに問題でなくなってしまう。彼らは教官が指示を出せば、今すぐ尻に顔を埋めてアナルに舌を入れる事もできた。皆、体育の前にはそれくらい想定して念入りに直腸を洗浄するし、大抵は主人や来賓客などのもっと汚らしい部分を舐めさせられた経験もあるからだ。


 皆の肛門が程良く開いた所で、鬼頭は準備体操終了の号令をかけ、本時の授業を説明した。
「出てるマシンで察してはいるだろうが、今週から持久走だ。各自ディルドを持ってバイクのサドルに設置したら跨れ。まずは一分間走を行う」

 鬼頭は、生徒の人数分のディルドが入った籠を床に置くと、当たり前のように説明した。性奴隷の技能と体力を育成する科目で行うのが、世間一般の持久走と同じである筈も無いのだ。
 生徒たちも今更異常性に怯える程のおぼこさはなく、黙って指示に従っている。ディルドをサドルに取り付ける手腕も、慣れたものだ。
「ふうぅっ……んン……」
ディルドに腰を下ろす時だけ、事務的ではない声が各所からあがった。

 アキオも、感じ過ぎないよう慎重に腰を下ろした。ガニ股に両足を開いてブルマをずらし、身体の中心にゆっくりディルドを受け入れる。
「ん、んぅっ」
快楽を得ることが当たり前になった膨満感に、思わず背が反った。解された肛門は、硬く太い異物を難なく受け入れ、正中線から歓喜で溶けていきそうなジンとする背骨の戦慄きを与えた。前立腺が圧迫されると、言い知れぬ多幸感が押し寄せる。
 それはどの生徒も同じようで、腹に玩具を収め終えた者は皆、何処となくとろりとした眼をしていた。既に腰を好き勝手に動かして、より深い愉悦を貪っている者も居た。

 鬼頭はサドルに跨り終えた生徒から、彼等の足をペダルに固定していった。
 これは落下防止の安全装置である反面、マシンから逃れられなくする拘束でもあった。
 鬼頭に脚を引っ張られる時、重心がずれて尻に食んだディルドの位置が変わって、アキオは思わず嬌声をあげた。ブルマの中で既に固くなっているペニスが、布を突っ張らせて主張する。しかし、この学園の敷地内において男性器を触って慰める事は、校則によって原則禁止されていた。アキオはもどかしい思いに鼻を鳴らしながら、マシンのハンドルを握る事で耐えた。


 全員の脚をペダルに固定し終えた鬼頭は、手持ちのリモコンでマシンを一斉起動させた。フィットネスバイクのハンドル中央に付いたパネルに、心拍数と走行時間と走行距離の項目が表示される。
「まずは一分間。目標は二百メートル到達だ。気張れ!」
鬼頭のホイッスルの音を合図に、生徒達は一斉にペダルに体重をかけた。

 一分間で二百メートルといえば、中高生女子の持久走の平均よりやや遅い速度である。ペダルも重くなってはおらず、寧ろささやかな体重移動で簡単に回るものだった。殆どが男子高校生と変わらぬ年齢の生徒達には、決して早い速度は要求されていないのだ。
 ぐずぐずに蕩けた尻に、ディルドを食んでいなければ。
 このディルドが、ペダルの動きと連動して上下運動をしなければ。

 生徒達は、フィットネスバイクの仕掛けにたちまち嬌声をあげた。
 ペダルに体重をかければ、その分身体が沈んでディルドに体重が掛かる。逆の脚を踏み出す為に腿の筋肉に力を入れれば、大殿筋が異物を強く食む。身体の重心が変わる度、ディルドが左右に動く感覚がする。その上、ペダルの運動に合わせてディルド自体が上下して、長いストロークで悦い部分を擦り上げていく。どう動いても、快感から逃れられないのだ。
「ひぃンっ、ああっ……ひぁッ、んンッ」
アキオはハンドルに縋り付くようにペダルを回すも、前立腺を何往復も機械的に擦られて堪らなかった。執拗に追い詰められた身体は、膝が踊って止まりたくても止まれない。仮に停止が叶ったとしても教官の鬼頭がそれを許さないだろうが、各所から「止まって」と泣き言が聞こえ始めるのに三十秒と掛からなかった。

 アキオも、停止を願いながらブルマに精液を零した。
 達した後もペダルは回る。寧ろ辛いのは、一度達してより感覚が過敏になってからだった。媚びるように収縮を繰り返す肉壁をディルドが緩慢に往復し、しこった前立腺を潰すように上下運動を繰り返す。腰が逃げるように跳ねるも、ペダルに捕まって引き戻される。その度に新たな刺激を感じて、舌を突き出して喘いでいた。
「あひっ、ィああっ、あん、あぁンっ」
気付けばアキオは、射精を伴わない絶頂をも迎えていた。恥知らずな声を止められないまま、髪を振り乱して身をくねらせていた。口から滴る唾液は、薄い体操着を胸元までしとどに濡らす程だった。濡れて張り付いた体操着は、ピンと勃った乳首を透けさせている。それすらも、快感だった。身体の至る所が敏感で、火照りが止まらない。


 鬼頭が終了のホイッスルを吹く頃には、皆ぐったりと疲れ果てていた。
 リモコンの遠隔操作でペダルの回転が強制的に止められ、漸くまともな呼吸にありつけた。触りもしていない股間を汁濡れにしたまま、生徒達は荒い呼吸を繰り返す。自身の心音が、耳元で鳴っているかのように煩かった。
 たかが一分が、凄まじく長い時間に感じていた。生徒達は皆、パネルの心拍数路確認するまでもなく、恐ろしい運動強度である事を確信していた。毎冬行われている種目だと信じたくない程のハードさである。

 鬼頭は彼等に一分間程の休憩を与えた後、厳しい声音で講評した。
「この中で二百メートルを越えたものは、たった二人だけだった」
生徒の中で、一人は誇らしげに顔を上げ、一人は恥ずかしそうに俯いた。因みに、アキオの走行距離は百メートルに届いていなかったが、隣の生徒もそんなものである。アキオとしては、目標値を越えられる生徒の方が規格外なのである。しかし、そんな感想が態度に出てしまえば間違いなく鬼頭の怒りを買うので、彼は目を伏せるだけに留めた。
「出来損ない共にコツを教えてやれ」
鬼頭が、誇らしげな方の生徒の肩を叩いて発言権を与えた。疲労困憊ではあるものの優等生然とした態度でと胸を張った彼は、ツグミといった。初等部から躾を受けている、謂わば性奴隷のエリートなのだった。
「イくと上手に漕げなくなってしまうので、頑張って我慢しました。イってしまった後も全力で漕ぎ続けるのがコツです」
精神論のみしか語らないツグミだが、鬼頭は大いに頷いた。鬼頭の反応からして、この答えで正解なのだろう。そう察した生徒達は、ツグミに疎らな拍手を送った。


 鬼頭は、目標記録に及ばなかった生徒達に、鋭く喝を入れた。
「いいか出来損ない共! お前等は奴隷だ。奉仕者だ。 主人をその身体で悦ばせる義務がある! 主人が満足なさるまで奉仕を続ける義務がある! 手前がイったら満足して終わりだなんてだらしない真似が許されるものか!」
その予行演習こそが本時の持久走であると、鬼頭は授業の意義を明らかにした。
 鬼頭は、嫌という程に生徒達の身分を強調してくる。その醜悪な身分を受け入れ、屈辱に馴染むことこそが生徒にとって最良であると心から信じさせようとしてくる。それが何より恐ろしく、悍ましかった。

 鬼頭が、床に竹刀を強かに打ち付けた。
「アクメしていようが泡を吹いていようが、命令の遂行は絶対だ。忠犬らしく、全力で目標に食らいつけ!」
恫喝。しかし、鬼頭が命令調で喋れば、生徒達は半ば反射的に軍隊じみた大声で返事をする。

 鬼頭は厳しい。目標に達しなかった生徒が大多数であったことも、決して許しはしない。
「では今から一分間、ペダルを強制的に時速十二キロで動かす。二百メートル走行できる速さを感覚で覚えろ。イきながら動く感覚に慣れろ! アクメの只中でも奉仕を忘れるな!」
生徒達が、また軍隊じみた返事をする。ここで泣いたり反抗したりしても鬼頭の授業は終わってはくれないと、彼らは既に知っている。その諦観が、彼らの従順さを作り上げていた。

 パネルに一分間のカウントが表示され、生徒達の脚を括り付けたペダルが回り始める。
 自分のペースで漕ぐのとは余りにも違う、容赦の無い責め苦。

 いっそ乱暴過ぎて性感から遠退くように思われたが、幸か不幸か彼等の身体は激しく乱雑な抽挿にすら感じるよう開発されている。寧ろ、物のように荒々しく扱われている事実に欲情するよう精神まで躾られている者も少なくはない。
「ふぎぃいいっ、はひっ、はひィっ」
最早アクメを我慢するどころではなく、アキオは舌を突き出して喘いだ。汗みずくの額に前髪を貼り付け、真っ赤な顔で頭を振る。しかし無情にも、二十秒程度での絶頂を迎えた。仰け反ったまま全身を痙攣させ、ブルマに覆われた尻に深い笑窪を作って射精する。既に汁濡れのブルマの内側に精液が広がる感覚すら、恍惚の一因だった。
「おっ、イぎ、おほ!? おっ、ぉお゛ッ、ぁがっ、ィギュッ、イぐぅ! イっでうっ、ウッ、ほぁッ! ま、またっ!? イッイグッ」
 射精の倦怠感や冷静さは訪れない。勃起の硬度が衰えても、身体も脳も快楽を追うのを止められない。頭が真っ白になったまま、思考ができなくなったまま、絶え間無い性感を追うだけの生き物に成り果てている。絶頂の波が引かず、身体は既に次のアクメを始めようとしている。
 まるで女のイき方だ。アキオはその感覚をこの学園でメスイキと教えられていた。男性性を毀損された代わりに、犯される側として順応させられた成果である。
「そうだ! 皆、連続アクメが板についてきている。上手いぞ!」
犬に様に喘ぐ生徒達に、鬼頭が満足気に声をかける。生徒達は、その称賛に喜んだり反感を持ったりする暇すらなくアクメしていた。残りの時間を確かめる事も、体力を温存しようなどと小賢しい発想に至る事もない。ある者は潮を噴き、ある者は失禁し、ある者は悲鳴じみた大声で喘ぎ続けている。


 やがて、少年たちの尻の間で粘液を泡立たせながら激しく動いていたディルドが、緩やかに停止する。

 突如訪れた肛門のもの寂しさに、生徒達は漸く自身の脚に固定されていたペダルが停止している事に気付いた。永遠とも思われた責め苦は、パネルに表示された走行時間と走行距離を見れば僅かなものだったと思い知らされる。
「では、十分間の休憩を取る。次は自力で一分間漕いでもらう。次こそは目標に到達できるようにしろ」
アキオは肩を上下させ、額をハンドルに乗せる体勢で休んだ。正気に引き戻されると、身体が泥のように重かった。もう無理だと言いたかったが、鬼頭が恐ろしくて誰も口を開かなかった。そも、喘ぎ疲れた彼等には、まともな声を出せる自信もなかった。
「走行距離が目標の六割に達しなかった者は成績劣等として後日補習を受けてもらう。今の内に練習したい者は自分でパネルを操作して走って良いこととする。なお、水分を補給したい者は今の内にフィットネスバイクを降りても構わない」
補習と聞いて、生徒達が肩を震わせる。鬼頭も怖いが、主人に不出来な奴隷として見限られるのが何より怖いのだ。主人のいない生徒も、成績劣等だと評価される事は買い手が付かなくなる事に直結するので、成績は大事だった。主人のいない状態で卒業を迎えれば、今の扱いが天国に思える程の悪夢が待っている事は間違いないのだから。

 性奴隷のエリートたるツグミは、呼吸を整えると、徐にペダルを回し始めた。
 精通を経験したばかりの頃からそう在れとしつけられた少年は、そこらの生徒とは出来が違うのだ。既に目標を達成しているにも関わらず、更なる高みを目指して研鑽を怠らない。人権の概念を無視した歪んだ教育に思春期をまるまる轢き潰された彼には、そうする事に疑問すら覚えない。
 けれど、大半の生徒は違う。絶望的な面持ちでサドルに跨ったまま、憂鬱な溜息を吐くばかりである。命令された以上の事はやりたくないのだ。
 アキオも項垂れたまま、身体を休める事に終始していた。胎の中で存在を主張するディルドの硬さを意識から追い出して、浅い呼吸を繰り返す。喉は乾いていたが、酷使されたアナルからディルドを引き抜いて床に降り立つ気力が無かったのである。それが出来るなら、補習を回避するための体力を温存したかった。


 「おや、持久走。冬の風物詩だね」
 体育館の戸が開いて、仕立ての良い三つ揃えのスーツを纏った中年男性が顔を出した。体形は腹回りがややだらしないが、健康そうな肌艶をしており、服や装飾品に品があった。この人こそが、学園の理事長である。
「お疲れ様です!」
竹刀片手に体育館を闊歩していた鬼頭は、ザッと擬音が付きそうな勢いで姿勢を正すと、竹刀を脇に置いて慇懃な挨拶をした。腰の角度はほぼ直角であった。体育会系の男は、上下関係に厳格なのである。
「今は休憩中かね」
「はいっ」
「若い子等の元気な姿は、私達の励みになるね」
「はいっ」
鬼頭の返事は、短くも威勢が良い。忠犬そのもの態度であった。理事長が全く逆の事を言っていても同じように返事をするのではないかと思わせる程だった。

 理事長の訪れに、主人のいない生徒達がざわめく。
 管理職の教員が授業中に顔を出す時は、生徒の購入を検討している客に授業風景を見学させたい時が主だからだ。それも理事長ともなれば、繁忙期でなければ相当な上客に違いない。生徒達が期待のあまり落ち着きをなくすのも、無理からぬ事だった。
「今日は私用で来ただけだよ。少々、催してね」
しかし理事長は、期待の眼差しで見つめてくる生徒達に首を振った。ごめんね、と言う口調は穏やかで、口元には困ったような人好きのする笑みが浮かんでいる。優しいおじさんといった印象すら与える男だが、決してそんな事はない。この男こそが、青少年に性技を仕込んではペットのように売り捌く人身売買機関の長なのだ。
「鬼頭君にアナを貸りに来たんだ」
「はいっ」

 理事長は、さも当たり前のように言った。
 鬼頭の返答も、やはり短くも威勢の良い自我を感じさせない忠犬の返事のみ。

 鬼頭は、要件を告げた理事長に何も聞き返しはせず、間髪入れずに自身の運動着のズボンを下げた。
 露出したのは筋肉で張り詰めた若々しい下半身であったが、下着は初めから付けていなかったようで、股間はゲージ型の貞操帯だけが主張していた。勃起すら儘ならないであろう窮屈さで、檻の中に赤黒い大人のペニスが惨めに収まっているのだ。
「それでは、この鬼頭めがご主人様のお召し物を寛げる事をお許しください」
許可が出るなり鬼頭は跪いて、理事長の股間に顔を埋めると、恭しく歯でチャックを引き下ろした。理事長の使い込まれたペニスが顔を出す。

 これには、休憩中だった生徒達も思わず息を呑んだ。
 よもや、生徒を折檻し、躾ける立場の鬼頭が、服の下では管理される側の格好をしていたとは。陰では鬼軍曹と呼ばれている恐ろしい男が、こうも遜って奉仕するとは。

 鬼頭は、理事長の性器に頬ずりをすると、鼻から深く息を吸った。蒸れた雄の匂いを肺いっぱいに吸い込んで、恍惚の表情。生徒からの視線などまるで意に介さず、鼻の下を伸ばして濃厚なフェラチオに励む。涎が滴る事も、陰毛を食む事も、鬼頭は気にしない。下品な音を立てて、陰嚢にまで舌を這わせていた。その念入りさといえば、脈打つ血管の一筋すら愛しているのではないかと思わせる熱烈さだった。
 その一方で、鬼頭の手は自身の菊門に伸びていた。自らの指で縦割れ気味のアナルを広げ、男を受け入れる準備をしていた。その手慣れた所作は、一朝一夕のものでない事は誰の目にも明らかだった。
 こちらこそが、鬼頭の本性なのだ。

 仁王立ちのまま鬼頭に陰茎をしゃぶらせている理事長は、慈しみ深い表情で目を細めていた。
「ああ、懐かしいね。十年ほど前までは、鬼頭君も彼等のように教えられる立場だったというのに」
もっとも君は当時から優秀だったけれど、と理事長が鬼頭の過去を事も無げに明かす。鬼頭の返事は無い。ジュポッ! ジュポッ! と下品な音を立てて陰茎をしゃぶり倒すのみであった。しかし、自らの喉奥を虐め抜くイラマチオは、この学園が生徒に教える技巧そのもの。鬼頭に性の奴隷として学園で仕込まれていた過去があった事を、何より雄弁に証明していた。

 理事長が許しを出して初めて、鬼頭は初めて顔を上げる。
 脂肪の無い頬は酸欠で赤らんで、嘔吐反射を耐えに耐えた眼はやや潤んでいた。生徒達にとっては鋼の鬼軍曹でも、彼を従わせる立場の男にとっては鬼頭もまた可愛い雌犬なのだ。
「コレがあんまり優秀なものだから当時の扶養者に無理を言って譲ってもらったんだが、いつ思い返しても英断だった。正にセックスのエリート。ここの教員としても、この上ない人材だった。ああ……そうだね、鬼頭君。君の模範セックスを見学させてあげなさい」
鬼頭はやはり全力の肯定しか意味しない短い返事を繰り出した。即答であった。

 鬼頭は衣服を畳んで床に置くと、その上に理事長が座るよう案内した。
 裸に靴下と貞操帯だけ纏った鬼頭の姿は自ら広げた縦割れアナルが丸見えで滑稽ですらあったが、エスコートする彼の所作そのものは至って丁寧で、恭順さに満ちていた。
「失礼ながら、この卑しいケツマンコに理事長のおチンポ様を頂戴したく存じます!」
衣服を座布団代わりに胡坐をかいた理事長に向かって、車に轢かれた蛙のような姿勢で肛門を開帳した鬼頭が伺う。しかし、理事長はすぐに許可を出したりはしない。理事長の陰茎は鬼頭の熱烈な奉仕の成果によって既に完全な勃起を果たしていたが、生徒達のように性欲に急かされる年でもないのだ。
「うむ。よく解している」
「はいっこの十年、毎朝の洗浄と拡張を欠かした事はありません」
鬼頭の所持品であった竹刀を手に取った理事長は、彼の菊門を突付いて広がり具合を執拗に確認した。竹刀の先が尻の割れ目を辿ってツプと穴に入れば、鬼頭の逞しい腿が僅かに震えた。六つに割れた左右対称の腹筋が波打ち、物欲しげに肛門が開閉する。
「他には?」
「本日は朝会前に善立泉教諭と二ツ巴教諭にも使っていただきました」
「結構結構。お陰で生徒に手を出す不届き者も減って助かっているよ」
生徒達は教員達の爛れた性事情を垣間見てしまい、気拙そうに目を伏せた。しかし、鬼頭の鍛えられた身体から発せられる声は、喘ぎ声であっても大きく、生徒達の耳によく届く。
「そうだ、授業後には獣姦訓練用の犬達の世話も頼むよ。用務員の搾精だけじゃ手に負えんらしく、畜舎が煩くて敵わん」
「はいっ承知いたしました……ァアッ、学園の、ン、備品、管理はッぉおお任せ、くださいッ、必ずやァアッ……犬共からッザーメンを絞り尽くし、アアッ、大人しく、ンォッ、させましょう!」
鬼頭は理事長に直腸を竹刀で蹂躙されて喘ぎながらも、力強く答えた。剣先に付けられた白い先革は、完全に粘膜の中に潜っている。硬い棒に前立腺を突かれて、鬼頭は悩ましく眉を寄せて熱い息を吐く。
 その顔には屈辱ではなく、恍惚ばかりが浮かんでいた。彼の大胸筋の外側に押しやられがちな乳首は硬く尖り、勃つ事も叶わないペニスは貞操帯のゲージの中で我慢汁を滴らせている。
 この浅ましさと従順さを両立した心身は、鬼頭が行う体力育成の教育目標そのものだった。


 理事長が漸く許可を出せば、鬼頭は飛び起きて理事長の勃起に跨った。
 頭の後ろで両手を組んだ無防備極まる姿勢で鬼頭が腰を落とせば、逞しい大臀筋に覆われた尻に決して細くないペニスが易々と飲み込まれていく。鬼頭は喉仏の目立つ喉を反らして愉悦の声を漏らしたが、挿入の余韻に浸る間を作らず大胆な抽挿を開始した。主人に腰を振る手間すら取らせない、フル・スクワットによる上下運動だ。ペニスを深々と咥えた蹲踞の姿勢から、背筋を垂直に保ったまま雁首がアナルの縁ぎりぎりに引っかかる程度に腰を持ち上げ、また深々と腰を落とす。鬼頭の尻が理事長の股座に付く度に、バチュン! バチュン! と肉を打つ音が響く。
 その長いストロークでありながら素早い所作の繰り返しの合間合間に、鬼頭は荒く甘い息を吐く。歯を食い締めていないと今にも快楽に蕩けてしまいそうな、淫蕩な顔だった。鬼軍曹と呼ばれるに相応しい鋭い眼光を湛えていた双眸は、最早焦点を不確かにして潤んでいる。実際、直腸を立派な陰茎に擦られるのが悦くて仕方がないのだ。そう仕込まれきった身体なのだ。亀頭が前立腺を圧迫する度、鬼頭は勃起すら禁じられた身でアクメした。瞳孔の開ききった瞳がぐるりと上を向いて白眼を剥きかけるので、実に分かりやすく無様な絶頂だった。
 しかしそれでも、鬼頭は自らが行う上下運動を一切緩めなかった。それこそが彼が模範と称される所以である。
 多くの生徒達がアクメにかまけてフィットネスバイクすら満足に漕げなかったにも関わらず、鬼頭は能動的に自らを絶頂の縁に追い込む事を躊躇いも無く遂行し、尚且つ奉仕の手も決して緩めない。主人に体重を預ける事すらよしとしないストイックさと鍛え抜かれた肉体によって、アクメの只中でも体勢を維持している。

 貞操帯から情けなく汁を垂らしながらも、何度もアクメで白眼を剥きながらも、鬼頭は絶え間無く運動を続ける。自慰を覚えたばかりの中学生がオナホールを動かすのと変わらぬ速度で、熱い腸壁のうねる肉壺が陰茎を包んだまま上下する。絶頂を繰り返す彼自身と規則的な運動を続ける足腰は、まるで別の指揮系統で動いているようだった。無私の奉仕を体現した、あまりに従順過ぎる人格不詳の動きだった。食い縛った歯の隙間から唾液を垂れ流す鬼頭の頭には、奉仕の悦楽だけがある。
 鬼頭は自身をモノとして扱う事に抵抗が無いどころか、優秀なオナホールである事に誇りすら感じているのだ。
 そして何より、鬼頭はそう在る事に幸福を感じていた。性奴隷として、そう感じるべきであると信じているのだ。
 鬼頭は、奴隷として完全に屈服し愛玩及び愛用される事が、本当に幸せだと思っているのだ。

 鬼頭は、生徒達にもこの幸せを得てほしいと思っている。だからこそのスパルタなのだ。


 生徒達が本来与えられていた休憩時間をやや過ぎた頃、理事長は陶然とした呻き声をあげて射精に至った。
 鬼頭は膝を中途半端な角度に曲げたまま、理事長が射精の余韻を処理するのを待機していた。鬼頭の大腿筋の張り詰めた脚は生まれたての草食動物のように震えていたが、結局彼は両手を頭の後ろに回した姿勢を崩す事はなかった。
「いかんな。年々射精が遅くなる」
鬼頭が腰を上げると、精液と腸液でぬらりと光るペニスが大気にさらされた。理事長が中年特有の自虐を零す間、鬼頭は何を言われずとも自らの舌と喉で彼の陰茎を清める。そのフェラチオは、男性の自尊心を擽ってやまない恭しさと熱量があった。こうされては、本当に男性器へコンプレックスを抱いていたとしても、鬼頭の前ではどうでも良くなってしまうだろう。鬼頭の優秀さは、アナルによる奉仕だけではなく、その精神性に及ぶ。
「そういえば、一部では君を鬼軍曹と呼ぶんだって? 全く、可愛い鬼も居たものだ」

 結局、鬼頭の貞操帯は一度も開けられず、鬼頭自身は射精の一滴も許されぬままであった。それは、鬼頭に男としての機能も人権も認められていない事を意味すると同時に、陰茎など性器としてはとっくに用済みである事を示していた。


 理事長は鬼頭の頭を撫でてから、彼を授業に戻した。
 鬼頭は中に出された精液を零さぬよう尻を引き締めたまま服を着て、腸液で先端を湿らせた竹刀を拾い上げ、教員の顔に戻っていく。生徒達は不本意な出歯亀の時間が終わった事を悟り、フィットネスバイクに跨り直す。生徒達には、鬼頭の切り替えの早さと二面性が嫌に恐ろしかった。
 しかし一等恐ろしいのは、やはり彼の思想である。
「いいか。 お前等は奴隷だ。奉仕者だ。 主人をその身体で悦ばせる義務がある! 主人が満足なさるまで奉仕を続ける義務がある! アクメしていようが泡を吹いていようが、貴様の都合など二の次だ! 忠犬らしく、全力で目標に食らいつけ!」
はいっ、と生徒達が体育系の返事を唱和する。ホンモノを見せられては、僅かに残っていた反抗心も萎れるというものだ。ある意味、鬼頭の模範セックスを見せつけた理事長の教育は正しかったと言えよう。
 生徒たちは啜り泣きながら、ペダルを回し続けた。

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